(Paul Krugman, “Why We Regulate,” New York Times, May 13, 2012)
【その理由は,JPモルガンとダイモン氏がこれ以上なく明快に示してくれた. Jamie Dimon and JPMorgan Chase couldn’t make the reason clearer.】
1939年の古典映画『駅馬車』の登場人物に,ゲートウッドという銀行家がでてくる.ゲートウッドは乗り合わせた人たちを相手に,大きな政府は邪悪だ,とくに銀行の規制はろくでもないと一席ぶつ――「まるで,銀行家が銀行の切り盛りの仕方を知らないとでも言わんばかりじゃないか!」と彼は声を上げる.映画が進につれて,ゲートウッドが実は横領したお金をカバン一杯に詰めて高飛びしようと図っているのが明らかになる.
ぼくらの知るかぎり,JPモルガンの会長にしてCEOのジャミー・ダイモンはこれと同類の企てはやっていない.でも,ダイモンは彼と仲間たちがじぶんの手がけていることをどれだけよくわかっているか,ゲートウッドばりの演説を好んでやる.政府に監視される必要なんてない,というのが彼の言い分だ.そうしてみると,JPモルガンが金融の怪しげな策を弄してしくじり20億ドルも失ったと驚くべき公表をした今度の一件には,大いな報いが――そして大きな政治的教訓が――あるわけだ.
まずはハッキリさせておこう.実業家だって人間だ――もっとも,金融界の王様たちはそのことをよく忘れがちだけどね.人間だから,いつでもお金を失う失敗を犯している.それ自体は,政府が首を突っ込む理由にはならない.でも,銀行は特別だ.なぜなら,銀行がとるリスクは大部分が納税者と経済全体で負担されるからだ.JPモルガンがやってみせたこと,それはいかにも賢げな銀行家たちですら,とるのが許されるリスクの種類にはハッキリした限界がなくちゃいけないってことだ.
じゃあ,正確な話,どうして銀行は特別なんだろう? 歴史をみればわかるように,銀行業はときおり発生する破壊的な「パニック」を逃れられない.これまでずっとそうだったし,いまもそうだ.「パニック」は,経済全体に大惨事を引き起こすことがある.現在の右派の神話体系では,ダメな銀行業はいつでも政府介入の結果だとされている.連銀が手を出したせいにされる場合もあるし,くちばしをはさむ議会のリベラルどものせいだとされる場合もある.でも,実際には,金箔時代のアメリカ――最小の政府だけがあり連銀もなかった国――は6年に1回はパニックに見舞われていた.そうしたパニックのなかには,大きな経済的損失をもたらしたものもある.
じゃあ,なにができるだろう? あらゆる銀行の信用パニックの母というべき出来事のあと,1930年代にはまともに機能する解決法にたどりついた.これには,保証と監督の両方が含まれる.一方では,パニックの規模は政府が後ろ盾をした銀行預金保険で制限される.また,他方では,この預金保険から派生する特権的な地位を銀行が悪用するのを防止するよう意図した規制が銀行にかけられた.とくに目を見張る点は,政府により預金を保証された銀行は,リーマンブラザーズみたいな投資銀行に特徴的な,往々にしてリスクの高い投機に手を出すことが許されていなかった点だ.
この制度により,半世紀にわたって比較的に金融は安定していた.ところが,しだいに,歴史の教訓は忘れ去られてしまった.政府保証のない新しい形の銀行業がどんどん増えていき,その一方で,伝統的な銀行も最新式の銀行も,かつて以上に大きなリスクをとるのが許されるようになった.当然,21世紀版の金箔時代がだんだんぼくらを苦しめるようになっていき,無残な帰結にいたった.
こうして見れば明快なように,2世代にわたって大きな信用パニックを防いだ安全装置を復活させる必要がある.そう,銀行家や彼らが資金提供してる政治家たち以外の誰もにとっては,明快な話だ――救済措置をとってもらった銀行家たちは,当然のようにいつもどおりの業務に復帰したがっているのだから.そういえば,ウォールストリートは巨額をミット・ロムニーに提供してるって話はしたっけ? そのロムニーは,最近の金融改革を白紙にもどす公約をしている.
ここでダイモン氏登場.JPモルガンと彼の名誉のために言っておくと,JPモルガンは他行をひざまづかせたダメ投資の多くはうまく回避してきた.こうして見た目は賢明さを発揮してみせたことで,ダイモン氏は金融改革を遅らせ,骨抜きにし,白紙撤回させるウォールストリートの戦いの中心人物となった.彼は,いわゆるヴォルカー・ルールに対してとくに大声で反対を唱えてきた.ヴォルカー・ルールは,政府に預金の保証を受けた銀行が「自己勘定売買」に手を出すことを禁じるルールだ.ようするに,預金者のお金で投機するのを禁じたルールね.「我々を信用してください」とJPモルガンは事実上言い続けてきた.「万事,我々のコントロール下にありますから」
そうでもないみたいだけど.
実際にJPモルガンがやったのは何だろう? ぼくらにわかるかぎりでは,JPモルガンはデリバティブ(複雑な金融の手段)の市場を利用して,企業債務の安全性に巨額を賭けた.ちょうど,ほんの数年前に保険会社のAIGが住宅債務にやった賭けの同類だ.ここでの要点は,賭けがうまくいかなかったってことじゃない.要点は,金融システムで枢要な役割を果たしている機関には,そんな賭けをする権利なんてないってことだ.まして,納税者による保証を受けてる機関がやるなんて論外だ.
ここにきて,ダイモン氏は懲らしめられたらしい.さらには,より強固な規制を主張する人たちに一理あるかもしれないと認めているように思える.おそらく,それも長続きはしないだろう.ぼくの予想では,ウォールストリートは数日以内とは言わないまでも数週間後にはいつもの尊大さをとりもどすはずだ.
でも,ウォールストリートには規制される必要があるという実物の証拠をみせてもらったのは確かだ.ありがとね,ダイモン氏.