R.レイのMMT入門 第三章第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済

(あとのために重要な節)


第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行
 第一節 国の通貨建てのIOU
 第二節 決済と債務ピラミッド
 第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手
 第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済 ←いまここ
 第五節 外生金利と量的緩和
 第六節 中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細
 第七節 財務省の債務オペレーション
 第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ


4. 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済

銀行のバランスシートはざっくりこんな感じだ。

私たちの「お金」はどこだろう? バランスシート上では普通預金・当座預金のところにある。私たちのお金は銀行にとってのIOU(借用証書)だ。銀行は求めに応じ預金を現金に交換することを約束している。では、「A銀行」が次の非常にシンプルなバランスシートから事業を始めるとしよう。

まだA銀行が金融業務を始める前だ。店舗の建物を買うためにオーナーが資本金を払い込んだ。そこにお客のX氏がやってきて、車を買いたいから200ドルを借りたいと言ってきた。彼の小切手帳は信用十分だ(所得税の申告や資産証明や信用履歴などを確認した)。X氏との話がまとまり、銀行のバランスシートはこうなる。

銀行の総資産および総負債がどちらも400ドルになったことに注目。いま銀行は200ドルのお金を創造した(X氏の当座口座への預金。それは同時にX氏へのIOUであり、200ドルを支払うという約束だ。)のだ。このあと、X氏はこの預金を使うことになるわけだが、まずはこのバランスシートを注意深く検討してみよう。銀行はいったいどこで貨幣なり、貨幣の記録なりを獲得したのだろう。

  • 銀行はお金をどこかで獲得してきたわけではないのだ。コンピューターに数字(200)を入力することにより ”ex nihilo に”、つまり ゼロから預金が創出された。歴史をひも解くと、かつて銀行が銀行独自の銀行券を発行することもできたこともあったが、現代それができるのは通常は中央銀行だけになっている。
  • A銀行はあらかじめ預金や現金を持っている必要がなかった。実際、A銀行は金庫に現金を持っていなかったし、中央銀行に預金を持っているわけでもなかった。
  • A銀行は持っていた何かを貸したのではなく、単にお金のIOU(銀行預金) の記録を意志的に作った。そのお金を借り手のIOUを購入するのに使っている。
  • このお金の記録とは銀行の負債/IOUである
  • 銀行はIOUを創出することによって次のことを約束する
    • 求めに応じて預金を現金に交換する
    • 銀行に対する債務の支払いとしてこのIOUを受け入れる

預金とは、単純に法的な約束ごとなのだ。求めがあれば現金に交換しますという、あるいは銀行が持っているIOUという形での支払いに充てられますよ、という約束だ。預金通貨は銀行の負債で、その所有は預金者だ。このように、銀行は貸し出しのときに現金を持っている必要はない。

たとえば、ピザ無料券が郵送されてきたとしよう。その券が印刷されたのはピザ屋がピザを焼く前だ。ピザ屋にとって、券をプリントしたり郵送したりする前にピザの準備をしておく必要は全くない。ピザが焼かれるのは、お客がピザ屋で券を渡すときだ。この例で言えば、現金はピザで、無料券は預金に相当する。無料券(預金)はピザ(現金)が必要な時に償還される。ほとんどの人は当座預金に残高を置くだけで満足し、現金に変えることは少ない。後述するように、銀行は求めに応じて現金を容易に準備することができる。問題は現金を準備するにはコストがかかるということだ(たまたま小麦粉が値上がりしたりしたらピザを作るコストも上昇するだろう?)。

この銀行業務(IOUを受け入れ預金通貨を創造することで貸出を行うこと)の成否は以下にかかっている。

  • X氏の返済能力(信用度)
    • もしX氏が借金返済にあたり問題を抱えると、銀行の資産の価値、銀行の資金の流れ、そして最終的には銀行の純資産、自己資本比率、株主への配当に影響が及ぶ。
  • 銀行が準備預金を低コストで調達する能力
  • X氏が現金を引き出そうと望む
  • 銀行は他の銀行から借りる必要がある。銀行間決済。
  • 銀行はX氏から政府への納税を決済する必要がある。

仮にX氏が返済不能になるか、銀行が必要な準備預金を調達できなかったら、銀行はまずいことになる。破産や支払い不能に陥りかねない。前者は純資産がマイナスになること、後者は引き出しや決済に対応する現金残高がなくなってしまうことだ。つまり、銀行は無限に預金を創造できるとはいっても、利益が見込めなかったり、破産や支払い不能のリスクに晒されるので、そこまでするインセンティブ(動機)はない。

では次の段階。X氏が200ドルを支払ったカーディーラーがB銀行に口座を持っているとすると?バランスシートは次のような感じになる。

A銀行はB銀行に200ドルの準備預金を借りているが、どこからそれを得るのだろう。それには少しコストがかかる。資産を売ってもいい(この例でA銀行が持っている資産は建物だけなのでこの方法はコストがかかりすぎる。債権を売る手もあるが持っていない。)し、他の銀行や中央銀行から借りるという方法がある。一般的な方法は中央銀行から借りることだ。中央銀行こそは準備預金の唯一の供給源だ。するとこうなる。

こうしてA銀行はB銀行に対する負債を決済するための準備預金を得た。

これで良し!負債は決済された。A銀行、B銀行、中央銀行の最終的なバランスシートはこうなる。

X氏から受け取る金利が中央銀行に支払う金利よりも高い限り、A銀行は利益を稼ぐことができる。
このときB銀行のバランスシートはこんな感じだ(それまでは準備預金を持っていなかったと仮定)

また、中央銀行のバランスシートはこうだ(それまで銀行に現金や融資を供給していなかったと仮定)

注目すべきは、以上のどの操作も物理的なお金の移動を伴なっていなかったことだ。すべてはキーボードを介したコンピュータへの入力だった。なお、上記の例では説明に関係のある資産や負債のみを示していたことにも注意せよ。当然ながら、民間銀行も中央銀行も多くのその他の資産や負債、純資産をバランスシート上に持っている。

実際には、ふつう中央銀行は準備預金を無担保で銀行に貸し出すことはない。 担保(通常は国債)を要求し、担保の価値よりも少ない金額を貸す。 したがって、銀行Aが300ドルの国債を持っていれば、これで準備預金を貸してくださいと中央銀行に頼むことができる。 中央銀行は、割引率が5%ならば285ドルを貸す。