NHK BIZ PLUS:ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授へのインタビュー(10/30/2013)

以下の文は、NHK Biz plusの番組サイト、飯田香織経済キャスターブログから「10/30/2013 Joseph Stiglitz, Professor at Columbia University」の翻訳になります。番組サイトによるおおまかな翻訳はこちらを。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。


■アメリカ経済の現状をどう見ますか?

危なっかしいですね。明らかに以前よりは良くなっています。住宅の余剰は解消されて、住宅事業は回復しつつありますが、危機以前とは程遠い状態です。

石油部門とガス部門は本当にアメリカ経済に恩恵を与えていて、燃料費は値下がりし、それが大きな利点となっています。だが、他方では、政府による緊縮政策、不確実性、財政の崖、政府機関のシャットダウン(一時閉鎖)、債務の天井などによる被害も出ている。通常のマクロ経済学の枠組みで言えば、支出を切り詰めた時には経済は減退するものであり、それは強力な民間部門が需給ギャップを埋められないような場合には特にそうです。今後、2%くらいの成長率が予想されていますが、それでは以前ほどの雇用を創出するのにも不十分で、かろうじて現状維持に持って行くのがやっとです。失業率は少し下がっているが、それは人々が労働市場から退出しているからであって、実際に雇用が増えているからではない。

■以前、世界経済の懸念は日本だとも言われましたが、今やアメリカが最大の懸念とも言われていますね。政府機関のシャットダウンなどいったいどうなっているのでしょうか?

それは政治的な問題としても、もっと深刻な根底にある問題としても説明することができます。政治の問題で言えば、共和党員と民主党員との間に大きな断絶がある。彼らの世界の見方はまったく異なっている。何がこの危機を起こしたのかという問題ですらそうです。民主党員は銀行部門の過剰や、上手く機能していない市場を不景気の根本的な要因だと見ている。共和党員は政府の責任にしたがっている。独立した機関の全国調査でそんな証拠はないと述べられているのに、彼らは、市場は常に効率的で、問題があるとすればそれは常に政府の仕業に違いないとする考えに固執している。

だから人々はこの世界を二つの異なったレンズで見るようになっている。そして、この二つの異なった世界観は科学や、科学の価値、気候変動は存在するのかといった他の課題にも及んでいる。共和党員は気候変動を否定する。少なくとも彼らの多くが否定しています。その他にも非常に多くの課題で、彼らはまったく異なる世界観を持っているので、妥協するのがすごく難しくなっている。

■スティグリッツ教授は、クリントン政権下でCEA委員長を務めました。当時だって民主・共和の対立はあったはずですが、さらに対立が激しくなっているように見えます。いかがでしょうか?

根底にある問題の一つは、社会の断絶がどんどん広がっていて、我々はますます分断された社会、金持ちと貧しい人が切り離された社会で暮らすようになっていることです。1%の人々が本当に飛びぬけたお金を手に入れるようになり、20年前と比べて、お金が政治に果たす重要性がどんどん大きくなっている。お金は我々の社会を蝕み、ほんの少数の金持ちが莫大な影響力を持てるようになっている。アメリカにはゲリマンダーがあって、それはすごく共和党が強い地域と民主党が強い地域がそれぞれ存在すると言うことです。その結果として、下院はますます極端主義者ばかりになっている。

強固な共和党寄りの地域に住むか、強固な民主党寄りの地域に住むしかないので、政治家は平均的なアメリカ人にアピールするのではなく、両極化した選挙区の住人にアピールしようとする。だから、私はそのことと怒っている人々がたくさんいるという事実、アメリカ男性の所得が40年間も沈滞しているという事実との間には関係があると考えている。そんなことが起こっていて幸せなわけがない。彼らは現在起こっていることを正確に診断できていないのかもしれない。どんな人がそのような過激主義者の主張を支持しているか調べてみれば、不釣合いなほど男性が多い。そして、不釣合いなほど不平を抱いた人々です。だから、この種の両極化には我々の社会の中に深刻な原因が存在すると考えている。

■おととしの「ウォール街を占拠せよ」運動の現場にも足を運んでおられましたが、その後、あの運動はどうなったのでしょうか?

99%の人々は今でも99%のままです。あの運動は今起こっている不平等の問題に全てのアメリカ人の注意を向けさせる心理的効果があった。社会の不平等や、この問題を引き起こした銀行が全てのお金を手に入れていることに対して。この問題を前面に押し出すのにすごく効果があった。でも、それは組織されたものではなかったし、金融部門への反対運動をやろうとしても彼らはすごく金持ちで、すごく組織化されているので、徒手空拳では運動になりません。だから、組織無しでは継続するのは不可能だし、彼らは組織化したくなかったんです。

あなたが彼らの話を聞かなくなったのは、問題が解決したからではありません。実際には、2009年から2011年までの経済成長の内95%がトップ1%の元に流れている。状況はますます悪化しています。

【イエレン次期FRB議長】
■2001年のノーベル経済学賞は、ジョージ・アケロフさんも共同受賞されました。アケロフさんの妻がイエレン次期FRB議長ですが、イエレンさんも直接ご存知では?

よく知っています。彼女は私の教え子です。

■どのような学生でしたか?

彼女は素晴らしい学生でした。私が始めて授業を受け持ったの年のことです。彼女は偉大な学生で、すごくいい論文を書いています。快活な性格でありつつ断固としたところもありました。そしてすごく几帳面です。彼女は素晴らしい議長になると思います。

■イエレン氏のもとで、FRBの金融政策はどう変わりますか?

継続性があると思います。彼女は、FRBがヨーロッパのようにインフレについてだけの責務を負っているのではく、インフレに加え、雇用の増加や金融の安定についての責務を負っていることも理解している。彼女はその責務についても真剣に取り組むでしょう。現在のアメリカの主要な問題が失業です。当然のことながら、彼女は失業に焦点を当て続けると思います。一般的なコンセンサスとして、少なくとも今後数年の内にアメリカ経済が完全雇用に近い状況に戻ることはないと考えられているが、これはまだ楽観的なほうです。悲観派は十年たっても無理だと見てています。だから、FRBが失業に焦点を当て続けることが必要なんです。

私自身の感覚としては、金融政策は限定的な役割で、本当に必要なのは財政政策です。まさにその場でワシントンの停滞が起こっていることが非常に逆効果になっている。

■そうしますと、FRBが今の量的緩和を縮小するとどんな影響が出ますか?

量的緩和はすごく大きな効果はなかった。緩和縮小もすごく大きな効果はありそうにない。それがすごく大きな効果を生まなかった理由の一つは、まだ金融機関を完全に修理できていないので、蛇口をひねっても給水が上手く行かないからです。マネーはアメリカで必要とされる所までたどり着かない。だから、SME(Small Medium-sized Enterprize)貸出しは危機以前より20%にも下回っている。FRBの流動性を増やそうとする必死の努力にもかかわらず、想定された効果を生むには至ってない。

ただ、いくらか心配すべきは、明らかに、市場は不合理で、時に過剰反応することです。彼らはやがて緩和縮小が終了することは認識しているはずなんですが、それによってパニックが起こっても考えられないことではない。過剰反応が起こる可能性もある。アメリカ経済への影響は新興国市場での影響よりも小さくなるでしょう。新興国市場がずいぶん改善しているのは良いニュースで、彼らは多額の預金を所有しています。新興国のほとんどが多額の預金を持っていて、彼らは緩和縮小が起こるのをずっと待っていたし、それを待ち望んできました。世界経済はこれを通して前に進んで行くことができると思います。

【世界経済】
■いま新興国のお話がありましたが、世界経済全体についてはどう見ていますか?

ヨーロッパのことは今でも非常に心配しています。私はヨーロッパの構造に根本的な欠陥があると考えているからこそ心配してるんです。彼らが不景気は終わったという時、ほんの些細な経済成長を自らの政策が成功している証拠だと勝利宣言を出しているのを聞いているとすごく心配になります。ヨーロッパで起こっていることを私が見れば、スペインの失業率は25%で、若年失業率は50%です。私に言わせれば、彼らの政策は完全な災厄です。経済成長しているといっても、この失業率を下げるのには何年も何年もかかるでしょう。そうなると失われた世代、失われた十年を作り出すことになる。それはまったく必要ないことです。

新興国市場は鈍化していて、それは明らかなことですが、すごくすごく高い成長レベルから下がっているということです。私は、貧困と戦うためにも、先進工業国とのギャップを埋めるためにも新興国は高成長が必要なのだから、少しの成長の鈍化でも心配すべきことで、実際にがっかりしているんですが、歴史的に見れば4,5%の成長率というのは悪いものではない。そして中国の成長率は7%です。これは歴史的な観点からすれば全然悪いものではない。

■その中国経済の先行きはどうでしょうか?

中国政府は理解しているのでしょうが、中国経済は軸足を移す必要がある。彼らは今まで十年間変わろうとしてきました。投資主導、輸出主導の経済からもっと持続性のある経済モデルへと。彼らはもっと消費する社会へ転向すべきだという人もいますが、私はそれが正しい道だとは思わない。なぜなら中国人がアメリカ型の消費パターンを採用すれば、この地球は生存できないからです。彼らがそうしないことを望みたい。だが、彼らは健康や教育、中国への投資、都市インフラへの投資は必要としている。これからますます都市に住む人が増加して行くので、居住に適した都市や公園をどんどん建設する必要がある。
都市に住む人々の福利を改善していくのに経済の焦点を変えて行くことが不可欠だと私は考えている。

【アベノミクス】
■ことしに入って3度目の来日ですよね?これまでも聞いていますが、現段階で、アベノミクスの成果をどう評価しますか?

今でも希望を持っています。一本目の矢である金融政策は、ほとんどの人々が期待し、考えていたよりも成功していると思う。ほとんどの人はそれが成功することを期待していたんですが、彼らが予想していたよりも明白に成功している。それは上手く行っています。財政政策は機能しているが、真の問題は、消費税が増税される際の不確実性です。私は、常に、日本は炭素税を導入したほうがいいと考えてきました。消費増税の影響を相殺するために法人税を下げるという議論があります。それは間違いだと思う。法人税を下げると、投資が増えるという証拠はないし、それはトップ層の人々が常に提唱する典型的なトリクルダウン経済学です。

私が主張している政策は、法人税を上げて、投資をする人に対する税率を下げることです。そうすれば、投資のインセンティブを生み出すことが出来る。経済システムからただお金を持ち出すだけなら税金を課しますよ、と。でも、お金を経済システムに返すなら、税金を低くしてやるんです。それが私の推薦する政策です。三本目の矢は成長構造です。私が最後に日本を訪れた時にも、そこに何が加えられるべきか多くの議論がありました。すでに明らかになってきていたが、問題点も多々あった。

■大企業がまず潤えば、賃金の上昇などを通じて社会全体に効果が波及するのでは?

それは機能しません。それが機能しないのには多くの理由がある。トップ層の人々にお金を投げ入れる時の問題の一つが、彼らは大金持ちなので、支出をこれ以上増やさないし、増やせないということです。支出を増やすにしても、彼らは絵画収集のようなことに支出する。ゴッホの絵にもっとお金が使われても、ゴッホはもう絵を描きません。彼は100年以上前に死んでいますから!! だから、新たな雇用は全く生み出せないんです。問題は、我々が欲しているのは今日の普通の人々が生産している商品を人々が購入することです。それこそが「トリクルダウン経済学」が機能しない理由です。

■富裕層ではなく、企業がまず潤いことは?

大企業は必要なお金を全て持っています。それが原因で支出を止めているのではない。どうすれば彼らが支出を止めるのか私にははっきり分からないが、お金が足りていないからでないことは確かです。だからこそ、彼らが支出しようとするインセンティブを与えることが必要です。

■確認ですが、日本についても同じですか?

日本でも同じです。だから、我が経済に投資するんであれば税金を下げますよ、投資しないんであれば、我々がそのお金を経済のために使います、と言うのがいいでしょう。だから、お金を持ってきてください、我々はたくさんの良い投資機会を保証しますからと。日本は教育や科学技術にもっと投資する必要がある。民間部門にそれが出来ないのであれば、政府がそれをやらなければならない。

■アベノミクスの成功には今、何が必要ですか?

他の二つの柱も具体化していくべきだと思います。財政政策で経済を刺激し続けなければならない。私は、法人税減税のようなトリクルダウン経済学を当てにして、財政政策が止められることを心配しています。消費税の増税が経済を減退させることになるので、それを相殺するために何が出来るのか問う必要がある。相殺するために何が出来るのか慎重に考えなければならない。私は当初から炭素税がいいと考えていました。構造的な問題は最も困難なものになるでしょう。そして、おそらく最も政治的な論争を生むことにもなる。まだ十分な注意を払われていない重要な投資分野がある。具体的にいえば、科学技術への投資や大学への投資です。注目すべきなのは、私も以前に参照したことがあるOECDの調査では、日本は文章的スキル、数学的スキル、問題解決能力のスキルで優れていることです。日本は科学技術の基礎研究でもっと大きなインパクトを与えていてもいいはずなんです…。もっと大学や基礎研究やグローバル化に投資をして、日本をもっとグローバル化、世界経済との一体化を進めていけば、もっと多くのインパクトを与えられると私は考えている。

■アベノミクスが成功すれば、安倍総理大臣は、あなたと同じように、ノーベル経済学賞を受賞できますか?

そういう発想は、人々が成功した経済政策と考えることにとって重要です。金融政策だけ、財政政策だけ、構造政策だけといった単純すぎる政策は過去のものになります。本当に必要なのはアベノミクスのような包括的な政策だと人々は言うようになるでしょう。

一度に三つのことは出来ないという人もいます。彼が成功すれば、それが可能だと証明することになります。明らかにそれは困難なことで、政策のあらゆる段階で常に意見の相違があるでしょうが、特に難しいのは構造問題になると思います。彼がポジティブな構造改革案を出せればいいのですが、しばしば構造改革案は規制や社会的保護の廃止を意味するものとされ、そうなると下層の人々を守るものがなくなります。私が望んでいるのはポジティブな構造改革です。日本経済を転換して行くのに役立つ政策、もっと女性の労働力参加を増やすのに役立つ政策、経済のグローバル化に役立つ政策、こういった政策を首相に採用してほしい。

【経済学者の役割】
■経済学者からの具体的で現実的な提言が少なくなっているとも聞きますが、経済学者の役割をどう見ていますか?

一歩下がって、経済学者はポジティブな役割もネガティブな役割も果たしうることを指摘しておきたい。アメリカにおける問題の一つが、我々が [1] 「cool-aid」と呼んでいるものを妄信する経済学者が多すぎることです。彼らは、市場が常に完全で、常に機能し、安定したものだと信じていて、アラン・グリーンスパンのような人に規制をするな、何もするなと説き伏せました。その結果がこの災厄です。これらは複雑な問題で、全ての経済学者の間で同意があるわけではない。だが、私は、経済学者や民主主義はこれらの問題に関する論争を促進するという重要な役割を果たすことが出来ると考えている。何が歳入を増やすのに最良の方法なのか、どうすれば経済を成長させ続けられる最良の方法は何か、どうすれば我々の社会や経済をもっと良い場所に変えていけるための最良の方法は何か、といった問題について活発な議論があるべきでしょう。

学究的な経済学者がいることは非常に重要です。商売でやっている経済学者はそれ自体が売り物ではないですから。それは自己利益追及のためのものです。CEOが税金を下げろというのはよく理解できます。彼らが脅しのために、税金を下げないんだったら、他の場所に移るぞ、というのはよく理解できます。企業が言いたいのは、税金をかけるんだったら、1,2%の税率引き下げなどいらない、日本以外の別の場所で仕事をするから、ということなんでしょうが、私ならどうぞと言います。日本には良質な労働環境があって、OECDの中で最も教育水準の高い人口がいます。それは価値があるものではないですか? 何の価値もないんですか? それらのことにはお金を払う必要がある。組織的で、文明的な社会の代価を払わなければならない。

アメリカで、私が見るところ最悪のただ乗り企業であるアップルは税金から逃れるために策略を使い、どこの州にも属さない場所に住所のある企業を作ることによって全く税金を払っていない。彼らはアメリカ政府が出資したインターネットという便益や、アメリカの教養の高い人々や、アメリカのインフラを使って利益を上げているのに貢献する気はないんです。私ならそのような不道徳な人々にこう言います。ここから出て行ってくれ、我々は社会に貢献していく意志があって、建設的に社会を活用していく別の人を見つけるから。

■ありがとうございました。


  1. 「Drinking the Kool-Aid」で妄信するという意味ですが(参照)、「cool-aid」になっているのは援助に冷たいという意味かも []