R.レイのMMT入門 第三章第二節 決済と債務ピラミッド

(ぼちぼちと進めております。この節は旧版の教科書とかなり被っていますね。図を入れたのが自慢です(^^)/)


第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行
 第一節 国の通貨建てのIOU
 第二節 決済と債務ピラミッド
 第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手
 第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済
 第五節 外生金利と量的緩和
 第六節 中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細
 第七節 財務省の債務オペレーション
 第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ


2 決済と債務ピラミッド

「銀行は準備預金を貸し出している」、あるいは、「銀行は貸し出しをする前に準備預金を必要とする」という考え方は認めることができないが、銀行が相互決済のために準備預金を使っているというのは本当だ。準備預金とは、銀行が金庫に持っている現金と中央銀行への預金との合計のことだ。銀行が創出した様々な預金は、部分的には求めがあればすぐに現金または準備預金に転換する約束をしているものだが、銀行が持つ準備預金(ハイパワードマネー)は預金の総額に比較してかなり少額だ。これは一種の「レバレッジ」と言っていい。いつでも通貨または準備預金と交換すると約束しているIOUの量に比して、少量の通貨しか保持していないという運用だからだ。このため民間のIOUには、同時に大量の現金との交換を求められる「取り付け」が起こりうる。銀行はそこまでの量の準備預金は持っていないので、中央銀行は交換が成立するように「最後の貸し手」として自身のIOUを貸し出すことにより、取り付けを止めなくてはならなくなる。このような介入についてはこの本で再び扱う。この節では、銀行間の決済と、政府のIOUを頂点とした債務ピラミッドという概念を論じる。

決済がIOUを消滅させる

銀行は政府のIOUを使って決済を行い、そのために幾分かの現金を金庫に、そして(より重要)中央銀行に準備預金を持っている。さらに、必要に応じもっと多くの準備預金にアクセスすることができる。他の銀行から借りたり(銀行間オーバーナイト市場と呼ばれる。米国ではthe fed funds market)、中央銀行から借りることができるのだ。

現代の金融システムでは、各銀行が必要な通貨と準備預金を確保し、銀行間の決済、そして各銀行の預金者たちの口座の決済をするためのプロシージャが構築されている。第一銀行が第二銀行あての小切手を受け取ると、第一銀行は中央銀行に対し、第二銀行の準備預金から自行の準備預金に振り替えの依頼をする。現代ではこれは電子的に行われる。ここで、第二銀行の資産が減少(準備預金から引き落とされる分)し、負債(当座預金)も同額減少するということに注目。同様に、預金者がATMから現金を引き出すと、銀行の資産(準備預金)が減少し、預金者へのIOU(預金)が同額減少する。

企業もまた自分の口座決済するために銀行の負債を使う。例えば小売業者は商品を卸売業者から受け取る際、一定の期間内に(通常は30日)支払うという約束になっているのが普通だ。卸売業者はそのIOUをその期間が終わるまで、つまり小売業者が銀行口座からの小切手で支払いをするまで保持する(最近は銀行口座間の電子送金が増えている)。卸売業者が保持していた小売業者のIOUは、この支払いがなされた時点で相殺される。

卸売業者が支払期日までの期間を待てないこともある。そのような時、卸売業者は小売業者のIOUを割り引いて(つまり小売業者から期日に受け取る金額よりも安い金額で)売ることもできる。この、小売業者が約束の期日より早く現金化しようとするための割引は利息をもたらす。

通常この割り引かれたIOUの買い手は金融業者だが、この行為は「IOUを”割り引く”(ディスカウント)」と言われる(中央銀行の「割引窓口(ディスカウント・ウインドウ)」というのはこれが語源だ。米国の中央銀行は民間銀行から社債-企業のIOU-を割り引いて購入する)。

通貨をピラミッドとして捉える

民間の金融債務は政府の貨幣単位で評価されているだけではなく、最終的には政府通貨に転換される。

すでに論じたように、銀行は負債を通貨に転換することを公に約束している(普通預金ならば直ちに、定期預金なら時間を置いて)。民間企業は自己の口座の決済に主として銀行の負債を用いる。これは基本的に、決まった期日に「小切手で支払う」ことにより(契約次第だが)、自己の負債を銀行の負債に転換することを約束しているということだ。このため企業は銀行に支払いのための預金を置くか、預金の入手手段を持っておく必要がある。

物事はさらに複雑で、支払いサービスを提供するさまざまな金融業者(非金融業者が金融サービスを提供することも)が存在する。これらの業者は企業に代わって支払いをするのだが、その際これら「ノンバンク系金融機関」(別名「シャドウバンク」)の間では銀行の負債を使った決済がなされる。その銀行は政府の負債を使って決済を行う。

こうして貸し手と借り手の間の口座決済には、最終的には中央銀行の帳簿決済に至る「六次の隔たり」がある(多くのレバレッジ層がある)ということもありうる。

このことを、中央銀行から何段階離れているかによる層で構成される「債務のピラミッド」と考えることができる。下の図を見よ。一番下の層は家計のIOUで、それを持っているのは他の家計だったり、製造業者だったり、銀行やその他の金融機関だったりするだろう。重要なポイントは、家計は通常、債務で上位層にある(通常は)金融機関が発行する負債によって決済をしているということだ。

その一つ上の層は製造業の企業群で、それらの企業の負債を持っているのは主としてピラミッドにおいてより上の層に位置する金融機関で(家計や他の企業に持たれている分もあるとはいえ)、ほとんどの決済はそれらの金融機関によって発行された負債を用いてなされる。

その上が銀行以外の金融機関だ。これらの決済は、さらに上の階層に位置する銀行の負債によってなされる。ピラミッドの頂点の一つ下が銀行で、政府の負債によって決済を行っている。

最後、ピラミッドの最高位は政府で、それより高位の債務は存在しない。

ピラミッド型になっているのには理由が二つある。一つ目は、一般的に高い位置に位置している者が発行した負債ほど受け入れられやすいということだ。いくつかの観点から、信用度の高さが異なっているといえる。(独立政府の不換の負債は信用リスクがない。ピラミッドの上位から銀行、銀行以外の金融機関と下って行って、最後家計のIOUに下がっていくにつれてリスクは高くなっていく。絶対の規則というわけではないが)

第二に、各層の負債は上位層の負債をレバレッジしている傾向がある。この意味で、ピラミッド全体は少ない量の政府債務からレバレッジでできていると言える。少なくとも金融先進的な経済においては、ピラミッドの下に行くほど多量の負債が存在しているのが普通だ。

しかし兌換通貨の場合はピラミッドの頂点に政府通貨が位置しない。政府は需要に応じて通貨を固定の交換比率で別のもの(金や外国通貨)と交換することを約束しているので、その「別のもの」がトップに来る。このことの帰結はすでに論じたとおりで、政府は通貨が交換されるであろう量の当該物を準備しておかなければならない。このことは、政府が完全雇用や強い経済成長といった目標を達成するために使える政策の制約になり得るが、その話題は第五章になる。

このピラミッドはシンプルに作ったものだ。銀行をいくつかの異なるカテゴリーに分類することもできるし、「ノンバンク」のところを企業と家計に分けるといろいろな場合に有益だ。あるいは銀行のIOUとそれ以外の金融機関のIOUを分ける線を引いても構わない。おそらく一番有益なのは、中央銀行に直接アクセスできる銀行とそれ以外の銀行を区別することだろう。

また、構図から次のことが見えてくる。ピラミッドの下の方で何かの問題が起こると(例えば、中央銀行に直接アクセスできないシャドーバンクで)どうなるか?世界金融危機(GFC)で起こったのはまさにこれだった。下層で発行されるIOUは、一定の条件で銀行のIOUと交換できるという条件で発行される。それは結局は政府(中央銀行の準備預金)のIOUと交換できるということにつながる。何か問題が起こったとこにはノンバンクやシャドーバンクは銀行に融通(ノンバンクのIOUに対しての融資)を求める。そして銀行は中央銀行に同じことをする。ところが、景気の見通しが悪いときに銀行は融資しない。かくしてノンバンクは約束を果たせなくなる。2007年暮れの流動性危機はこのようにして始まった。最終的に米国準備制度理事会は、事実上誰に対しても貸し出しをするという決断に至った。投資銀行やその他の「シャドー」銀行部門、さらにはハーレー・ダビッドソンのような非金融企業や外国の中央銀行に対しても。

またピラミッドの概念は、誰かのIOUの支払いに使えるのは誰のIOUだろうかを考えるときに有益だ。
自分のIOUを自分のIOUで返済することはできない(それではまだ借りている)。 それができるのは主権政府だけだ(前に議論したように、女王に5ポンド紙幣を渡しても、彼女は別の5ポンド紙幣をくれるだけだ。彼女はまだ借りている。裁判を起こしてもそれ以外は出てこない!)。 あなたがあなた自身のIOUを返済するときは、誰か別の主体のIOUを使う。これを第二者のIOU、第三者のIOUと言う。(第一者はあなた自身、第二者はあなたへの貸し手、第三者は無関係の主体)。自分自身のIOUを「決済」するとき、ビラミッドの下の方の主体は銀行のIOUを通常使い、そして銀行は政府のIOUを使う。