R.レイのMMT入門 第三章第一節 国の通貨建てのIOU

(第七節の紹介に向けてぼちぼちと。原文を載せていませんが、どこかで意味が通らなかったら翻訳ミスの可能性が高いのでお気軽にご指摘いただきたく)


第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行
 第一節 国の通貨建てのIOU ←いまここ
 第二節 決済と債務ピラミッド
 第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手
 第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済
 第五節 外生金利と量的緩和
 第六節 中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細
 第七節 財務省の債務オペレーション
 第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ


「現代貨幣」制度(ケインズが言ったように「少なくとも4000年前」のものも含まれる)とは、主権者がある一つの貨幣を定めその単位で納税義務を課す形の国定貨幣制度を指す。主権者は国民が納税に使う通貨を発行することができる。この章では現代貨幣制度のオペレーション分析に戻り国定貨幣単位におけるIOU(訳注:借用証書。”I owe you”)の運用を調べよう。


3.1 国の通貨建てのIOU

政府のIOU

これまでの章で、資産や負債は、政府によって選ばれ徴税メカニズムを通じて強制力を付与された貨幣単位で評価されるということを確認した。変動相場制の場合、政府は独自IOUすなわち独自通貨を持ちそれは「不換」である。不換とは、通貨を貴金属や外貨または他のものと交換する約束を政府はしていないという意味だ。政府が約束するのは政府に対する支払い(主として納税だが、手数料や罰金の支払いなども)を自身のIOUで受け入れることだ。これは必要かつ基本的な約束だ。IOUの発行者はIOUによる支払いを受け入れなければならない。 政府が税の支払いに政府自身のIOUを受け入れると約束している限り、政府のIOUには需要があることになる(少なくとも納税のため需要、普通はさらにその他の用途の需要も出てくる)。

一方、政府が求めによって(外貨または貴金属に)交換することを約束している場合(兌換)、政府負債の保有者は、それらへの交換を要求することができるということになる。 これはある意味、政府の通貨を一般に受け入れやすくする面がある。と同時に(先に論じたように)政府には交換を約束した外貨または貴金属を準備しておく必要が生じる。兌換の場合、皮肉なことに、通貨を受け入れてくれる者は多くなるかもしれないが、通貨の発行を増やすと交換の需要に応えられなくなる可能性が高まる。

このため兌換通貨の場合は政府が発行する通貨の量には限界がある。もし通貨の持ち主が政府による交換ができなくなるかもしれないと疑い始めたら、対応して政府が外貨や貴金属の準備を十分に獲得する道筋を立てない限り(保持して置く分と、準備の貸出分のため)ゲームオーバーになる。この対応ができないと、交換の約束を放棄(デフォルト)せざるを得なくなりかねない。デフォルトが迫っているという噂は通貨の取り付け騒ぎを誘発する。そうなったら準備を100パーセント確保する以外にデフォルトを避ける方法はない(あるいは、それらを持っている誰かに頼み込む)。

その地域でその通貨の需要を確実なものにするために、通貨が兌換でなければならないわけではない。すでに述べた通り、政府が課税徴収することができさえすれば、少なくともその通貨にはいくらかの需要が確実にあることになる。ここで必要なのは税をその通貨で支払わせるようにすることだ。この「税の支払い手段として受け入れる約束」がその通貨の需要を引き起こすのに十分な条件ということになる。

民間のIOU

同様に、民間のIOU発行者もまた、自分への支払い手段として自身の負債を受け入れることを約束している。たとえば銀行から住宅ローンを借りている人は、その銀行の預金口座の小切手を切ることで、元本および利息分を支払うことができる。このように銀行は自らのIOUを自分への支払い手段として受け入れている。

現代の銀行システムでは小切手清算システムが運用されているので、国内の別の銀行の預金口座からの小切手による支払いも受け入れられる。こうして誰でも、国内のどの銀行の口座からでも小切手を切ることで債務返済の支払いをすることができる。小切手清算システムが多銀行の間の決済を調整してくれるのだ(このことは次の節で詳しく見る)。ここで重要なのは、政府が自身の負債(通貨)を自身への負債(税金負債)の支払い手段として受け入れるのとちょうど同じように、民間銀行は自身の負債(預金からの小切手)を自身への負債(過去の貸出)への支払い手段として受け入れるという点だ。

レバレッジ

政府と民間銀行には大きな相違点が一つある。銀行は普通、自身の負債を別の形に交換することを約束している。あなたは現金払い買い物の時に、銀行預金からの小切手で支払うことができる。これは「小切手の現金化」と呼ばれるものだ。あるいはATMを使い自分の銀行預金から現金を引き出すこともできる。このどちらの場合も、銀行のIOUが政府のIOUに交換されている。銀行は預金を「需要に応じて」交換する約束(普通預金や当座預金)する場合と、一定期間後に交換する約束(定期預金やCDと言われる譲渡性定期預金)をする場合がある。

この交換業務を行うため銀行は、ある程度の、それほど多くはない量の通貨を金庫に保管している。もしそれで足りなくなりそうになったら警備付きトラックの派遣を中央銀行に要請する。銀行は基本的に大量の現金を持っていたくはないし、通常はその必要もない。現金を多く持ちすぎていると銀行強盗に狙われやすくなるという理由もあるが、持ちすぎないことの一番の理由は、持っていることにコストがかかることだ。目に見えやすいコストとして金庫やガードマンの費用があるが、重要なのは、通貨を準備し持っておくこと自体が利益を生まないという点だ。それを誰かに貸し出して資産の形にしておけば借り手から利息を受け取ることができる。以上のように銀行は通貨準備を「レバレッジ」している。債務としての預金の量と比べ、準備金という形持っている通貨の量はかなり少ない。(セクション3.4では銀行のバランシートを分析する。)

預金者たちが預金を大量に現金に変えようとしてこない通常時はこれで何の問題もない。ところが多くの預金者が同じ日に換金しようとして来る場合、銀行は中央銀行から通貨を獲得してくる必要に迫られる。

極端な場合、銀行に取り付け騒ぎが起こった時に中央銀行が最後の貸し手として準備預金を供給するということもある。このとき中央銀行は自らのIOUを銀行のIOUと交換(担保として引き取る)するのだが、銀行の資産である準備預金に中央銀行からの振り込みがなされ、中央銀行はその銀行のIOUを資産として保持する形になる。現金が銀行から引き出される時に、銀行が中央銀行に置いている準備預金は同額引き落とされ、預金者の口座からも引き落とされている。こうして現金は(もともとの)預金者に持たれることになり、つまり銀行の負債(預金)だったものが中央銀行の負債(通貨)に振り替わったことになる。

次のセクションでは、中央銀行の準備預金を用いて民間銀行同士がどのように互いに決済しあっているかの話題に進む。そこでは債務の「ピラミッド」という議論が展開される。現代経済の中では債務がピラミッド型にレバレッジしていく。通常、負債は、債務ピラミッドでより上位に位置している負債と交換できるという約束で発行されている。この連鎖は最終的には中央銀行、つまり政府の銀行にまで行き着く。