R.レイのMMT入門 第三章第五節 外生金利と量的緩和 

(今回はコラムもやってみました)


第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行
 第一節 国の通貨建てのIOU
 第二節 決済と債務ピラミッド
 第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手
 第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済
 第五節 外生金利と量的緩和
 第六節 中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細
 第七節 財務省の債務オペレーション
 第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ


5. 外生金利と量的緩和

経済学では内生と外生という区分がなされることがあり、三つの異なる場合がある。それは制御的な意味、理論的な意味、統計的な意味の三つだ。このうち統計的な区別に注意するのは計量経済学者だけだ。変数と誤差項との関係にかかわるものだがここでは省略する。 制御的な意味での外生とは、例えば政府はマネーサプライをコントロールしたり、金利をコントロールたり、物価水準をコントロールしたりすることができるか、など、政府が変数を「コントロール」できるか否かの区別だ。
MMTは「内生的貨幣」あるいは「ホリゾンタリスト」アプローチをとっている。中央銀行はマネーサプライや銀行の準備預金を管理することができないという立場だ。 中央銀行がしなければならないのは準備預金に対する過剰な需要に対応することだ(ただし、以下に述べるようにQEによって状況が変わっている)。 (ホリゾンタリズムについてはMoore 1988を見よ) 制御的な意味では、中央銀行の目標金利は明らかに外生的だ。中央銀行は目標を25ベーシスポイントに設定したり、150ベーシスポイントに上げたりすることができる。

制御的な意味と理論的な意味は、お互い関連しているが同じではない。 固定相場制を採用している国があって、そこではある為替レートが設定されており、金利政策を使ってそのレートを維持しているとしよう。その場合金利は外生的に管理されている(中央銀行によって設定されている)と言えるが、理論的には外生的ではない。 理論的な意味では、この中央銀行の行動原理は目標為替レート目標を達成することであり、金利のコントロールを放棄している(金利は目標為替レートを達成するための道具になっている)。 また、ある中央銀行は完全雇用を目標としていて、その目標を達成するために金利を使用しているという場合。 ここでも先の為替レートを目標とする場合と同じように、金利は完全雇用を目指すための道具ということになる。この場合、利子率は制御的な意味で外生的だが、理論的な意味では外生的でない。

上で、我々は通常オーバーナイト金利を制御的な意味で外生的と見なし、準備預金は内生的であるとした。中央銀行は金利目標を達成するために準備預金の需要に対応しているからだ。これが1980年頃から普及してきた「内生的貨幣、水平的な準備預金」のアプローチだ。但し、これが定式化されたのは米国において準備預金に支払われる金利がゼロで、FEDのオーバーナイト金利目標がゼロよりだいぶ上だった時だった。そのような環境では準備預金が過剰になると市場金利(FFレート)が目標を下回ってしまうのでFEDは公開市場で国債を売ることによって準備預金を吸収した。しかし、世界金融危機の結果として、FEDは目標金利をゼロ近くに引き下げ(日本のように)、準備預金が過剰にあることを許容することになり、準備預金に25ベーシスポイントの金利を支払うようになった。銀行がどんなに多くの過剰準備預金を持っていても市場金利は25ベーシスポイント前後のままということになる。この結果銀行は過剰の準備預金に対してFEDから25ベーシスポイントの金利を得ることができるようになり、FF市場ではそれ以下の金利での取引は成立しないことになった。(実際のFFレートは目標より低いところまで下がった。これは過剰の準備預金に金利が支払われないホルダーがいたからだが、専門的なのでここでは無視できる)

量的緩和(QE:Quantitative Easing)と呼ばれるものにより、FEDは銀行の準備預金を銀行が保有していたいと考えている以上に「外生的」に増加させている。ここに非対称性が生じている。つまりFEDは準備預金を目いっぱい超過にしておくことはできても、金利が目標金利を上回るような、準備預金が不足している状態にすることはできない(金利が高くなればFEDが国債を購入する公開市場操作が誘発され、FFレートを目標まで引き下げる)。

まとめよう。平常な環境において、中央銀行は準備預金の需要に対応するので、準備預金量とは「内生的」だ。また央銀行がオーバーナイト金利目標を設定するので、金利は「外生的」だ。ところがQEという状況の下では、中央銀行は常に銀行が持ちたい以上にまで準備預金を増やす一方で、オーバーナイト金利のコントロールを放棄しない限り、銀行が持ちたい量よりも準備預金量を絞ることはできない。 QE状況下ではまた、中央銀行は銀行が保有する準備金に25ベーシス・ポイント(0.25%)の利息を支払い、当座貸越(準備預金の貸出し)からは50ベーシス・ポイント(0.50%)を受け取る。銀行がどれだけ大量の超過準備金を保有していても、オーバーナイト金利はこの範囲内に収まる。


【コラム よくある質問】

Q: FEDはどこから借りいてくるのですか? その限界はありますか? FEDは中小企業を救済する支出をした方が良かったのでは? バーナンキ議長はキーボード入力で銀行を救済したことを認めていませんでしたか?

A: 後ろの二つはその通り、イエスだ。FEDは「キーボード操作」により膨大な準備預金を出現させ、特別ファシリティを通じて準備預金を貸出し、国債を買い、忌々しい住宅ローン担保証券も買った。これをFEDが「借りた」と言うと誤解を招くので、私はその言い方はしない。FEDはキーボード入力一回ごとに入力した数字の負債を負う。準備預金はFEDの負債だからだ。なのでこれを指して「借りている」と言えないことはないし、準備預金を抱えた銀行は債権者なのだから「貸し手」であると言えないこともない。しかしそれはあなたや私が車を借りるために借りるのとはわけが違う。私たちが借りられる金額には限界がある。ところがFEDのキー入力は無限で、この世に存在していなかった準備預金を出現させるものだ。金融危機の後、金融システムを救済するためにFEDはトータルで29兆円を支出し(資産の購入)貸し出した(www.levy.org には沢山の推計がある)。この一部でも中小企業や失業者を救済するのに使ったらよかったのではないだろうか。私はそう思う。おそらく米国人のほとんどは同意だろう。