本当のMMTのエッセンス(?): R.レイのMMT入門 第三章第六節

すみませんこれ余りに有益と思うのでこの部分だけゲリラ的に。この次の3.7節とか最高なんですけど、まずここを見ないと。


第三章 国内の金融システム:銀行と中央銀行
 第一節 国の通貨建てのIOU
 第二節 決済と債務ピラミッド
 第三節 金融危機における中央銀行のオペレーション:最後の貸し手
 第四節 銀行のバランスシート、銀行の貨幣創造、銀行間決済
 第五節 外生金利と量的緩和
 第六節 中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細
 第七節 財務省の債務オペレーション
 第八節 中央銀行と財務省の役割についてのまとめ


6.中央銀行と財務省の共同オペ、そのテクニカルな詳細:FEDの場合

ここまで政府支出、徴税、国債の一般的な事例について説明した。その要点はこうだった。政府が支出を行う際、誰かの銀行預金とその銀行への準備預金への記帳が同時に行われる。徴税は、ちょうどこれと正反対の操作で、銀行預金とその銀行の準備預金が引き落とされる。国債の販売では銀行の準備預金から引き落とされる。

財務省と中央銀行の口座を「政府口座」として統合すると一番シンプルに説明できるので便利ではある。しかし、現実世界はもちろんもっと複雑だ。中央銀行と財務省は別々に存在していて、定まった業務手順が採用されている。さらにその操作には制約が課されている。一般的で重要な制約は次の二つだ。 (a)財務省は中央銀行に預金口座を持ち、支出の際にはここから引き出さなくてはならず、(b)中央銀行が財務省から直接国債を購入することと、財務省に貸付を行うこと(これは財務省の預金を直接増加させることになる)が禁じられている 。

ご多分に漏れず米国もこの両方の制約を持っている。この節では、FEDと米国財務省における複合的な操作の手順を見ていこう。スコット・フルワイラーはこの論点にについて一番詳しい経済学者の一人だ。以下の議論は下で引用する彼の説明に依っている。より深く知りたくなった読者は彼の論文に当たるとよい。彼はストック-フロー一貫アプローチを用い、明示的に結論を示している。

ではまず最初に、単純な統合政府(中央銀行+財務省)の例で政府支出の帰結を見てみよう。それを踏まえて現代米国の実例に進もう。 ここでは簡単なT字勘定を用いる。一部の読者には多少の忍耐が必要かもしれないが、これを理解すれば、ここまでこの教科書に出てきた事例をバランスシートを使って学ぶのに役立つだろう。(注:以下のバランスシートは部分的なものだ。何が起こっているかを示すための最低限の項目についてを載せている。)まず、政府が税を課してジェット機を購入する場合をケース1aとして示す。

図3.1 ケース1a:政府は納税義務を課した上で、民間銀行の口座に振り込むことでジェット機を購入

政府はジェット機を、民間のジェット機販売者は預金を獲得している。売り手の純資産は税金義務によって減少し、政府の純資産は増加することに注意せよ(とどのつまり、税の目的とはこれだ。リソースを政府に移管する)。民間銀行は準備預金を得ている。

さて、税が支払われる。このとき納税者の預金と銀行の準備預金からの引き落としがなされる。

図3.2 ケース1aの最終ポジション

政府が「均衡予算」として徴税して支出する場合の帰結は、ジェット機を政府部門所有に移動させ、民間部門の純資産を減らすということになっている。政府はジェット機のようなリソースを獲得するという「公共の目的」を達成するために金融システムを使っているというわけだ。

では次に、政府が赤字財政支出するときは何が起こるかを見てみよう(混乱しないでほしいのだが、税が不必要と論じているわけではない。「税が貨幣を駆動する」と説明したとおりだ。つまりこの場合税制度は別に存在するが、このジェット機は追加の徴税なしで買おうと政府は決めたというわけだ。)

下のように、ジェット機は政府に移動するが、赤字財政支出の場合は民間部門に純金融資産(準備預金)が創出されたことになる(ジェット機の売り手は政府の金融負債である準備預金と同額の預金を保有)。ここで銀行は準備預金をそれだけ余分に持つことになる。銀行としては金利を得たいので、政府は国債を売ってこれに対応する(目標金利を維持するための金融政策の一環として国債が売却される)。

図3.3 ケース1b:赤字財政支出が民間に純資産を創出

図3.4 ケース1b:最終ポジション

純金融資産に変化はないが、準備預金ではなく国債という形態になっている。ケース1aと比較すると、民間部門がだいぶ幸せな状態だ。民間全体の総資産は変わらないまま、実物資産(ジェット機)が金融資産(政府への債権)に形を変えている。

ところが、ああ、これでは簡単すぎる。政府は赤字支出の前に国債を売らなければならないと自分自身を縛ろうと決めていたのだった! そこで下は、銀行が国債を買って政府の預金に入金されたときのバランスだ。

図3.5 政府は赤字支出の前に国債を売っておかなければならない

図3.6 政府が民間銀行に小切手を切ることでジェット機を購入

銀行は、ジェット機の代金分を政府預金から引き落とし売り手の預金に振り込む。最終的なポジションは以下のようになる。

図3.7 ケース2の最終ポジション

これはケース1bと全く同じであることに注目せよ。赤字財政支出に先立って国債を売っても、民間銀行が国債を買い政府が預金から小切手を切るならば、結果は何も変わらない。

ところがさてさて、これでもはまだまだ単純すぎる。では政府の両足も縛ってしまおう。政府は中央銀行以外に持つ口座から小切手を切ることができないという制約を加える。最初のステップ、政府は民間銀行に国債を売って民間銀行の口座に預金を得た。

図3.8 財務省は中央銀行の口座からしか小切手を切れない

そこで財務省はジェット機を買う前にその預金を中央銀行の口座に移しておく必要がある。

図3.9 財務省は中央銀行の口座に預金を移す

財務省が預金を移すときに、移される民間銀行がそのための準備預金をあらかじめ保持しているとは想定できないので、中央銀行が民間銀行に準備預金を貸し出す(あとで見るようにこれは一時的なもの)。さあここまで来てようやく財務省は中央銀行の口座に預金を得たのでジェット機を買う小切手を切ることができる。

図3.10 財務省がジェット機を購入

財務省が支出をすると、それは民間銀行の準備預金に振り込まれるので、民間銀行は中央銀行から一時的に借りていた準備預金を返済することができる。(民間銀行のバンスシートの資産側準備預金に入金し、それと同時に借りていた準備預金が返済として引き落とされる様子を載せることもできるが、図をシンプルに保つために省略した)。最終的なポジションはこうなる。

図3.11 ケース3の最終ポジション

驚いたことにCase 2 や Case 1b と全く同じだ!政府の両手を後ろに縛り、両足を縛っても何も変わらないのだ。

さて、以上はまだ単純化した思考実験だった。米国の現実では、これがどのように行われているだろう。実際、財務省は民間銀行と連邦準備制度の両方の口座を保持しており、小切手を書くことができるのは連邦準備制度理事会だけで、財務省から国債を直接購入することは禁止されている(そして財務省の口座は当座貸越はできないとされている)。 民間銀行にある財務省口座の預金は(ほとんど)税収から来ている、その預金で小切手を切ることはできない。 したがって財務省は、支出する前に預金を民間銀行から移転する必要があり、納税額が低いときには預金を得るために国債を売却する必要が出てくる。次の節では、その実際の手順を見ていく。 警告:うんざりだぞ。