NHK Biz plus:ジェフリー・サックス・コロンビア大学教授へのインタビュー(5/31/2013)

以下の文は、NHK Biz plusの番組サイト、飯田香織経済キャスターブログから「5/31/2013 Jeffery Sachs, The Earth Institute, Columbia University」の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。


■日本経済の問題の“本質”は何だと思いますか?

日本は驚くほど洗練された社会で偉大なテクノロジーの供給者だと思います。グローバルな観点からも、私は世界中を旅行してきましたが、日本は偉大なサクセスストーリーであり、それは長きに及んでいる。でも、もちろん、人々はそれほど良いと感じてるわけではない。日本経済は数年前の大地震や金融危機によって大きな打撃をこうむった。さまざまな銀行危機や20年前にはバブルもありました。でも、私は、この国が世界最悪と言えるような経済状態だとは思わない。それこそ私が主張したい点です。なぜなら、国際的な新聞では時に、日本を惨憺たるもの、20年に及び失敗してきたと書いてありますから。

私は定期的に日本に来ている。日本は悲惨には見えない。どう見ても悲惨とは言えないと思う。だが、日本はもっと上手くやることもできた。私は「アベノミクス」がきっと日本経済を前進させると考えている。私がなされるべきだと考えていた重要な政策が現在実行されているのを見てすごく喜んでいる。

■日銀の黒田総裁が進める金融政策をどう評価しますか?

まず、黒田氏は世界最高の経済政策担当者だと考えています。私は彼を数十年前から、様々な立場の時に知っているので、彼が日本銀行の総裁になった時は興奮しました。彼はずば抜けていると思います。

二つ目に、私は、彼が経済を再びインフレに持っていくために貨幣供給を増やそうとしているのは正しいアプローチだと考えます。その政策の短期での効果はもちろん円安で、それが日本経済の成長を後押しする。すごく直接的な効果がある。貨幣供給を増やす、円が安くなる、それが輸出と利益を増やし、経済を成長させる。すごく基本的で、すごく標準的。ずっと前にやっておくべきだったんでしょうが。現在、幸運なことに、黒田氏がその政策を採っている。本当のところ、他の中央銀行――FRBやヨーロッパ中央銀行――は数年前にそれとまったく同じ政策を採っていた。一方、日本銀行は手をこまねいているだけだった。それが意味するのは円高であり、日本の輸出産業はさらに窒息させられた。要するに、ずっと前に転換されるべきだったものが今になってようやく転換されたということです。だから私は、黒田氏が正しい方針を取っているものと確信している。

■この政策は持続可能でしょうか?

間違いなく、持続可能です。日銀が貨幣供給を増やす。それで通貨が安くなり、デフレから抜け出す助けになる。だから、このことが分かっている私からすれば、この政策に対する厳しい批判が何を根拠にしているのか理解できない。特に、株式市場が乱高下し、数日前には大幅に値下がりすると、人々は「これは恐ろしい」「きっと何かが間違ってる」と言い出す。でも、これは適切なアプローチであり、日本が必要としていることなんですよ。短期的に見て最も重要な点は円安です。それは素晴らしく聞こえないかもしれないが、実際には日本にとって良いことであり、日本の輸出産業そして経済成長の加速にとって良いことです。

■先ほど、米FRBとヨーロッパ中央銀行の金融緩和について触れられました。日銀を含めて先進国の緩和マネーは世界経済にどう影響しますか?

もちろん流動性の緩和に関して注意する必要はある。なぜなら、様々な種類のバブルにつながる可能性がありますから。それはリスクです。私が強調したいのは、金融政策で全ての問題を解決することはできないということです。金融政策はある特定の問題に対処できるものであって、日本の場合には、円を1ドル80円より安くすることができる。私は個人的には110円くらいが適切だと考えている。今はまだそこまで行っていないが、その程度の円安でもこの国にとっては良いことだし、世界全体にとっても素晴らしいことだと思う。それこそ金融政策ができることです。

それは全ての構造改革を解決するものではない。財政問題を解決するものではないし、高齢化問題を解決するものでないし、為替以外の国際競争力を解決するものでもなければ、エネルギー危機や環境破壊からの救済になるものでもないが、金融政策にはできることがある。そして現在の問題は、中央銀行だけが政策手段になれることです。

問題の一つは、現在、アメリカでは財政政策が完全に麻痺していることです。ヨーロッパでも、ユーロ危機のため大部分が麻痺している。だから、皆が全ての問題を解決するものとして中央銀行に目を向けるようになっている…そして彼らはそれを実行することができていない。だが、少なくとも適度なリフレ政策は良いことです。バブルを発生させないよう注意しなくてはいけないし、金融部門を規制する必要はありますが。アメリカの規制政策は間違ったモデルです。それは数多く悪用され、時に犯罪にまでつながった。日本銀行は以前よりも金融を緩和しているので、注意をする必要があるし、銀行が無作法なことをしないよう、他人のお金をでたらめなギャンブルに使わせないよう、金融市場が単なる新たなカジノにならないようにする必要がある。それはウォール街で起こったことです。それが日本で起こらないようにしてほしい。

■日本ではむしろ金融機関が「優良な投資先がない」として積極的な融資をせず、日本国債を購入していることが問題ではないでしょうか?

私はそれがカギとなる問題だと考えている。余剰資金がつみ上がっているが、それはアメリカ企業も同じです。それは大きな問題です――なぜアメリカの企業部門や日本の企業部門はもっと投資しないのか?

私自身の感覚では、それはもっと深い事象、つまり世界の経済活動の多くが新興国市場に移っていることを反映している。企業はアメリカや日本などの高コスト国であまり投資する魅力を感じなくなっている。彼らは中国に投資したいか、他の新興国で投資したい。だから、我々はもっと複雑な世界環境の中にいると私は感じていて、そこでは単なる短期の金融的・マクロ経済的トレンドを超えた、多くの強力なトレンドが進行している。

だから、我々はその疑問に答えを見出す必要がある。なぜ日本でもっと多くの企業投資がないのか? それに対して何をすべきなのか? 私が期待しているのは、日本が例えばアフリカなどの新たな市場に繰り出してその魔術的な力を試してみることです。もしくはアジアの低賃金国でもいいのですが、そこでは素晴らしい日本製品があって、これらの貧しい国はそれらの製品を大変必要としている。私はそれらの市場が十分に開発されてるとは思わないし、日本はその他の市場でも十分に競争できている。だから、それは日本が成長し、経済を再起動させるための手段の一つになる。今までずっと伝統的な手段であった単にアメリカやヨーロッパに頼るという手法ではなく。

■その新興国についてお尋ねします。最近、タイ、トルコ、韓国などが通貨高を背景に、利下げに動きました。競うように金融緩和をする状況は健全ですか?

資金が他の国に流れていることは驚きではない。それらの国の通貨はそれによって高くなる。そこで中央銀行は独自の金融緩和でそれに対応する。そうして世界で流動性が緩和される状況になったわけです。これは世界経済を刺激する助けになる。最近、世界経済の成長率の予測値が上方修正されたが、それは良いことです。でも、我々は1990年代後期、2008年とバブルを経験してきているので、そのことについてすごく心配しています。金融緩和の程度に関しては注意深くなる必要があるし、それだけに頼りすぎてはいけない。それが良質な金融政策管理の技術です。ある点までは良く行っているものが、その点を越えると危険になってしまう。その境界線を見つけるのは簡単ではない。そこに良質な政策決定の妙技がある。確かに、我々は過去20年大失敗してきたし、そのポイントを見失ってしまった。

■その一方で、米FRBが金融緩和を縮小するのではないかという見方が広がっています。どういう影響が考えられますか?

流動性の緩和が打ち切られれば、利子率は上昇することになり、多くの市場関係者はまだその変化に対しての用意ができていないと人々は感じるでしょう。かなり劇的な調整の可能性もある。私は株式市場の変動を数日単位で解釈するのは好きではないんですが、FRBが量的緩和を縮小するという噂が出ただけで、日本の金融市場にとって大きな衝撃となった。それは単なる噂であって、実際には一年後とかの話だったのに。

そのことが示しているのは、我々は株式市場の変動をまだ十分にマスターできていないし、残念ながら2008年の後ですら、一般的に、規制された金融システムの下部にある現実に直面できていない。我々は今でも多くの不安定性に対して無防備です。このことは明白で、今でも危険性のある問題であり、特に我が国、アメリカの失敗を示していると私は考えている。なぜならアメリカ人は2008年のリーマンショックの教訓を十分に理解しないままで、何をすべきだったのか語っているからです。

単純に、銀行は政治的に力を持ちすぎて、ワシントンが銀行を規制するというより、銀行がワシントンを動かすようになった。そのために真の改革ができなかった。

■政府や中央銀行は、市場を制御できるものでしょうか?

政府や中央銀行は制御できます…政府や中央銀行は銀行を制御できる…すうすべきではある…かつてアメリカの金融機関は規制されていました。銀行は十分な資本を積み立てておく必要があった。アメリカはかつて商業銀行と投資銀行、そしてヘッジファンドを分離していた。現在では、その全てがシティグループなどでは一緒になっている。そして、そのことが現在の危機の重大な要因の一つになっている。だが、その現実と直面するべき時になっても、アメリカ政府はそれらの企業が巨大化していくのを放置するという過ちを犯し、実際問題として金融機関が政府よりも巨大になってしまった。そうして、金融機関は政府に自分たちには手を出すなと言い、政府は「分かってる、分かってる、あなたたちには手出ししないよ」と言うようになった。

■先ほど教授も指摘されましたが、どの国もいわば“金融政策一本足打法”です。どうしてこういうことになったと思いますか?

一般的に、先進国における経済政策は全て非常に近視眼的であり、非常に短期的だと考えている。日本の政治サイクルはすごく短い。アメリカでは総選挙が2年ごとにあり、4年ごとに大統領選挙があるが、それは重要な構造問題に対処するには短すぎる。我々にはどうすれば中国を世界経済に組み込むことができるのか、どうやって製造業型経済をサービス業型経済に移行することができるのか、どうすれば若年層に21世紀に必要となる教育を受けさせることができるのかといった大きな問題がある。それらは難問であり、もっと重要かもしれない問題…気候変動にどう対処すべきか、どうすれば低炭素のエネルギー源に移行できるのか、具体的に言えば、福島の事故の後に原子力に対してどう取り組んでいくのか?

それらは普通の政府や普通の政治家にとっては大きすぎる問題です。おそらく安倍総理は違うのでしょうが、政治家たちは多くの場合これらの問題を避けて通る。アメリカでは、これらの問題と深刻に取り組もうとする政治家はいない。アメリカの政治家は常に次の選挙のことだけを見ていて、それはいつでも2年以内にやってくるものなんです。彼らは常に選挙資金を稼ぎ出すことを考えている。だから我々は日本でその答えを見つけようとしている。なぜなら我が国の政府システムはもっと大きな経済問題に対処するのに十分なものではないですから。

■金融政策への依存が高い理由として「財政に依存できなくなったから」的なことを指摘するのかと思いました。

私が言っているのは、なぜアメリカや日本でこんなに債務が積み上がってしまったかといえば、人々が税金を払いたがらないからですよ。人々は政府が必要とするだけのお金を払いたくない。そうして莫大な借金が積み上がってしまった。でも、それは政府が責任ある態度を取ろうとしない、我々の言い方でいえば中期的な財政の枠組み、5年から10年といったスパンで財政を均衡させる意思がないからだと考えています。アメリカでは、選挙に勝つ唯一の方法は有権者に税金を下げると約束することになっている。そして選挙資金を稼ぐ唯一の方法はお金持ちに税金なんて払う必要がない、そんなことを心配する必要などないと約束することです。そうなると我々の税収は相対的に小さくなってしまう。その後で、我々は政府に退職後のこと、医療のこと、道路や電力のこと、インフラや環境、職業訓練の世話をしてくれと求める。重要なことが数多くあるのに、我々アメリカ人は多くの戦争まで戦っている。

これらの全てに費用がかかる。それなのに、アメリカの人々は「気にするな、税金なんて払わなくていい」と言われる。そして債務が積み上がっていく。興味深いことに、日本の国民経済に対する総税収の水準はアメリカと同じくらいの国民所得に対して30%くらいで、カナダやイギリスはもとより、ドイツやスカンジナビア諸国のGNPに対して40%、多いところでは45%といった水準と比べると非常に低い。だから日本が莫大な債務、莫大な財政赤字を抱えるようになったのは、単純に、政府が収支を均衡するために必要なだけの税金を徴集できないからだと思います。私の意見では、それをやるべきなんです。

■サックス教授は多くの国の政府のアドバイザーをされていますが、仮に日本政府にアドバイスをするとすれば?

最優先に取り組むべきカギとなる問題は生活の質のことだとアドバイスします。経済を人々の必要性を満たすものにしたい。それが最初のポイントです。我々はGNPのために生きているのではなく、GNPは我々の必要性と合致したものであるべきです。2番目に、物理的環境に注意する必要がある。そのことをまったく忘れてはいけない。我々は短期的な事柄と戦っていく中で、重要な長期的事柄を忘れがちだからです。でも、重要な気象危機は存在しているし、それはどんどん深刻になっている。このことは、我々が新たな世界的エネルギーシステムを必要としていることを示している。日本はエネルギー効率の改善がすごく得意です。他の国にもそのやり方を教えていくべきでしょう。炭素排出量を減らす計画も維持すべきです。3番目に、真の経済成長はアジアやアフリカの新興国から来ると言っておきたい。日本に関して言えば、日本には偉大なテクノロジーと偉大な企業があり、新たな市場で勝ち抜いていく能力と、発展途上国の経済をより先進的でより技術的に洗練されたものにしていく方法について数多くのことを教える能力がある。だから30人以上のアフリカのリーダーを招待した横浜での第5回アフリカ開発会議に参加できてすごく幸せです。

日本はそれにふさわしい。先日、安倍首相と会う機会があった時にそのことを話しました。アフリカでの日本の役割について私がどれだけ熱心か強調しておきました。アフリカは巨大な市場だが、日本は発展のための手助けをすることができる。日本にとってもアフリカにとっても関係が緊密になることで両者共に得をすると私は考えている。

■アフリカで中国の存在感が高まっている中で日本の役割が大きいという意味でしょうか?

それは私のようなずっとアフリカ中を行き来してきた身からすれば非常に驚きです。アメリカ企業は見かけない。日本企業も見かけない。目にするのは中国企業だけです。彼らはそこが我々にとっても未来の市場となることを理解しているんじゃないでしょうか? 我々もアフリカに向かうようになればいいと思います。