現代金融理論(MMT)ー 伝統的ではない経済運営提案

Modern Monetary Theory is an unconventional take on economic strategy
By Dylan Matthews February 18, 2012

ttps://www.washingtonpost.com/business/modern-monetary-theory-is-an-unconventional-take-on-economic-strategy/2012/02/15/gIQAR8uPMR_story.html?utm_term=.e970b3c85502
(旧記事の翻訳です)


ジェームス・K・”ジェイミー”・ガルブレイスは約11年前のことを覚えている。数百人の同僚経済学者たちは彼を笑った。真正面から、ホワイトハウスで。

2000年4月のことだった。ガルブレイスはビル・クリントン大統領の委員会で、財政黒字について招待講演を行った。ガルブレイスが選ばれたのは自然なことだった。テキサス大学の公共政策の教授、その前は両院合同経済委員会の主席エコノミストという経歴で、しょっちゅうマスコミに寄稿し、議会証言もしていた。

さらに彼の父、ジョン・ケネス・ガルブレイスはその世代では最も有名な経済学者だった。ハーバード大学教授でベストセラーの著者、ケネディ一族の懐刀だった。ジャミーには父の伝説を発展継承する役割が期待されていた。

委員会でガルブレイスは浮いていてたのは、彼のメッセージが型破りだったからだ。財政黒字とは、常識的な見方では好機だ。公債の返済、減税、給付金の強化、新支出計画の検討を行うチャンスだ。支出して経済を助けるべき時だというわけだ。

彼の見方では、財政黒字は危機だ。政府が黒字を続けると、人々や企業によって支出されるべき貨幣が国の金庫に集まる。

「私は”昔の経済学者は財政の黒字は財政的の(経済の)重荷と理解していた”、と言ったんだ」彼は言う。「250人の経済学者の前でね。クスクス笑われたよ。」

ガルブレイスは、2001年の不況 — 数年の黒字の後に起こった — が自分の正しさを証明しているという。

その十年後、連邦財政赤字が上昇するについてワシントンの見解は割れていた。ガルブレイスが心配したのは赤字を小さく抑え続けることの危険性だった。負債は重要なのか、またどのように重要なのかの経済学論争の主要人物に彼はなっていた。この問題は全米のトップ経済学者の間でも意見が分かれ、学者間の熱い議論を呼んだ。政策担当者がどの見解を採用するかが、雇用、物価、税制などすべてに影響するような状況だった。

負債を減らすために支出を減らし税収を上げよと主張する財政タカ派に対し、経済が回復すまでは緊縮を避けるべきだとする財政ハト派だ。ガルブレイスはどちらでもない財政フクロウ派だ。フクロウも財政を急いで均衡させる必要は一切ないと考える。ただ、そもそも均衡させる必要を認めていないのだ。フクロウは好況時であっても経済成長のために赤字財政支出が不可欠なのだと考える。

フクロウというのはガルブレイスの言葉ではない。そう言い始めたのはミズーリ大学カンザスシティ校の教授、ステファニー・ケルトンだ。彼女はガルブレイスとともに小さな経済学者グループのメンバーだ。そのグループの結論はこうだ。国会議員もシンクタンク員も主流経済学者も、皆、政府が経済とどのようにかかわりあっているかを間違えて理解している、と。もし彼らの理論— “Modern Monetary Theory(現代金融理論)” または MMT と呼ばれる— が正しければ、私たちが負債や税、連邦準備金について知っていると思っていたことはすべて間違いだったということになる。

ルーツはケインズ

”現代金融理論(Modern Monetary Theory)”はオーストラリアの経済学者ビル・ミッチェルによって確立され主導されているが、そのルーツはかなり古い。この呼び方は現代マクロ経済学の創始者である、ジョン・メイナード・ケインズにちなんでいる。「貨幣論」でケインズは次のように主張した。「すべての近代国家」は少なくとも向こう4000年の間、貨幣を何であり何がそうでないのかを決定する能力を持っている。

貨幣は「国の創出物」であるというその主張はこの理論の中核になっている。米国ほかの信用紙幣制度の下にある地域においては、貨幣は政府によって無限にを創造され、印刷され、流通される。この考えをそのまま押し進めれば政府が貨幣を使い果たすことはありえないということになる。政府は常に貨幣を作ることができるのだ。

だからと言って税が不要というわけではい。実は、システム全体を動かす鍵が税なのだ。税を払う必要があることによって人々は印刷紙幣を使う。また税は経済の加熱を防ぐためにも必要だ。入手できる財の供給より消費者需要が大きい場合、物価が上昇しインフレーション(物価が上昇するとともに購買力が落ちる)が起こる。

また、もしこの理論が正しければ、政府が支出に合わせた額の税を集める理由はない、ということになる。実際、この理論の推進者たちは不況期における強力な減税と財政支出を求めている。

ワレン・モズラーはヘッジファンドマネージャーで — 節税を兼ねて — バージン諸島のセント・クロイ島に住んでいる。彼も主導者の一人だ。おそらく彼のスポーツカー会社の方で有名だろう。またしょっちゅう選挙運動をやっている(2010コネチカット州上院選では1%弱の票を得た)。彼の主張は、社会保障年金信託基金の原資としての給与税を停止して、不況対策として政府は希望者全員に時給8ドルの職を提供せよ、というものだ。

この理論の推進者は主として二つの組織が関係している。ミズーリ大学カンザスシティ校の経済学部と、バード大学のレビー・エコノミックス・インスティテュートで、どちらもモズラーの寄付を受けている。しかしこの運動が支持者を爆発的に増やしているのは主として経済系のブログを通してだ。Naked Capitalismは金融経済系の不遜で情熱的なブログだが、月に100万人に近い読者を集めているのだが、ケルトンや同僚のミズーリ大教授であるL・ランダル・レイ、ワートバーグ大学教授のスコット・フルワイラーを登場させている。New Deal 2.0,という、リベラル・ルーズベルト・インスティテュートを基盤とする経済「オタク」ブログも同様だ。

支持者たちは、主流マクロ経済学者がMMT理論をブログで取り上げようものなら、コメント欄に熱狂的に殺到する。レイの仕事は主要なリベラルブログである影響を持つFiredoglake, やニューヨークタイムスop-ed page. でも取り上げられるようになった。「危機が後押しとはなったが、大きいのはブログ空間だった」、とレイは言う。「何しろ本を出版することができた。学会誌のメインストリームから外れていると思われるようなものを出版することはとてもむつかしいものだ。」。

とりわけガルブレイス、はそのメッセージをthe Daily Beastから議会に至るまで広く広めてきた。彼が助言した議員には、例えば2008年の金融危機の時に下院議長だったNancy Pelosi (民主党、カリフォルニア選出)も含まれる。昨年夏、彼は債務シーリングの議論についての議員グループと意見交換を行った。彼はオバマ政権が財政刺激パッケージを設計する際に政策指南したわずかな人数の経済学者の一人だった。「失うものが一番多いのはジェイミーだ」ケルトンは言う。「本当に勇気があると思います。あれほどのビッグネームでとても尊敬されているのですから。」

レイたちも同じことを言う。彼らも政策立案者への助言をしてきたが、この理論の時代が来たというはっきりとした手ごたえがあるという。「ウエブでの我々の存在感は数カ月ごとに一段階上がっている感じだ。」とフルワイラーは言う。

対立理論

赤字支出によって経済を不況から脱出させるという考えは古くからある。それはケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」の核心だった。2009年の経済対策の主要な根拠であり、前ホワイトハウスアドバイザーのクリスティーナ・ローマーや経済学者のポール・クルーグマンら、ケインジアンを名乗る多くの専門家はもっと支出すべきだと主張した。もちろん、敵も多い。

カギとなる分裂は1930年代に遡る。ノーベル賞受賞者のジョン・ヒックスやポール・サミュエルソンらの経済学者グループは、ケインズの洞察を古典的な経済学に導入する試みを推進した。ヒックスは、ケインズ理論を要約し数学的なモデルに落とし込んだ。サミュエルソンはケインズのマクロ経済学(経済の振る舞いを全体として捉える)を伝統的な経済学(人々や企業がどのように資源を配置するかに注目する)を統合しようとした。これがその後のマクロ経済理論の舞台を用意することになった。現在でもグレッグ・マンキュー(ハーバード大学の経済学者で、ジョージ・W・ブッシュの首席経済アドバイザー)やローマーの夫デイビッドといった「ニューケインジアン」たちは企業や消費者のミクロレベルの行動をケインジアンマクロ経済理論の土台に結びつけようと模索している。

MMTの理論家たちはジョーン・ロビンソン、ニコラス・カルドア、ハイマン・ミンスキーらによって確立した”ポストケインジアン”の伝統の上にいる。彼らはサミュエルソンの理論は失敗だと主張する。ガルブレイスの言葉では、そのモデルは「あたかも金融部門が存在しない」からだ。

個人の系譜もある。レイはミンスキーの指導で博士号をとり、ガルブレイスはケンブリッジ大学でロビンソンやカルドアに学んだ。ガルブレイスは言う。この理論は「ケインズから父、そしてミンスキーと流れてきたもう一つの伝統」の一部なのだと。

そしてMMTの推進者たちは、その出発点は不況時の積極赤字財政を唱導したケインズだとしているが、いわゆるケインジアンとは異なる。主流の経済学者たちで財政支出の声を上げている経済学者たちも、MMT理論の中心的な主張はしぶしぶながら認めている。たとえばクルーグマンは横断的な経済学者の議論にしょっちゅう参加している。クルーグマンは好況時に巨大な財政赤字を目指したらハイパーインフレーションを招くかもしれないと論じた。マンキューは政府が支払い不能になることは決してないということは認めたものの、別の考え方をしている。

技術的には正しい、と彼は言う。政府はいくらでも貨幣を印刷のでデフォルトすることはない。そのリスクは、それがインフレ率を大きく引き上げるきっかけになりうることだ。金融制度の大半を破産させてしまうだろう。デフォルトは大きな痛みではあるが、それよりはマシだと。

マンキューの批評はMMTに関する議論の核心を突いている。今の赤字はいつどのように処理されるのか、また、消すべきものなのかという問題だ。

赤字支出を実行する時、政府は公開市場に国債を売り出す。もし政府の債務が大きくなり過ぎたら、主流経済学者によれば、国際の買い手が高金利を要求するだろう。すると政府の利払いが膨れ上がりそれが借金に加算されていく。

そのサイクルから脱するためにFED — 国の金融システムの中心で通貨供給と信用を管理する — は、より低金利で国債を買うことができる。民間市場をバイパスするのだ。ところがFEDが国債を直接購入することはできないそれはできない—法で禁じられているためだ。あるいはFEDは自分で印刷したマネーで国債を買うかもしれない。それはマネーサプライの増加を意味する。するとインフレ率が上昇し、その先にはハイパーインフレーションが待っているだろう。

「赤字政府を運営し続けることは不可能だ。なぜならインフレーションが始まり、やがてその経済からリソースを吸い上げるよりも早くインフレ率が上昇してしまう。」と言うのはノースカロライナ大学の経済学者カール・スミスだ。「これが古典的なハイパーインフレーション問題で、ジンバブエとワイマール共和国で起こったことだ。」

インフレーションのリスクについて、主流経済学者と政策担当者は大筋で同じ考え方を持っている。中期的には — 他の条件が同じであれば — 赤字を小さく保つことがとにかく重要だ。

MMT陣営の経済学者も場合によっては財政赤字がインフレーションを引き起こすことを認めている。しかしそれが起こるのは完全雇用の時のみだという主張だ。職を望む人が全員雇用されており遊休資源(労働力、資本など)がない場合だ。ガルブレイスは言う。「それが問題になるような近代の事例は一つも思いつかない。」

「いわゆる需要要因で深刻なインフレが問題に最後になったと言えるのはWWIにさかのぼる。」ガルブレイスは言う。「その恐れが実際に最後に観察されてから長い時間がたっているし、WWIの状況はもう決して再現されることがありえないものだ。」

批判に対する反論

ガルブレイスたちによれば、現在FEDによって為されている金融政策は機能してない。FEDは成長と雇用を守るために通常一つまたは二つのレバーを使う。まず、公開市場で短期国債を購入することで短期金利を下げることができる。現在のように、短期金利がゼロに近い場合は、「量的緩和」または大規模な民間部門からの資産(たとえば債権。長期国さうも含まれる)購入することができる。FEDが2008年から2010にかけて行ったのがこれで、経済を再加速するための緊急的な努力だった。

MMTによれば、FEDが国債を買い上げれば、ガルブレイスの表現では「帳簿操作」であり、家計の所得を増加させることはないのでインフレに誘導することはできない。

「私には明らかなのだが、、、国債を買い上げることで経済にマネーを溢れさせる、、、それは人々の行動を変えはしない」、ガルブレイスは言う。「それは結局金融システム内部に積みあがるだけであるし、それはまさに実際に起こっていたことだ」。

理論家ですら「量的緩和がどのように機能するか見当もついていない」、と言うのはジョー・ギャグノンだ。彼はピーターソン研究所のエコノミストで、2008年の量的緩和の第一ラウンドの際にFEDで重要な役割を果たした人物だ。仮にもし、準備預金に保持されていたマネーやFEDが国債を購入するために使ったマネーが準備預金口座にそのまま滞留するとしても、これらの準備預金の増大は貸出を増やし経済全体を刺激するはずというのだ。

主流の反論はもう一つある。財政赤字はそれ自体経済にとって良くないのだと。MMT理論によれば、政府が黒字となると政府が貯蓄者となり、すなわち民間部門が負債を負うことを意味する。政府は事実上、「民間の財布からマネーを取り上げさらなる高負債に沈めさえることになるのだ。」これはホワイトハウスを去るときのガルブレイスのコメントだ。

主流派はガルブレイスがクリントンにプレゼンを行ったときと同じようにこの議論を一笑に付す。「私の答えは単語二つ。オーストラリア、カナダ。」ギャグノンは言う。「ジェイミー・ガルブレイスもこの二国を調べれば直ちに自分が間違っている証拠を見るだろう。オーストラリアはずっと財政黒字を続けていて国家負債は事実上ないが、急成長しつつも世界一の健全財政だ。」カナダも同じように高成長を達成しつつ継続的な財政黒字を維持している。

そのような質問に対し、ガルブレイスは彼を「あまりにも偏っている」と評する。彼が学位を取るためにケンブリッジからイエール大学に来た頃の経済学部はさらに保守的なケインズ経済学の牙城だった。
ガルブレイスによれば、サミュエルソンやその一派の成功は「経済思想のマスマーケティングの成果で、サミュエルソンはその巨匠だ。ケンブリッジ学派はそういうことができなかった。」

主流の経済学者は負けを認めたがらない。1960年代のいわゆる「ケンブリッジ資本論争」のような事例でさえだ。サミュエルソンはポストケインジアンと論争し、本人が敗北を認めた。しかしそのような事例は、ガルブレイスが言うには経済史から「トロツキーのようにエアブラシで消された」のだ。

ところで、MMT独特の現実世界との関係はちょっとしたギャンブルにもなり得る。モズラーはヘッジファンドマネージャーだが、1990年初頭のひらめきによりムーブメントにその名を刻んだ。その頃、イタリアはデフォルト寸前というのが市場の認識だった。モズラーは、当時イタリアは独自通貨リラを持っており、イタリアがリラを印刷できる限りデフォルトはないと判断した。彼はそちらに賭け、イタリアはデフォルトせず、大金を手にした。「デフォルトはできないという考えに近づいた人の周りには巨悪の金が落ちていたんだ」。

十年後、彼は巨額の金を失うこともあると学んだ。ロシアにデフォルト懸念が生じたとき、彼は再度デフォルトはない方に賭けた。ロシアは自国通貨を持っていたがデフォルトを実行し、モズラーはファンドを一つ溶かし、8億5千万ドルの投資の大半を失うことになった。モズラーは、ロシアが固定相場制をとっていたためだとしている。独自通貨を持っているような振る舞いさえすればデフォルトは回避できたはずだと。

しかしこのことは批判者の主張を証明したかもしれない。デフォルトは技術的には常に避けられるが、場合によっては最善の選択肢にかもしれない、との。


関連として、「廣宮孝信の「国の借金」“新常識”」にもMMTに関するNYTの記事翻訳があります。
http://grandpalais1975.blog104.fc2.com/blog-entry-590.html