FRBは人々に楽観を与えることが出来るか? by Tyler Cowen (9/18/2010)

New York Timesに出ていたタイラー・コーエンのCan the Fed Offer a Reason to Cheer?を訳しました。内容的にはクルーグマンの1998年のIt’s Back論文と同じような提案と思います。その意味では3周ぐらい遅れてるっていえば遅れてるのかもしれないけど、それでも分野違いの人が同じことを言っているのを知るのも良いことかな、と。


“Put On a Happy Face”って歌を覚えているかな[1]?とにかく笑えっていうんだ。そうすれば「晴れ間がどこまでも広がっていく」んだって、たとえ自分自身がそんなにハッピーな気分になれなくても。

多くの場合これは素晴らしいアドバイスだけど、実際にやってみた人はみんな知ってるように、ポジティブに考えよう!って思って実際にポジティブに思えるようになるのってそう簡単じゃないんだ。

楽観にせよ悲観にせよそれらはマクロ経済学者のというよりも心理学者の守備範囲に思えるが、この問題は政府が直面している問題に非常に重要な関連があるのだ。楽観の不足はアメリカ経済が未だに行き詰まっている理由に大いに関係がある。

FRBは経済を刺激する方法について思い悩んでいるようだが、思いのままになる様々な武器を持っているのだ。FRBが貨幣量の拡大と経済成長にコミットしているとアメリカ人を納得させることが出来れば、経済の回復を早めることが出来るだろう。

とはいえ、云うは易し行うは難し、だ。問題はこうだ:アメリカ経済は景気対策が必要だ。しかしFRBの責任範囲である金融政策は十分に拡張的ではなかった。金融危機の勃発以来FRBが大きくマネタリーベースを拡大したにもかかわらず、これが真実なのだ。

そんなことがあり得るかって?貨幣供給の増加が実際にはあまり支出の増加に結びつかなかった。最近二年間の衰弱性金融ショックが消費者と企業を貯蓄に走らせている。だから新たに供給された貨幣は退蔵されてしまうのだ。

この観点からロジカルかつ比較的シンプルな方法がFRBの選択肢として浮かんでくる。FRBがインフレ率の上昇に本気でコミットしていると人々に信じさせるのだ。これまではFRBの仕事はインフレの抑制にあって、焚き付けることではなかった。しかし、非常事態って時もあるのだ。

もしFRBが物価が上昇するまで、そうだな3%になるまで貨幣供給を増やし続けると約束したら人々は徐々に支出を増やし始めるだろう。もしそれでも人々が貨幣を退蔵させるならば、それらの貨幣の価値は毎年3%減少していくのだ[2]

自己実現的な予言によってFRBは支出を促進し、経済を刺激することが出来る。そしてそれは財務省に何の負担も与えないのだ。もちろん物価上昇へのコミットメントが信用されなければ支出や雇用は増加しない。計画は失敗し、人々は自分たちの懐疑心が正しいと証明されたものと考えるであろう。

つまり、我々の抱える問題は、我々がその問題を解決できると進んで信じることが出来る時にのみ解決することが出来るのだ[3]。ベン・バーナンキ—現在のFRB議長—は現在の職を引き受ける以前にこの難題について記している。1999年、日本の中央銀行が深刻な不況の中で何が出来るかという議論の中でバーナンキ氏は何年もの長期にわたって3、4%のインフレターゲットを行うべしと提言し、これによって中央銀行のリフレーションへのコミットメントを示すことが出来ると述べたのだ。

残念なことに、バーナンキ氏は明らかに問題の本質を理解しているのだが、FRB自体はあまり確信を持って行動をしてきていない。これは致し方ない面もある。もしFRBが高めのインフレターゲットへのコミットメントを宣言しておきながら信認の確立に失敗したら、FRBが無能であると評価されてしまうからだ。そうなるとFRBが再び信認を得るまで長い時間を要することになるだろうし、場合によっては(部分的に)政治的な独立性さえも失いかねない。突然にFRBは不況の「所有者」に落ち着いてしまうだろう。

クレディビリティ問題のある部分は政治環境、とくに議会からもたらされている。3%のインフレターゲティングが発表された次の日を想像して欲しい。年配の人たち、債権者および賃金が固定された労働者達はみな強力なロビイスト達とコネを持っているが、彼らは不平を唱え始めるだろう。共和党は次にキャンペーンを張るべき新たなネタ、つまり「インフレ反対」という旗を見つけたと考えるだろう。そして民主党はどのようなスタンスで行くべきか悩むだろう。何人かの地区連銀の総裁はおそらく公式にそのような政策に反対を表明するであろう。

失業者はそのような政策を支持するかもしれないが、彼らは政治的に統一されていない。そしてオバマ大統領自身は現時点で政治的に弱体化していて、FRBを十分擁護することが出来ない。

FRBはこのような道程をよそ見せずまっしぐらに歩くことが出来るかって?まぁムリだろう。

FRBは金融危機の最中にいくらかの政治的独立を失った。FRBは財務省と共同して大規模な救済案を引き受けた。そしてこれらの救済は極めて不人気であったことが判明した。議会はFRBの政策執行過程を注意深くチェックし、これからFRBの緊急融資の一回限りの監査を開始するであろう。インフレ、ということになればFRBは議会に対して単に「信用してくれ」というだけではすまない。

これが今回の金融危機の悲しい面だ:特に金融ということに関してはかなりの部分で信頼が失われてしまった。我々の眼前にはフリーランチの見込みが転がっているのにそれを掴めるかどうかは定かではないのだ。

金融政策を決定するFOMCには3つの空席がある。これは重要な行動を決定する妨げになる得る状況なのだ。上院はオバマ大統領の指名を承認してこなかった。しかし空席を埋めることだけでは十分ではない。とにかくFRBの責任者達は議会を味方にしなければならないのだ。

金融緩和拡張の失敗に対して、バーナンキ氏はFRBの限られた裁量権の賢明なる保護者となるのか、それとも栄光のために銃を撃つべき時に失敗や非難を恐れて怖じ気づいた官僚のように振る舞うのだろうか?

どちらのストーリーがより真実を物語っているのかはまだわからないが、議会からの十分なサポートのシグナルをFRBは受けていない。

高失業率が続けば、より拡張的な金融政策にコミットすることを要求するトップクラスの経済学者を含む多くの人々の声が増してくるだろう。このアプローチはFRBが大胆になる道を見つけ、それを我々が信じる道を見つけた時にのみ機能するであろう。

Tyler Cowenはジョージメイソン大学の経済学教授である。

  1. 訳注:1960年のミュージカル「Bye, Bye, Birdie」のらしい []
  2. 訳注:ここちょっと自信ない。 []
  3. 訳注:以下にもコーエンらしい言い回しで好きかもw []