ハ−ドなマネー From “National review online”

WebサイトNational review onlineに掲載された記事(Hard Money , November 12, 2010 4:00 A.M.)の翻訳

この記事は、一般読者に向けてFRBの量的緩和政策に関する多くの専門家の見方を簡単にまとめています。また、本記事の文脈におけるインフレ推進派の名前を青色、インフレ心配派の名前を緑色のフォントとしたのは翻訳者です。


インフレとデフレを避けながら、ベン・バーナンキは危険な小道を進む。

米国経済はインフレかデフレスパイラルに陥るリスクの下にあり、それはFedが緩和し過ぎてきたか、引き締め過ぎてきたかの結果である。Fedの政策は危険なほどに間違っているという事だけが経済学者や経済ジャーナリストたちの一致点であるかのようである。

Fed議長のベン・バーナンキはこの数か月の間、双方と論戦を行ってきた。八月の終わりにはこう言っていた。「現時点で米国がデフレに陥る危険性はそれほどない。」十月半ばにはこう言った。「デフレの危険性は望ましい水準より高い。」 皆、Fedが次の「量的緩和(マネーをを刷って銀行から資産を購入する)」に踏み出すだろうと期待した。そうすれば銀行は、増えた準備金を貸し出し増に回し、経済が刺激されてデフレ圧力は緩和されるだろう。とにかくこれがバーナンキのプランだ。これを実行し、これまたFedの約束通りにインフレが始まる前に撤退する。そのために官僚氏(訳注:バーナンキ)はある種の政治的手腕を発揮しなければならない。

バーナンキ・シフトでは経済の諸指標の変化をおそらく反映していくのだろうが、Fed内外からのプレッシャーの影響も受けるだろう。Fed理事会にいる数名のメンバーは今の経済には緩和が必要だと信じている。シカゴFed総裁チャールズ・エバンスはインフレ率は長期的に平均年2%であるべきだと信じている。現在はその目安を下回っているのでその分を取り返すためまで高めのインフレ率であるべきである、と。ティム・ガイトナーのの後継者であるニューヨークFed総裁ウィリアム・ダドリーはこう言う。「超低金利は、住宅を含む資産の評価を手ごろなものにし、また借り手の負債利払いを軽減することにより調整プロセスを円滑なものにすることに貢献できるだろう」。

多くの学者や報道関係コメンテーターがこれに賛成している。コロンビア大学の経済学者マイケル・ウッドオードはエバンスの主張を支持している。ポール・クルーグマンは手当たり次第に刺激策を探している。フィナンシャル・タイムズ誌の影響力あるコラムニスト、マーティン・ウルフはデフレを心配している。

金融政策の議論には典型的な左右両面がある。保守層は伝統的にFedの緩和し過ぎな政策がインフレを生み出すことを心配してきた一方、リベラル層は引き締め過ぎな政策が失業を増やすことを気にしてきた。(議会は物価の安定と失業との戦いという二つの目標をFedに課して来た)。今回の議論でもはやりこのパターンが明白だ。ウォールストリートジャーナル誌の編集者のページはいつも「ドルの価値を落とすな」と批判的な論評をしているし、フォックスニュース誌は、インフレをヘッジするために金を買うように勧める広告を大量に載せている。 

しかし反対のタイプのアナリストもいる。アメリカン・エンタープライズ研究所の経済学者ジョン・メイキンはデフレを心配している。ブッシュ大統領の経済諮問委員だったグレッグ・マンキューは負の実質利子率を作り出して借入を促すため”大幅な”インフレを求めている。しかし、ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツは過去10年にわたって左翼陣営に気に入られてきたが、量的緩和の主たる効果は外国為替市場にカオス(スティグリッツの表現)をもたらすことだろうという点で、サプライサイダーのローレンス・カドローと考えを同じくしている。

また金融緩和政策について、ある人々は異なる議論をしている。彼らの一部にとって第一の関心はデフレの恐怖だ。財務省はインフレ連動ものと通常ものの両方の5年債を売っている。この二つの利回りの差は、その期間を通じた市場の期待インフレ率ということになる。この期待インフレ率は低迷していて、量的緩和が議論されるようになった今は反発し始めているが、今年はずっと下落し続けていた。

デフレへの恐怖のルーツは、マネーサプライが急降下した大恐慌初期の経験にある。物価水準が下落すると負債の負担が増し、消費が委縮するのだ(今日より翌日の方が同じ一ドルでたくさんの買い物ができるから)。なので回復はますます困難、あるいは不可能にさえなり得る。バーナンキは大恐慌の研究家であり、Fedの過剰な引き締めが大恐慌を起こしたという晩年のフリードマンの意見に与している。Fedは同じ失敗を犯さないと彼は誓っている。たとえそれがマネーを刷ってヘリコプターからバラ撒くということを意味していても。

他方、インフレは固定利率負債の実質的な価値を減らす。(十分なインフレが起これば、多くの家のオーナーたちが再浮上できる。)使われない現金は日に日に少しづつ価値が下がるので、インフレは需要を促進する。実質賃金が下がることで、雇用主たちはもっとたくさんの人を雇えるようになる。(人々は”貨幣錯覚”にかかる。雇用主は賃下げにはためらいを感じるが、インフレならば賃金をそのままにしておくだけで同じ効果が得られる。)バーナンキはまた、Fedが期待以下のインフレ期間を一時的な上昇で埋め合わせれば長期的な経済の安定をもたらせるということも示唆してきた。

Fedが低インフレやデフレに神経質なのは、次の理由もある。Fedの機動力の余地がいくらか失われるからだ。Fedはしばしば実質金利を引き下げることで経済を刺激しようとする。しかし、名目金利をゼロより下にできない(誰もマイナスの利率で貸し出しはしない)から、デフレは実質金利に下限を設定することになる。それでもFedは緩和政策を実行することはできるが、それは使い慣れた道具ではない。

この議論の相手側はデフレへの恐怖は大げさだと考える人々である。「コモディティ(価格)の上昇、急なイールドカーブ、ドル安がデフレに先行していたことは未だかつてなかった」とケイトー研究所のアラン・レイノルズは言う。実際の経済は一般に思われているよりも強いと考える観測筋たちもいる。カドローは、小売りは過去三か月上昇している、と指摘する。金融刺激は必要ないだろうということだ。

カーネギーメロン大学経営学部のアラン・メルツァーは、銀行が(企業と同様に)すでに大量の準備金を持っていることから、さらなる追加の有用性を疑問とする、数多い量的緩和批判者の一人だ。彼はまたFedが作り出して来た超低金利が住宅市場の調整を遅らせていると論じる。

反インフレ主義者たちは、インフレは1960年代末~1970年代のようにコントロールできなくなる傾向があり、そうなったら克服するのは難しいと論ずる。Fedは1980年代から1990年代にかけて物価安定へのコミットを確かなものにしてきたのに、インフレ目標を上げることはその遺産を食いつぶしかねない、と彼らは言う。反インフレ主義者のほとんどは、過剰な緩和政策が住宅ブームを引き起こし今の問題の原因になったと信じている。カンザスシティ連銀総裁で、これ以上の緩和に反対する急先鋒であるトーマス・ホーニグはこの見方をとっている。

カドローはマネー緩和の悪影響をさらに二点指摘する。インフレは資産課税を通じて歪みを拡大する(何故なら資産課税は実質利益よりもインフレ的に課せられるから)。そしてインフレはドルを弱める。ドルが弱いと国内投資の魅力を減らし、多くの国々が交易バランスを改善するために競って切り下げを行う通貨戦争(これは1930年代のもう一つの不幸な影響だった)の可能性も高まる。切り下げは多くのインフレ主義者にとっての重要論点の一部でもある。彼らは中国はすでに彼らの通貨の価値を低いままに保持していて、ドルに対しての価値を上げることを強制するために積極的な方策が必要だと考えている。

両陣営の恐怖を避ける方策があるかもしれない。ベントレー大学のスコット・サムナーとテキサス州立大学のデイビット・ベックワースの両経済学者は、Fedは徐々に新しい、よりルール的で予測可能な金融政策にシフトしていくべきだと示唆する陣営にいる。第一ステップは、Fedは何があっても平均2%のインフレ率を目指すというシグナルを市場に送ることだ。Fedは時間をかけて安定状態に持って行き、そうしたら名目GDP(その年のドルで測定した経済規模)成長を減速させる。仮に名目GDPが3%の成長目標で、実際の成長が2%だとしたら、1%のインフレだったということになる。

この政策はFedをルールに縛り付け、そのことにより近年の政策が生み出してきた不確実性(将来のある時点でインフレが制御できなくなるかもしれないリスクを含む)を減じる。これは単純なインフレ率目標よりも優れているとベックワースは論じる。二つのタイプの柔軟性を組み込むことになるからだ。第一に、供給ショックに応じて物価水準が動くことを許容できる:原油の禁輸は物価上昇を引き起こすし、技術進歩は逆に物価を引き下げる。第二に、現金需要に応じてマネーサプライを増減させることができる: 2008年暮れのように、人々がマネーを保持しようとするような時期に、Fedはより緩和を強めることができた。また景気過熱期にはマネーを引き締めることをルールが要請するから、金融危機もあれほど厳しくはならなかっただろう。

この政策は短期的にはインフレ率を引き上げるが、低い率にとどまるだろう。過去50年間はずっと2%を上回るインフレ率でやってきたのだから。最終的にはマイルドで長期のデフレに落ち着くだろう:生産性が伸びる期間、物価は下落する(ジョージア大学の経済学者、ジョージ・セルギンは生産性向上によるデフレは危険ではないというエレガントな事例を示した)。ベックワースはミルトン・フリードマンとフリードリヒ・ハイエクもこのような名目消費安定化アプローチを好んでいたという証拠を引用している。

まずインフレ率を上げ、そのあと下げる:裁量からルールへの移行のマネージ。Fedの前にある仕事は原始的な道具で複雑な作業を遂行するようなものだ。我々はバーナンキの席についていないことを喜ぼう。