インフレ目標の死 by Jeffrey Frankel

ジェフリー・フランケルのブログから、The Death of Inflation Targeting(May 23rd, 2012)。ハーバードのフランケル先生が名目GDP目標政策支持を明確になさっていると聞いて緊急翻訳。語訳はどうかご指摘ください。


残念なお知らせですが、インフレ目標は亡くなっていました。「IT」という愛称で知られていたこの金融レジームは、2008年9月に死の宣告を受けたのです。今までITの死が公式に発表されていないことから、これは中央銀行の旗印として優秀であったこと、とって代わる金融政策の名目アンカーの良い候補が見つかっていないことを示しています。

インフレ目標は1990年3月にニュージーランドで誕生しました。その透明性と説明しやすさから母国をはじめ、すぐにカナダ、オーストラリア、英国、スウェーデン、イスラエルでも成功を収めました。その後ラテンアメリカ(ブラジル、チリ、メキシコ、コロンビア、ペルー)や他の開発途上国(南アフリカ、韓国、インドネシア、タイ、トルコをはじめ)でも人気となっていきました。

ITが名目アンカーの王者としてこれほど広く受け入れられた理由の一つは、1990年代の通貨危機における、前王者、為替レート目標の失敗でした。多くの国々において為替レートペッグは投機的な攻撃により致命的に敗北したのです。専門家たちは、人々の金融政策への期待の新しいアンカーを必要としていました。ITはちょうどその時登場したのです。

ところで為替レート目標が君臨する前、1980代の初頭の流行はマネタリストのミルトン・フリードマンが考案したマネーサプライ目標でした。このマネーサプライルールは暴力的なマネー需要ショックの前に早々と敗北しました。フリードマンは低いインフレへのコミットを信任させるために裁量よりルールという議論を打ち立てたのですが、インフレ率は非常に高いままだったのです。

インフレ目標は、中央銀行が消費者物価指数(CPI)の年次の変化に目標範囲を設定し、これを達成するために最善を尽くすというルールだとして知られていました。物価水準目標(率ではなく水準を目標とする)、コアインフレ率(生鮮食料品とエネルギー価格が除かれる)目標は近い親戚でした。

フレキシブルインフレ目標を擁護する人もいました。長期の明確なCPI目標があるなれいしかし、ITの定義をそこまで拡張すると元の意味が失われると感じる人々もいました。

とにかく、この4年間インフレ目標にはすさまじい逆風が吹いています。ちょうど1990年代の為替レート目標と同じように。その最大の敗北は2008年9月でしょう。ITに信を置いていた中央銀行が資産バブルに十分な注意を払っていなかったことがはっきりしました。

中央銀行家たち自身は、住宅価格と資産価格には物価上昇率の情報が含まれているから十分検討していたし、できる限り注意を払っていたと弁明します。しかし「世界金融危機が襲ったとき、少なくとも過去を振り返ってみれば2003-06の金融政策は緩和的過ぎていた」という弁明が成り立たないことははっきりしています。その前も後もインフレ率は上昇しなかったのですから。

インフレなき景気循環が起こりうるということは驚くには当たりません。1929の米国、1990年の日本、1997年のタイおよび韓国の資本市場で資産バブルが崩壊した時にも同じことが起こりました。そしてこうしたクラッシュの後の悪影響は金融緩和で打ち消すことができるというグリーンスパンの希望は、2008-09の大不況によって誤りだったことが証明されました。
インフレ目標の最大の欠陥とはおそらく資産バブルに反応できないことですが、ほかにも供給ショックおよび交易条件ショックに対して不適切に応じてしまうことも重要な欠点です。輸出コモディティの価格が世界的に上昇する時には、中央銀行は引き締めで通貨を切り上げた方が経済は健全です。しかしCPI目標では逆に、輸入コモディティの価格が上昇した時に通貨を切り上げよという。交易条件の悪化を調節することの、ちょうど逆をしろと言うのです。

たとえば、世界が1930年代以降で最悪の不況に滑り落ちそうになっていた2008年7月に、欧州中央銀行が金利を引き上げる謎の決定をしたのには広く疑問の声が上がっていますが、そのとき原油価格は歴史的高値に到達していたのでした。原油価格はCPIの中でかなりのウエイトを占めます。従って、原油ドル価格が上昇した時にCPIを安定化させようとすると対ドル切り上げになってしまうのです。

最近ブログ界では、ある有力候補が次の名目アンカーとして熱狂的な支持を集めている。名目GDP目標です。この考えは新しいものではありません。1980年代のマネーサプライ目標の持っていた貨幣循環速度に対する脆弱性を修正したものとして、その後継候補とされてきていたものです。

これまで名目GDP目標が採用されたことはありません。しかし今、それは帰ってきました。この賛同者たちが指摘するように、これにはインフレ目標が持っている負の供給ショックに対して引き締め過ぎてしまう問題がありません。名目GDP目標は需要を安定化させます。それこそが金融政策に求められるすべてのことです。(負の供給ショックは自動的にインフと実質GDPに分割されますが、ということは、裁量的な中央銀行でもこれを行うということになります)

ダークホース的候補なのが生産者物価目標です。これは消費者物価指数よりも生産者物価指数を安定化させようというもので、インフレ目標が交易条件悪化のショックに逆に対応してしまう問題を解消しています。名目GDP目標や生産者物価目標の支持者が口をそろえて主張するのは、中央銀行がコントロールできない供給ショックや交易条件ショックに直面したときでも、ITが生活費を安定化するだろうとの間違った印象を大衆に与えることがあるということです。

ITは遠い祖先である金本位制よりも先に逝きました。金本位制に帰れという変わった人たちもいますが、ほとんどの人はこの遺跡には平和に引退していただき、古き若き日々を思い出すだけにしてほしいと思っているのですけれど。

  • http://twitter.com/tomokazutomokaz 夜はやさし

    わかりやすい翻訳ありがとうございます。

    >長期の明確なCPI目標があるなれいしかし
    がミスタイプだと思います。

  • http://twitter.com/tomokazutomokaz 夜はやさし

    「名目アンカー」というのは一つの経済用語なんだね。例えば、その一つがインフレターゲットだったと。
    「名目経済活動の指標」という意味らしい。「名目」は「名目GDP目標」の名目と同じ意味。
    「名目の錨」と全部訳す場合もあるが、普通はこのままらしい。