ジョージ・ウィリアム・ダンホフ「陰謀は存在しない:陰謀論のよくある5つのパターン」

陰謀を企んだエリートが秘密の野望を成就するためにアメリカを裏側から支配している、と多くの人が信じているようだ。陰謀とは、例えば、秘密の少数集団が政府システムを変えようと企んでいるとか、国を世界政府のコントロール下に置こうとしている、といったものだ。過去には、潜伏した共産主義シンパ達が、ソ連と結託した世界共同政府の支配下にアメリカを置こうとしている、と陰謀論者たちは主張していた。しかし1991年にソ連が崩壊したことで、この考えは説得力を失った。そこで、ほとんどの陰謀論者は、「新しい世界秩序」の支配勢力としてもっともらしい国連に関心を集中させた。この国連陰謀論は、国連の無力さや、アメリカの権力構造においては穏健派でさえも国連に限定的な任務しか与えてようとしていないので、論拠薄弱になっている。

もっと小規模の陰謀論者は、CIA内に配置された秘密の工作員グループが、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺を含む、1960年代以降多くの恐ろしい惨事や暗殺に関わってきたと考えている。

陰謀論的な見解の問題点

陰謀論的な見解は、権力構造についての一般的な知見と相反することになっており、いくつもの問題点を抱え込んでいる。

まず第一に、陰謀論では、一握りの裕福で高学歴の人達が、権力に対して極端な心理的欲求を何らかの形で肥大させ、自身の課せられたであろう役割から逸脱した目的に自らを誘導している、と仮定されている。例えば、「金持ちの資本家はもはや利益を上げることに関心はなく、統一世界政府を作ろうとしている」とか、「選出された公職従事者は、独裁的に権力を掌握するするために、憲法を停止しようとしている」といったものだ。こういった主張は、何十年も前から行われており、今度こそ本当にそうなる、といつも言われているが、決して実現しない。この手の主張は、誤っていることが何十回も実証されてきた以上、指導者層は、例えば、利益の追求に突き動かされているとか、選出された公職従事者としての制度的な役割に従っているといった、よくある動機で行動していると考えるのが合理的である。当然のことながら、指導者たちはできる限りお金を稼ぎたいと思っていたり、毎回大差で当選したいと考えてたりしており、そのことは彼らに多くの不正を行わせることになるが、世界統一政府を作ろうとしたり、憲法を停止しようとするようなことは行わない。

第二に、陰謀論では、影に潜んだ指導者達は非常に頭が良く、多くを知っていることが前提になっている。しかしながら、指導者層は社会的背景や制度的な役割によって思考が制限されているため、しばしば近視眼的だったり、誤った判断を行うことが、社会科学や歴史学の研究によって明らかにされている。ケネディ政権期にCIAがピッグス湾で失敗したような、こういった〔社会的背景・制度的〕制限が愚かな失敗として顕わになると、陰謀論者達は、「指導者が一般市民を騙すためにわざと失敗したのだ」と主張することになる。

第三に、陰謀論では、わずか数十人程度の(大抵は一人の強力なリーダーによって指導されている)人々が権力を掌握しているとされている。しかしながら、富裕層の家族は何百万にも及ぶため、指導者層は数千のグループから構成されていると、権力を研究する社会学者は主張している。さらに、社会学的観点では、最上位の下のグループや階層が様々な方法でシステムを黙認し、それをサポートしていることが示されている。例えば、医者、法律家、学者といった高度な訓練を受けた専門家は、自身の生活をかなりコントロールし、豊かな生活を送り、通常は仕事を楽しんでいるので、政治的な権力はあまり保持していないにもかかわらず、システムに従うことになる。

第四に、陰謀論では、奇想天外で壮大な考えを持った利口な専門家(「頭でっかちのインテリ」)が、傀儡のボスの思考を操作しているとしばしば想定されている。しかしながら、政策決定に関する研究では、専門家は指導者によって設定された価値観や目標の文脈の中で働いており、専門家がコンセンサスから逸脱した場合は無視されたり、挿げ替えられることになる(これは、「アイツは、あまりに抽象的になった」とか、「アイツは異常な理想主義者になってしまった」といった言い回しや、あるいは「アイツは“アカ”になっちまった」のような率直な言い回しに象徴されている)。

最後に、陰謀論では、不法な政権交代や暗殺計画は、長期間秘密にしておくことができると想定されている。しかしながら、米国における秘密団体や秘匿された計画は、人権擁護団体によって発見され、記者や政府関係者によって潜入調査され、マスコミに報道されていることが、あらゆる証拠によって示されている。戦争やCIA活動の秘密(ベトナム、コントラ、2003年にブッシュがイラクを侵略した根拠)でさえも、即座に衆人監視に曝されることになっている。マッキンリー、フランク・D・ルーズベルト、ジョン・F・ケネディ、キング牧師、ロバート・F・ケネディ、レーガン等の米国における暗殺・暗殺未遂事件は、いかなる権力集団とも関係がない個人の犯行だった。

陰謀論者が根底に置くあらゆる仮定は、歴史的な出来事やメディアの暴露が行われてもその信用が毀損することはないので、陰謀論はあらゆる論点において一切信用できない。もし企業による支配が存在するとすれば、その支配は、企業コミュニティ内、政策立案ネットワーク内、政府内の可視化された地位にいる指導者を通じて行われることになる。もし階級支配が存在するとすれば、社会科学者が示してきた他の階層・水準における社会経済システムの活動実態と同じ平凡なプロセスを通じて行われることになる。

政府の不法活動について

陰謀は存在しないが、政府関係者は時に不法行為を行ったり、国民を欺こうとすることがある。例えば、1960年代には、政府指導者たちは、ベトナム戦争は容易に勝利を収められると主張したが、〔裏では〕これが事実でないことを知っていた。1980年代には、レーガン政権は、ニカラグアの反政府勢力への支援策(“コントラ”)が議会によって否決された為、海外から反政府勢力へ資金を供給する複雑なスキームを迂回実行した。この計画には、金銭と人質を引き換えに、イランへの違法な武器の横流しも含まれていた。しかしながら、詐欺や違法行為は、すぐでないにしても、歴史的記録によって後々に明らかになるのが常である。

ベトナム戦争における不正の場合、1971年にペンタゴン・ペーパーズと呼ばれる政府文書が秘密流出したことで(ベトナム戦争の真の状況が暴露され)、政府は巨大な疑惑に晒され、より多くの国民が戦争に反対することになった。またこれがきっかけとなり、ホワイト・ハウスではリークを防ぐための秘密作戦(“プランバーズ〔配管工〕”)が計画されることとなった。この計画に従って、ホワイトハウスは1972年の選挙時には民主党本部に不法侵入し、〔作戦が露見したことで〕高官がこの作戦を承認したことの隠匿を試み、さらに弾劾告発を受けてリチャード・ニクソン大統領は辞任することなった。レーガン政権の不法活動に関しては、議会の公聴会で広く取り上げれることなっている。この公聴会の結果、大統領府の国家安全保証問題補佐官が隠蔽工作に関与したして6ヵ月の禁固刑を言い渡されたほか、他の数人に対しては司法妨害や議会への嘘証言を罪として有罪判決または有罪答弁を受けることとなった。国防長官は隠蔽工作に加担したとして起訴されたが、1992年のクリスマスイブにジョージ・H・W・ブッシュ大統領から恩赦を受け、裁判を免れている。

CIAがスパイ活動、破壊工作、外国政府の違法な転覆に関与してきたことや、FBIがマルクス主義の第3政党、公民権運動、クー・クラックス・クランをスパイし、妨害しようとしていたことも事実だ。しかしながら、念入りな研究によると、これらの活動はすべて政府高官が承認したことが明らかになっている。これは決定的に重要な要点である。違法活動に従事していたり、政府高官が国民を欺いたり社会活動を妨害するように命令を行っているような「秘密の一団」や「影の組織」は存在しなかったのである。このような特徴は、権力に関するあらゆる社会学理論と陰謀論とを区別するために極めて重要だ。

外交問題評議会(CFR)1 に関する主張

陰謀論者の多くが、米国における陰謀の中心にいると主張しているのが外交問題評議会だ。外交問題評議会の実態は、単なる政策討論の場にすぎない。約3000人の会員がおり、これは、集団内で秘密を留めておくには人数が多すぎる。CFRは、討議グループや、討論会や、講演を主催しているだけである。秘密主義からはほど遠く、年次報告書を発行し、歴史アーカイブへのアクセスを許可している。CFRに関する歴史研究は、CFRはその全体的な権力構造において、陰謀論者によって主張されているものとは、まったく異なる役割を果たしてきたことを示している。(一例としては、本サイトの「第二次世界大戦後、企業富裕層とCFRは、“なぜ”そして“どのように”グローバル経済を再構築したのか」参照されたし。)

さらなる情報

陰謀論に関する私のインタビューへの回答は、以下を参照。

他の情報源へのリンクを含め、陰謀論についての詳細は、PublicEye.orgの陰謀論についての部門を参照されたし。特にチップ・バレットの「虚弱な世界認識としての陰謀論」という素晴らしい論文がある。

初投稿 2005年3月

  1. 訳注:機関紙『フォーリン・アフェアーズ』で有名なシンクタンク。歴代大統領が関わったことからも、ビルダーバーグ会議と並んで、陰謀論者が世界支配している機関としてよく名を挙げる組織である。 []

カール・W. スミス「MMTと主流派の“New View(新しい見解)”は共に『財政赤字を恐れるなかれ』と議会に参加する」(2019年11月21日)

経済学者、財政赤字を恐れるなかれと議会に参加する 2つの経済学派が新興しており、共に財政赤字の拡大を支持している―しかしながらまったく異なった理由に基づいている Economists Join Congress in N


ローレンス・サマーズ「今後の経済で金融政策がマクロ経済安定化の第一手段となるかは疑わしい」(2019年8月22日)

ジャクソンホールにおいて、経済学者はある主要な問題に取り組んでいる:中央銀行は、我々が知っているような、今後10年間の産業界におけるマクロ経済安定化の第一手段になり得るだろうか? 後に発表するAnna Stansbury


サッチャー時代はこう見えた by ウォーレン・モズラー(2013年4月10日)

モズラーブログより。 ケルトン祭りで一部で盛り上がったKestrelさんのネタ。 『70〜80年代のスタグフレーション鎮圧にはボルガーの裏にカーターの存在がある。カーターは天然ガスの規制緩和を進めた結果として、それが石油


来日記念!「ステファニー・ケルトンはワシントン最大のアイデアを持つ」

こちらです! ttps://www.huffpost.com/entry/stephanie-kelton-economy-washington_n_5afee5eae4b0463cdba15121 ステファニー・ケルト


MMT Primer発売記念! L・ランダル・レイ:「日本はMMTをやっているか?」

出ましたね。 MMT現代貨幣理論入門(amazon) というわけで。 http://neweconomicperspectives.org/2019/06/japan-does-mmt.html 最近、世界の政策決定エリ


「MMTがいわゆるインフレ目標政策や中央銀行の独立を支持しない理由」by スコット・フルワイラー他 

しばしば「独立した中央銀行に総需要管理を委ねるべきではない、という」という主張がMMTからはしばしばなされます。 それはなぜか? この点、はっきり日本語で紹介されたものが少ないように感じられるので一つご紹介。 https


ピーター・コイ, カティア・ドミトリエワ, マシュー・ベスラー「ウォーレン・バフェットはそれを嫌う。AOCはそれを支持する。初心者のための現代貨幣理論(MMT)入門」(2019年3月21日)

Warren Buffett Hates It. AOC Is for It. A Beginner’s Guide to Modern Monetary Theory Peter Coy, Katia Dmitriev


MMT(現代金融理論)のエッセンス! ウオーレン・モズラー「命取りに無邪気な嘘 6/7」

この文書の原文の説明および、ガルブレイス教授による序言はこちら   これまでの目次 嘘1:政府は支出するために、まず税金や借入によって資金を調達しなければならない。 あるいは、政府支出は、徴税能力と借入能力に制


MMT、もっと詳しく!(豪州投資家向けサイトから 2019年4月14日)

オーストラリアの投資サービス会社の方(ポートフォリオ・マネージャー)が、投資家向けサイトでMMTの紹介を始めています。日本ではありえないクオリティで、おもわず。。。 後半は来月とのこと。お楽しみに! TTPS://WWW