R.レイのMMT入門 第一章第五節 実物の会計と金融(名目)の会計 

メリークリスマス!
第一章目次(あとひとつ!)

第一章 マクロ会計の基本


第一節 ストック-フロー会計の基礎
第二節 MMT、部門間のバランスと動き
第三節 ストック、フローとバランスシート(バスタブの比喩)
第四節 政府債務は裁量的ではない:2007年大不況の場合
第五節 実物の会計と金融(名目)の会計 
第六節 最近の米国における部門バランス:ゴルディロックスと世界クラッシュ


1-5 実物の会計と金融(名目)の会計

この章ではここまでのところ、金銭的なフローとストックの会計に焦点を当ててきた。「現代金融」にフォーカスした入門書なのでそのようになっている。「お金が世界を回している」とよく言われるが、資本主義経済においては多くの場合において、生産する目的とは、より多くの利益を得ること、すなわち、金銭的費用よりも大きな金銭的収入を獲得することにある。これは確かなことであり、私たちの現代経済の大部分を占めていることでもある。

とはいえ、生産された「実物」も実在している。消費される商品やサービスが生産されていなければそもそも生活が成り立たない。さらに経済学者は「提供プロセス」そのものにも注意を払う必要がある。「提供プロセス」の多くは市場外で行われ直接お金を必要としないことが多い。

ではどうやって実物をカウントすればいいだろう? これが本節のテーマだ。

国家貨幣の単位は、信用や債務、また「価値」と呼ばれるかなりやっかいなものを測定するために便利なモノサシだ。 読者はおそらく本節までで、信用と債務の部分についてはかなり明確に把握できるようになっているだろう。私は政府に対して納税義務を負っている。これは非常に大きい数のドルで測定されている。これは私の債務であり、かつ、政府の資産であり、電子的なバランスシートに記録される。私は銀行に預金を持っていて、これもドルという単位で記録されているが、これは銀行のIOUであり、私の信用でもある(これもまた、コンピュータ上の電気データとして存在しているだけだ)。

「価値」は相当に難しい。種類が異なるものを測定するためには適切な測定単位が必要だ。色や重さ、長さ、密度などは使えない。深い理由はここでは深書ききれないが、通常は国家貨幣の単位が使われる。

そうしないと、物の価値を測るために、物それ自体を使うしかなくなってしまう。例えば砂糖の価値であれば、砂糖自体を基準にするなら難しくはない。重さでもいいし、結晶が揃っていれば粒の数を数えてもいい。まあ普通は体積を使う。キッチンでの用途には体積で十分だ。ただし、単に「×カップ」というわけにはいかず、「×カップの砂糖」といわなければならないし、砂糖とは何であるのかを決めておかなくてはならない。

そうすれば、「私はあなたから1カップの砂糖をかりています」というような借用証書を書いて誰かから1カップの砂糖を借りることができるようになる。しかし、そうするくらいならそドルの単位での借用証書にした方がいい。私たちが住んでいるのは高度に貨幣化された社会だ。ここでは国家貨幣(もしくは名目の測定手段)としてUSドルという単位が使われている。ショップの砂糖売り場に行ったときに1カップの砂糖の値段が1ドルだったなら「私は1ドル借りています」という借用書を書けば済む。その返済は1ドルの現金でもいいし、1カップの砂糖でも、あるいは双方が1ドルの価値だねと合意出来るものなら何でもよいことになる。

私の全財産を計算しようと思ったら、まずドルのIOUという形で銀行や政府や他の金融機関や友人や家族に対して持っている分をまず合計する(中には「1カップの本物の砂糖のIOU」というようなものもあるかもしれない。それに現実性があれば、相手から1ドルを回収できる)。同様に、私自身が発行済みのIOUについても、銀行に対するもの、政府や家族や友人に対するものと合計していく。(同じように、私が「1カップの本物の砂糖のIOU」を発行していたならドルで支払わなければならないものとして勘定に入れるだろう。もし仮に砂糖の貸し借りをドルで清算してはいけないのであれば、これらのIOUは実物資産または実物負債として扱わなければならないことになる。資産の砂糖から負債の砂糖を差し引いたものが純実物砂糖資産ということになる。詳しくは下の実物資産のところで)。こうして合計したら、その総金融資産から総金融債務を引いたものが、私の純金融資産だ。

当然、これで終わりではない。 私は家や車を持っている(そしてキッチンの棚に砂糖があったかもしれない)。 これらの購入資金を調達するためにローンを組んでいて(銀行や自動車金融会社などに自分のIOUを発行した)借金があるとしよう。この借金については上で計算した金融IOUの中に含まれている。しかし私は何年もローンを返済してきたので、そのIOUの残高は今の車や家の価値よりはるかに少ない。そこで車や家の金銭的価値を評価して実物資産とし、上の金融資産と足し合わせることで総資産が算出される。

家や車をどのように評価すればいいかはトリッキーなところで、会計ルールの影響を受ける。しかし、原理の理解のためだけなら重要なことではない。要するに、まず資産の総額(金融資産と実物資産)を計算し、そこから未払いの債務(通常は金融債務だが砂糖を借りている場合もあるかもしれない)を差し引くことで総資産が得られる。当然、これは実物資産と純金融資産で構成されている。よって総資産は純金融資産よりも多い額になる。私には実物資産(自動車、家、砂糖)もあるからだ。

(私の純金融資産がマイナスになることもあり得る。実物資産で埋め合わせられる額ならば良いのだが、そうでなければ「債務超過」だ。世界金融危機の結果、多くの米国人が債務超過に陥った。住宅ローンの残高が住宅の価格より高いということになったのだ。厳密に債務超過だったかは、住宅以外の資産や債務も計算に入れなければならないため判断できないが、多くが債務超過だった可能性は高い)

この入門書のほとんどの部分では経済における金融的な部分に焦点を当てている。そうする理由は、ここが基本的には資本主義の本質であり、資本主義経済の中で「現代貨幣」がどのように機能しているかが大きな関心事だからだ。 結局のところ、これは現代貨幣入門だ。 (ただし、「税が貨幣を駆動する」 (第2.3節を参照)ということは、 資本主義でなかたった昔の社会にも適用できる)

また、資本主義社会だからといって、すべての生産がマネーありきとは限らず、またすべての活動が「もっとお金を稼ぐ」ことや利益のためになされているわけではないのは明らかだ。私の場合、夕食の準備をしてから皿を洗い終わるまでの時間はだいたい二時間だ。お金を稼ぐためではないし、ましてや利益を上げるためでもない。この「生産」プロセスの少なくとも一部分はお金から始まっている。食材のほとんどは買ってきたものだし、水や食器洗い洗剤もそうだ。そうではない材料(特に私の労働)もあるということだ。

これは重要な生産なのだろうか? 疑いようもない。米国のような高度に発達した資本主義経済においてさえ、「労働力」の「再生産」に関係する無給労働なしに金銭的な生産が成り立つとみるのは難しい(いまマルクスの用語を使ったが「労働者を供給する家族のサポート」と言い換えてもかまわない)。家事や子育て、レクリエーション、リラクゼーションなどは非常に重要だが、ほとんどの場合は金銭的な取引を伴わない。これらに金銭的な報酬を支払うこともできるし、実際に支払われることもある。これらは皿洗いのような「フロー」という側面だけでなく、「ストック」の側面もある。若者に知識や技術を蓄積することはのちのち必要になるからだ(経済学者はよく「人的資本」という)。この(成長する)ストックも私達の「実物資産」に加えるべきで、それが私達の総資産となる。明らかに、これをドルという単位で測定することは非常に難しい。それどころか、金銭の形にすることが難しいことも多い。皆が売ることができない「資本」的なスキルを持っていることは確実なことだ。


コラム バランスシートから見る会計

バランスシートは、ある経済主体が所有しているものおよび借りているものを記録する会計書類だ。

バランスシートはバランスしていなければならなず、つまり次の等式が成り立っている必要がある。

FA + RA = FL + NW

純資産(NW)は、この等式を成り立たせる調整のための残差変数と見なすことができる。つまり、純資産は総資産と総債務の差額だ。
金融資産は、他の経済主体に対する金融債権で、実物資産は物理的なモノ(自動車、建物、機械、机、ペン、在庫など)である。金融負債は他の経済に対する金融債務だ。
バランスシートは必ずバランスするものであるから、ある項目に変化があれば、少なくとも一つの他の項目にそれと対応する変化が起こる。

ある世帯が自動車を買う

たとえば、ある世帯が銀行口座の小切手をきることで100ドルの自動車を購入するとすると、銀行口座の残高が100ドル減少し(ΔFA:-$100)、同じ金額の価値である自動車が同額増える(ΔRA:+$100)

総資産は変化していないし、負債(および純資産)の側も変化しないのがわかるだろう。
自動車の支払いの一部(30ドルということにしよう)を自動車ローンを借りて支払う(金融債務が増える)こともあり得る。

バランスシートの両側が30ドル増加し、等式が保たれることがわかる。

民間部門内の他の主体への影響

上では世帯のバランスシートだけを切り取っていたのだが、世帯が自動車を買うとき、自動車メーカー(非金融企業)は預金を得て、自動車を減らしている。世帯がローンを組んだことで、銀行は世帯に対して30ドルの債権を持ち、世帯は銀行預金と(70ドル)とローンで借りた分(30ドル)によって自動車メーカーへの支払いをする。二つのバランスシートは次のようになる。

ある会計主体の上記の会計項目はすべてバランスシート上に記されており、それぞれが必ず他の主体のバランスシートにも載っていることに注意されたい。世帯は30ドルを借りているので、銀行は30ドルを貸している。また、世帯は100ドルの自動車を買ったので自動車会社では100ドルの自動車が売れている、などだ。これら世帯、銀行、非銀行企業ををまとめて民間部門と呼んでいる。ここで自動車の購入が民間部門に及ぼす全体的な影響を計算するなら、上記をまとめて以下のようになる。

トータルへの影響は、これをまとめてこうなる。

したがって、民間部門は全体で60ドルの債務があるが、民間部門を統合すると何も変わっていない。「私はあなたから借りているし、あなたは私から借りている。これを相殺してみよう」。民間部門の「内側の」金融資産の合計はゼロ。残るのは実質資産‐自動車-だけだ。

政府部門を導入する

では世帯でなく、政府が車を買ったとしたらどうなるだろうか。 話を簡単にするために、政府が自動車メーカーに現金を発行することによって購入を行うと考えよう。

民間部門では、メーカーが現金を受け取り(ΔFA:+100)、車を与えている(ΔRA:-100)。

この場合、民間部門は金融債権を政府に対する分として増やしている。この金融資産は民間部門内では相殺されていない。国内経済全体を把握するために政府部門と民間部門を統合すると、バランスシートは次のようになる。

ここでも、経済全体の中で自分が自分に借りていることになるので、全体の金融収支はゼロになる。このとき重要なのは、民間部門の金融収支がプラス(現金の増加)となっていて、政府の収支がマイナス(債務としての現金)になっていることだ。 民間部門のこのプラスの財政収支を「外部の富(outside wealth)」と呼ぶが、それはこれが民間部門以外の主体に対する債権だからだ。

海外部門を加えるときも同様になる。国内の民間部門が海外にたいていプラスの金融債権を持つようなことがある。この場合もプラスの「外部の富」としてカウントされる。そして政府も、海外に対する債権という形で「外部の富」を持つことがあり得る。この場合、国内経済は全体として、海外に対する債権という形で純金融資産を持っていることになる。


R.レイのMMT入門 第一章第四節 政府債務は裁量的ではない:2007年大不況の場合

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R.レイのMMT入門 第一章第三節 ストック、フローとバランスシート(バスタブの比喩)

引き続きぼちぼち(とてもゆっくりという意味)いくよー 第一章目次(あとひとつ!) ↓ 第一章 マクロ会計の基本 第一節 ストック-フロー会計の基礎 第二節 MMT、部門間のバランスと動き 第三節 ストック、フローとバラン


R.レイのMMT入門 第一章第二節 MMT、部門間のバランスと動き

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R.レイのMMT入門 第一章第一節 ストック-フロー会計の基礎

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ポール・クルーグマン Quoraの解答から

クルーグマンQuoraに現る-解答からの抜粋 経済学者ポール・クルーグマンが質問サイトQuoraに11月20日に現れ、自ら質問に解答しています。そのうちのいくつかを抜粋しました。 なぜ米国経済は2018年後半から良くなっ


R.レイのMMT入門 第三章第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ

ひとくぎり(^^♪ 消しゴムさん、タイポご指摘どうもでした! 第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行  第一節 国の通貨建てのIOU  第二節 決済と債務ピラミッド  第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション


R.レイのMMT入門 第三章第七節 財務省の債務オペレーション

(週末にでもゆっくりドゾー) 第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行  第一節 国の通貨建てのIOU  第二節 決済と債務ピラミッド  第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手  第四節 銀行の


R.レイのMMT入門 第三章第五節 外生金利と量的緩和 

(今回はコラムもやってみました) 第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行  第一節 国の通貨建てのIOU  第二節 決済と債務ピラミッド  第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手  第四節 銀


R.レイのMMT入門 第三章第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済

(あとのために重要な節) 第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行  第一節 国の通貨建てのIOU  第二節 決済と債務ピラミッド  第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手  第四節 銀行のバラ