R.レイのMMT入門 第一章第三節 ストック、フローとバランスシート(バスタブの比喩)

引き続きぼちぼち(とてもゆっくりという意味)いくよー
第一章目次(あとひとつ!)

第一章 マクロ会計の基本


第一節 ストック-フロー会計の基礎
第二節 MMT、部門間のバランスと動き
第三節 ストック、フローとバランスシート(バスタブの比喩)
第四節 政府債務は裁量的ではない:2007年大不況の場合
第五節 実物の会計と金融(名目)の会計
第六節 最近の米国における部門バランス:ゴルディロックスと世界クラッシュ


1.3 ストック、フローとバランスシート(バスタブの比喩)

会社や世帯、政府のバランスシートの中のそれぞれの項目は、資産または負債おのおのの残高だ。残高はストック、つまりある時点での価値の測定値である。 ストックはフローの影響を受ける。つまり、流入フローによりストックが蓄積し、流出フローによってストックは減少する。

これをバスタブの水に例えるとわかりやすい。下は水が半分入ったバスタブだ。たまっている水を、水のストックと呼ぼう。今は蛇口からの水が入ってきておらず、排水溝から流れ出す水もない。よって水の量は変化していない。この初期水量をその後の参照ポイントにしよう。

この変化しない水の量は、入金や振り込み、出金がない状態の預金口座(ストック)と似ている。同じように、借金を増やしも減らしもしない債務残高とも似ている。ここでいきなり蛇口を開けたらどうなる?タブに水が流れ込み水のストックが増える。

これはちょうど、貨幣が流れ込み貯蓄され、その結果、預金口座の残高が増えることと似ている。また、新車を買い、持っていた車もそもまま持っている状態とも似ている。所有車のストックは増えている。ここで蛇口を閉じ排水口の栓を外すと、もちろん水は減り始め最後は空になる。それはちょうど、収入がなり支出を続けた状態と同じだ。これは「負の貯蓄」とも言い、預金口座の残高はゼロになるまで減少しうる。同様に、新たな借入をせずに借金を返済すると、借入金の残高は減少する。

最後、蛇口と排水口を両方開く場合、水の残量は、蛇口からの流入が排水溝からの流出より多ければ増加する。預金口座の残高は、収入が支出より多ければ増えるのはこれと同じだ。収入のフローが口座残高のスックを増やしている。この人が収入よりたくさん支出するなら、負の貯蓄によって最終的には預金が尽きる。バスタブで言えば、排水溝からの流出が蛇口からの流入より多ければ、バスタブは空になる。

国民会計(資金循環や国民所得・生産勘定)の中心的な目的は、一つには、民間部門、政府部門、および海外部門のすべての資産・負債のフローとストックをすべて勘定することにある。これらのストックおよびフローを測定するために使用される尺度には貨幣単位(ドル、ユーロなど)を用いるのが一般的だ。すべてを貨幣単位で測定するのは簡単とは限らない。ストックやフローにはその金銭的価値がわかりにくいものがある。たとえば直接的に売買されないものや、そもそも売買されない物品がある(街灯の金銭的価値は?公立公園は?家庭菜園で育っている野菜は?)。あるいは、測定から漏れるフローがあり(バスタブの例で言えば、水道管の漏れやバスタブからの蒸発分)記録がないことも一因だ。現金を紛失する人もいる。自家用車が盗まれたり壊れたりしてもその記録がないこともある。もっと大きいのは、どこにも記録されていないアンダーグラウンド活動だ。したがって実際には、測定の難しさやデータが入手できないことから、統計の上で会計的な不整合が生じるものだ。

国民会計のもう一つの目的は、各経済部門が互いにどのように関係しているかを調べることだ。例えば、政府部門によるモノやサービスへの支出(G)は、民間部門への流れをもたらす。また、税(T)は民間部門からの排水だ。下のグラフでは、GがTより多いため、民間部門の貯蓄というバスタブの水が増加している。

この単純な事例では、政府が赤字支出し、民間部門が貯蓄しており、バスタブの水が増えている。ここから、国民所得・生産勘定の有名な最初の等式が得られる。

S ≡ (G-T)

民間部門の貯蓄(S)というフローは、定義により財政赤字の額(G − T)と等しい。常に等しい(≡は、「定義により等しい」を意味している)。

上は政府部門と世帯部門のような二部門経済の場合だった。ここに企業による投資支出を加味するために企業部門を加えると、蛇口をもう一つの加えるのと同様になる。すると恒等式はこうなる。

S = (G-T) + I

ここでIは国内民間投資だ。

さらに海外部門を加える場合は、さらにもう一組の蛇口と排水口が必要になり、完全な等式は次のようになる。

S = (G – T) + I + NX  (NX は純輸出)

これが総貯蓄の恒等式である。