NHK NEWSLINE:ノーベル賞受賞者クリス・シムズへのインタビュー

以下は、こちらの翻訳になります。


ノーベル賞を受賞している経済学者が再び脚光を浴びている。クリストファー・シムズは広く受け入れられている主張に挑戦しようとしている。注目を浴びたのは、世界中の中央銀行家が集まる去年のジャクソン・ホールでの彼のスピーチだ。彼は、利子率が低い時、もしくはマイナスになると、金融緩和だけではインフレを押し上げるのに十分ではないかもしれないと主張した。そして、彼の理論は世界中、特にここ日本の政策立案者たちを興奮させている。

NHK Worldの櫻井玲子がシムズの東京訪問の際に、彼の理論とアベノミクスが持つ意味合いに関し膝を交えて話を伺った。

櫻井:日銀がマイナス金利政策を導入して1年が経ちました。しかし、2%のインフレターゲット目標を達成するには程遠い。何が悪いのだと考えますか?

シムズ:私は当初アベノミクスにとても楽観的でしたが、その途中で消費税が上げられた時、金融政策と財政政策との間で協調性が全く無いことに気づいたんです。そして、人々も緊縮的な財政政策が拡張的な金融政策に対して逆効果になっていると気づきました。それが最近までほとんど効果がなかった理由だと思います。だから、それが本当に拡張的な効果を得るためには、財政政策もまたインフレ率を目標水準に押し戻す事を目的としたものにする必要がある。簡単に分かることですが、利子率がマイナスになると、政府は銀行からお金を吸い取ることになる。それが家計の預金利息までマイナスになる所まで行くと、家計も銀行もお金を吸い取られてしまう。経済からお金を取り去ってしまえば、それは緊縮的なものになる。低利子率によって経済から吸い取られたお金を財政黒字の削減か財政赤字の拡大によって穴埋めした時に、低利子率は拡張的なものになる。

櫻井:安倍首相は2019年まで2度目の消費増税を延期しました。それで十分だと思いますか?

シムズ:新たな日時を設定するより、消費増税はインフレ率が目標値まで回復しているか次第で決まると明らかにする方が良いでしょう。それが遅くなることもあるし、早くなることもある。もし人々が、消費増税の凍結をインフレ創出のための政府による約束(commitment)であり、インフレになるまでそれが延期されると見るなら、インフレはずっと早く上昇こともあり、その場合には、2019年ですら消費増税は遅すぎということになるかもしれない。
でも、私がもっとありそうに考えるのは、2018年末にインフレ率が上昇していたとしても、近い将来に緊縮政策がやって来るんだと人々が考え始めるというもので、そうなると全ての政策が台無しになるかもしれない。

櫻井:安倍首相が最初の消費増税をしなかったら、アベノミクスはもっと機能していたと思いますか?

シムズ:ええ、おそらくもっと機能していたと思います。もちろん予定されていた消費増税によりこういった結果になったわけですが、少なくとも財政赤字に関しては前向きなものでした。私は人々の信頼を構築すること、調整が将来どのようにして起こるのか人々に理解させることが重要だと考えている。だから、日本が財政政策でインフレ目標を達成させようとするなら、いかにしてインフレと財政的な厳格性がその債務を維持し、少なくとも急拡大することはないと信頼ある計画を提示する必要がある。だから、私は将来の増税を計画すること自体に反対しているわけではないが、将来の増税がインフレと全く関係ない中でそれをすることには反対です。

櫻井:日銀は現在のインフレ目標を変えるべきだと思いますか?

シムズ:インフレの目標値がもっと高い方が良いかに関しては様々な議論がある。その主旨は、4%の目標値を取っている時より2%の目標値を取っている時の方が、予想もできない事態によって簡単にゼロ下限またはデフレにまで逆戻りする可能性が高くなるということです。その主張は一理あると思います。4%のインフレを目指すとなると、人々はそれについて心配し、そのことについて考えざるを得ない水準に達します。インフレ率を低く保つことには、人々がそのことに注意を払わなくてもいいという利点があると思います。だから、より高いインフレ目標値がいいのか、現在の目標値がいいかは難しい論点です。一方、現在、2%の目標値が達成できていないんだから、1%にすればいいじゃないかと言う人々がいます。ゴールポストのほうを動かせと。それは間違いだと思います。現在の目標も達成できないことが明らかになっているのに、どうやって人々に古い目標値よりも高いその新たな目標値を達成し、維持できるなどと信じさせることができるでしょう。私は一度目標を設定したなら、それを成し遂げるべきだと思います。それは多分4%の目標値にも言えることで、今2%の目標値を達成できていないのに、努力すれば4%の目標値を達成できるとどうやって人々に信じてもらえるでしょうか?

櫻井:多くの人は、日本が対GDP比債務200%を超える第二のギリシアになることを心配しています。

シムズ:ギリシアと日本には一つの大きな違い、そして日本の利子率がゼロである一方、ギリシアが高い利子率を払っている理由は、日本の債務はほぼ全てが円建てだということです。日本政府は円を刷ることができる。債務を履行する分だけ貨幣を刷ることができる政府は決してデフォルトする必要性が無い。支払うと約束した分だけ常に支払うことができる。それが単に紙を支払うという約束にすぎないからです。ギリシアはユーロ建ての債務を持っているが、ギリシはユーロを刷ることができない。だから、ギリシアは必要な支払いができない時には何らかの形でデフォルトするほか選択肢はないので、これまでにもデフォルトしてきたし、またデフォルトするでしょう。そして負債を再評価するということになる。だから、手短に言うと、対GDP債務比率に大した違いはないものの、実際には日本はギリシアと全く異なっている。

櫻井:あなたの考えはヘリコプターマネーに似ていると指摘する人がいます。違いはありますか?

シムズ:ヘリコプターマネーには様々な種類の提案があります。その名前は、インフレを起こしたいと思うなら、中央銀行が大勢のヘリコプターを調達して国中にお金をばら撒けばいいというミルトン・フリードマンの提案から来ている。だが、現代の中央銀行ではこれはできない。現代の中央銀行は通常、公開市場操作を行うよう規制されている。彼らは利子率をコントロールするために国債を売買する。お金を人々に与えることは許されていない。それは財政移転になる。ほとんどの富裕国、おそらくは全ての国で中央銀行はそんなことをしないという義務を負っている。だから、ヘリコプターマネーと呼ばれる提案は、実際には財政拡張なのに、できるだけ金融政策的な行動であるように見える全ての提案ということになる。

そして、多くの場合、そこには政府が巨額の国債を発行して、中央銀行がその全ての国債を買い切ると約束すると言う意味合いが含まれている。約束(commitment)とは負債を売らないと約束することです。そうでないと、ヘリコプターマネーには見えない。こうしたスキームが全て上手く行く可能性もあるが、私は実際には好きになれない。なぜなら、それらを機能させようと思えば、実際には、それは財政的な約束(commitment)が含まれるということを人々に理解させる必要があるからです。それをヘリコプターマネーと呼んでしまうと、財政政策ではないように見えてしまう。私はむしろその政策が中央銀行単独で実行するようなことは主張せず、確かな形での財政拡張、不可逆的な財政政策な財政政策として実行され、表現されるほうが良いと思う。だから、私が提唱するような形での財政拡張を実現するのに資するものなら、ヘリコプターマネーという提案は気の利いた試みです。だが、実際には、その政策が首尾よく実施されるようには思えない。私は、はっきりと財政政策が必要だと言ったほうがいいと思うし、その方が、現在は中央銀行がその使命を達成するのに財務当局者の助けを必要とする異常な時代にあるということが明白になる。

櫻井:インフレは家計に対する税金の一種であり、家計にとってはインフレと税金に大した違いはなく、同じようなものだと見る人がいます。

シムズ:インフレが税金の一種だというのは正しいが、他の税金とは全く異なっている。なぜなら、インフレの負担は円で資産を持っていて債務の少ない人々により重く課されるからです。だからインフレで債務を賄うという私の提案は痛みがないと言うという意味ではない。それは痛みがあるものであり、一部の人には税金でそれを賄うよりもっと痛みがあるでしょう。私がこれをした方がいいと思う理由は、インフレを税金や債務の弁済の代わりに使うためではない。そうではなく、経済はインフレ率がゼロに近い時には上手く機能しないと私が考えるからなんです。インフレ率をゼロに押しとどめている税金、つまりは純粋な消費税から同じような額の歳入を生み出すかもしれないインフレ税に転換することは、全体としての経済を機能させる上で優位性があるということです。債務の真の負担は少しも減ることはない。債務の真の負担とは、税金によって明示的に支払われる債務の量とインフレによって暗示的に支払われる債務の量であり、その両方の支払い方法が人々のコストになる。でも、インフレ率を上げることができれば、もっと経済が上手く機能するようになると我々は考えていて、そのことは当然に課税ベースを広げることになり、債務の膨張を防ぐのにかなり役立つかもしれない。必要なのは、人々の理解であり、インフレ率が目標値を下回っている限り、税金を引き上げないし、支出も引き下げないとする政府の約束(commitment)です。そして、それには大幅な財政赤字は必要ない。財政赤字を増やしたほうが、経済はもっと早く機能するかもしれない。雇用を増やすような支出の拡大はインフレ圧力を高めると考える理由がいくつかある。だが、根本的な問題は、それが更なる効果の無い財政赤字の拡大ではないと確信させることです。

櫻井:財政政策と金融政策を正しく組み合わせれば、長期停滞という問題を解決できると思いますか?

シムズ:長期停滞についてどう考えていいかは分からない。相当な期間にわたって経済成長が鈍化すると、長期停滞のについて語り出す経済学者が出てくるという法則性はある。だから、歴史上における現代はその点で他の時代と異なっているわけではない。それは絶対に長期停滞は起こらないという意味ではない。ご存知でしょうが、ロバート・ゴードンは最近の技術的イノベーションは20世紀の30、40年代、50年代より生産性が低く、そこに何か質的な違いがあると主張している。私はそれを信じていいのか確信できない。多くの新たなデジタル技術や電子技術の生産的な使用法が今でも発見され続けているのは正しいと思うし、現在よりも急速な経済成長率を取り戻す可能性もある。私はほとんどの富裕国で金融政策と財政政策が上手く行ってないと考えている。我々が技術的な長期停滞に陥っているのか、いないのか見つけるための余地はたくさん残されていると思います。そして、それを見出す方法は、目標値までインフレ率を押し上げて、そのことが大きな成長ボーナスを生み出すのか、あるいはそうならないのかを見ることでしょう。不十分な金融政策と財政政策から来る以上の永続的な長期停滞が存在するのか私には確信が持てない。

櫻井:ドナルド・トランプの経済政策についてのあなたの評価をお尋ねしてよろしいでしょうか?

シムズ:トランプの政策はまだ全然明らかになっていないので、評価するのはすごく難しい。彼が調印した大統領令は一時的なものか、訴訟に耐えうるものか明白でないものです。選挙運動の中では、彼はインフラ支出について語っていたし、社会保障やメディケアについては変更しないし、減らしたりもしないと語っていた。減税するとも言っていた。これらは全て拡張的な政策です。でも、彼は巨額の財政赤字を作り出すとは言っていない。そして、現在議会で多数を占めている共和党は過去8年間あらゆる赤字支出を極度に渋っていた。大統領が変わったからといって、彼らが方針を転換し、喜んで赤字支出を容認するかは明らかではない。そうなるかもしれないが、それはまだ明らかではない。議会の中には、インフラ支出を穴埋めするため予算の他の項目を大幅に削ると主張している人がいる。財政的及び金融的な緊縮政策から見て、それがトランプの本質的な政策的立場だということが明らかになれば、トランプ政権は本質的に拡張的というより緊縮的なものということになる。現在のウォール街の見立てではトランプの政策は拡張的、もしくは拡張的寄りということになっているようだ。だが、彼らがその反対の立場だということが明らかになる可能性は大いにある。

櫻井:本日はありがとうございました。

シムズ:ありがとう。楽しかったよ


真実を語るより問いかける。ドナルド・トランプの発言が問うことの意味を(さらにすべての意味)をどのように歪めたか by François Côté-Vaillancourt

ここのゲリラ翻訳デス http://induecourse.ca/raising-questions-over-telling-the-truth-how-donald-trumps-discourse-distorts


失業の背後にあるもの-21世紀において私たちが戦うべきもの by François Côté-Vaillancourt

こちのゲリラ翻訳です。http://induecourse.ca/what-hides-behind-unemployment-what-should-we-fight-for-in-the-21st-century/


「第一次世界大戦の見過ごされがちな遺産 ~再建金本位制とヒトラーの台頭~」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “The Other Important Legacy of World War One”(Macro and Other Market Musings, July 28, 20


「なぜ物理学者は経済学に惹かれるのか?」by Chris House

以下の文は、Chris House,”Why Are Physicists Drawn to Economics?“(Orderstatistic, March 21, 2014)の翻訳になります


「アベノミクスのこれまでの成果やいかに? ~ハウスマン&ウィーランド論文を読む~」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “Abenomics at the Brookings Institution”(Macro and Other Market Musings, March 21, 2014)の


「アベノミクスのこの1年の成果を振り返る」 by Marcus Nunes

以下は、Marcus Nunes, “‘Abenomics’ one year on”(Historinhas, January 16, 2014)の訳。 一昨年(2012年)の9月のこと、経済を再び力強い成長軌道に乗せ


ウィリアム・イースタリー「援助議論の終焉―ジェフリーサックスによるミレニアム村の失敗―」

William Easterly “The Aid Debate Is Over The failure of Jeffrey Sachs’ Millennium Villages”


「俗流ケインジアン」(1997/2/7) by Paul Krugman

以下は、Paul Krugman, “Vulgar Keynesians”(Slate, February 7, 1997)の訳。[1] 経済学の分野もその他のあらゆる知的な営みと同様に「学問版・収穫逓減の法則」の影響下


「今日の危機 ― 金融・貨幣制度の抜本的改革のために」by MAURICE ALLAIS

Maurice Allais “La crise mondiale d’aujourd’hui -Pour de profondes réformes des institutions financières