「Fedによるインフレ目標の実態 ~上限値としての2%~」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “At Least the Fed Has An Inflation Target, Right?”(Macro and Other Market Musings, September 27, 2013)の訳。


この度の危機が勃発してから早5年が経過しているわけだが、未だFedは名目GDP水準目標(NGDPLT)を採用するには至っていない。このような批判めいたコメントに対しては次のような反論の声があがるかもしれない。そうは言っても、この危機の最中にFedはインフレ目標の明示的な採用に動いたわけで、そういう意味ではちょっとした慰みになるではないか。2012年1月にインフレ目標の採用を正式に決定した際、FOMCは新たに掲げられた2%のインフレ目標の達成に真剣に取り組むと語ったではないか、と。

長期にわたるインフレーションを決定づける主たる要因は金融政策であり、それゆえ、FOMCはインフレーションの長期的な目標(ゴール)を具体的に(数値で)特定する能力を備えていると言える。この度FOMCは、長期的に見て、PCE(個人消費支出物価指数)ベースで年率2%のインフレ率がFedに課せられた法的責務に最も合致するものである、との判断に至った。このように国民に対してインフレーションの長期的な目標(ゴール)が明瞭なかたちで伝えられることにより、長期的なインフレ期待の安定化につながるものと思われる。長期的なインフレ期待が安定することになれば、物価と長期金利もまた安定するだけではなく、経済的な攪乱が発生した場合にFedが雇用の最大化を図る能力が強化されることにもなるだろう。

これまで私自身語ってきたように(こちらこちらを参照)、経済が大規模な供給ショックにしばしば襲われるような場合には、インフレ目標は問題含みの政策枠組みであると言える。その一方で、総需要ショック(総需要不足)が原因で景気の低迷がもたらされている状況においては、中央銀行がインフレ目標の採用に動くということは喜ばしいニュースであるはずだ。明示的なインフレ目標の採用によりFedは-インフレ目標があくまで暗黙的な目標にとどまっていた時と比べて-なお一層力強い行動に打って出る必要に迫られることになるはずである。言い換えると、明示的なインフレ目標の採用はFedに対して上で引用したパラグラフで約束されている数々の素晴らしい結果の達成に向けてあらゆる行動に打って出るよう迫ることになるはずである。

それでは、ここでFedによるインフレ目標の実態に目をやることにしよう。Fedが自ら課した目標である「コアPCE2%」という基準に照らしてこれまでの結果はどうなっているだろうか?

Fedは正式なインフレ目標の採用を通じて約束したことを果たしてはいないようである。インフレ率が平均的に見て目標である2%に落ち着くように試みているのではなく、どうもFedは2%をインフレ目標の上限値として設定しているように見える。同時に、インフレ目標の下限値は1%のあたりに置かれているようだ。この「1%~2%」という目標レンジ(下限値を1%、上限値を2%とする幅のあるインフレ目標)は今回の危機が勃発してから今日に至るまでずっと守られてきているようである。また、以下のチャートにあるように、Fedによる国債の購入はその後のインフレ率の変動と密接に関連付けられているようだ。Fedの量的緩和プログラムは一見したところその場しのぎであるかのような節が感じられるが、実際はそれほどアドホックなものではないのかもしれない。量的緩和はコアPCEで測ったインフレ率が「1%~2%」というレンジに収まるように運営されてきた可能性があるのだ。

今週のことだが、ジャステン・ウォルファーズ(Justin Wolfers)が第2四半期のPCEデフレーターが低下している事実を指摘している。Fedが2%のインフレ目標を掲げていることを考えると、どうしてFedはこのような事態を放っておくのか不思議でならないと彼は述べている。その答えは、Fedのインフレ目標は実のところ2%を上限値とする幅のあるインフレ目標だからだ、ということのように私には思える。

このことはライアン・アヴェント(Ryan Avent)がかねてから指摘していることである。昨年(2012年)の4月に彼は次のように語っている

Fedによる2つ目の過ちは、2%をターゲットではなく上限値として扱っていることである。・・・Fedが好んで参照するコアPCEで測ったインフレはこれまで2%を下回ったままである。2月のコアPCEは前年比プラス1.9%の上昇を記録し、年率換算では1.6%の上昇という結果だった。また、予想インフレ率は2月以降安定的に低下している。

Fedが2%を上限値として扱っていることを示すもっと説得的な証拠は、Fedが発表している今後3年間にわたるインフレ見通し(pdf)の中で2%が上限値であるかのようになっていることだろう。Fedがインフレ目標に対して対称的なアプローチで臨むつもりだとすれば-昨日バーナンキ議長はそう語ったわけだが-、2%はレンジの上限値ではなく中央値となってしかるべきはずだろう。このような状況(Fedが2%を上限値として扱っていること)はのっぴきならないことである。それというのも、Fedの予測によると、今後3年間のうちに失業率が(Fedが推計する)自然失業率のレンジ(5.2%~6.0%)にまで低下しそうにないからだ。失業率が自然失業率に最も近づくのは2014年と見込まれている。とは言っても、2014年の失業率の下限値(の予測)はFedが推計する自然失業率のレンジの上限値(6.0%)を0.7%ポイント上回っているのである。

Fedは一連の経済学者-ポール・クルーグマン(Paul Krugman)やケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)、グレッグ・マンキュー(Greg Mankiw) 、そして・・・・ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)-が要求している目標(ガイドポスト)の達成に失敗しているだけではない。自分自身が掲げた目標の達成にも失敗しているのである。それも一貫して。

さて、Fedが正式にインフレ目標を採用したことで一体何が変わったのだろうか? 一層の混乱がもたらされたことを除けば、何も変わってはいない。いや、先日のノー・テイパー(量的緩和の縮小延期)の大失敗がいい例だが、Fedは混乱をもたらすことにかけてはますます長けてきているように見える。このような状況は終わりにしなければならない。金融政策が経済状況の変化に応じて変更されるにしても、その変更が予測可能かつ系統的なかたちで行われるように工夫する必要がある。現在のFedの金融政策はそうはなっていないのである。