経済エリートたちに広がる危険な敗北主義

Scott Summer が ”Read the entire article, it’s great.  He has the same views as I do, but writes far better.” とおっしゃったので翻訳。 

 原文は Telegraph:05 Sep 2010 By Ambrose Evans-Pritchard


ゴルディロックス[1]がアメリカでいたずらしている。
 今の経済成長は、慢性的な失業率が戦後最高まで上昇し、国民生活を蝕むレベルに張り付こうとするのを阻止するほど温かくないが、迅速な刺激策に対する地方連銀の激しい抵抗をねじ伏せるほどには冷たくもない。
 

米国経済は失速している。直近の四半期成長率は5%、2.7%、1.6%(下方修正されるだろう)で推移しており、戦後最悪の回復ぶりだ。 

先週のデータは恐れていたほど悪くはなかったが、相変わらず酷い。製造業の受注は過去15カ月で最低。8月は54000の雇用が失われ、U6失業率[2] は16.5pcから16.7pcに上昇した。米国は現状維持のためだけにも月に150,000の雇用を創出しなければならないにも関わらず。社会の不景気は改善どころか悪化しつつある。 

筋金入りの熊 [3] たちは、これから在庫上昇が減速して刺激の追い風も逆風に転じ、下半期の成長率は1%を下回り、失敗の余地がなくなってしまうだろうと考えている。 

バンクオブアメリカの Ethan Harris ら穏やかな熊たちは、経済は二番底に近い状態でもたつくとだろうと言う。「すでに”グロース・リセッション(成長率鈍化)”であり、来年の前半まで長引くだろうというのが我々の感覚だ」と彼は言った。これ以上の悪化はしないだろうと結論する理由として、FEDはもし必要になれば6ヶ月毎に5,000~7,500億ドル規模の追加QE(量的緩和)に踏み込むだろうとの予測を挙げた。 

しかしそれは誰にもわからない。既に金利をゼロに切り下げ、1.7兆ドルの債権を買ったFEDに出来ることは残されていないと主張する有名人が列を作っている。「もう大砲を撃っている」と前連銀理事の Alan Blinder は言った。 

「Fedに出来ることがたくさんあるとは全く思えない」とハーバード大学の Martin Feldstein は言った。 

「追加QEの効果は非常に小さい」と、テイラールールの John Taylor (スタンフォード大学)。 

「米国は弾を撃ち尽くした。これ以上QEしても何も変わらないだろう」、悲観論博士 Nouriel Roubini。 

落ち着こう、みんな。なるほど負債によって将来の繁栄を奪われいている米国に安易な抜け道はないが、こんな風に行き詰った敗北主義に陥る理由はない。アメリカのエリートを支配する”正統ニューケインジアン”モデルは明らかに知的消耗を起こしてしまっている。 

使おうと思えば、そして正しく使えばだが、FEDには中性子爆弾がある。メイナード・ケインズが一般理論に迷い込む前の1930年に「貨幣論」の中で提案した「最大限の金融緩和」をすることができる。 

市場に債権買いの急襲を仕掛けるのだ。ただし銀行システムからなるべく離れたところ、保険会社・年金基金・一般投資家から買う。これにより古典的なフィッシャー/フリードマンの貨幣数量理論が働いて、広範なM3マネーを崩壊するままにしておく替わりに(そう。”マネタリーベース”は急上昇したが、あれはひっかけだ)拡大牽引する力をもたらすだろう。 

これはFEDの金融機関から債権を買い取ることで金利を下げようとするQEとは全く異なる。バーナンキの「信用主義(creditism)」はしないよりはましだが、拡大牽引力を持ち得ていない。 

「バーナンキはおよそ役に立たない信用緩和バブルを続けている。彼も彼のスタッフもノンバンクからの資産購入と銀行からの購入の違いを正しく理解していないように見える」とインターナショナルマネタリーリサーチの Tim Congdon 氏は言う。大雑把に言えば、銀行はマネーの上に坐り込むが、それ以外はマネーを使うものなのだ。 

7500億ドルの急襲QEを正しく実行すれば3カ月でM3は5%上昇するだろうと Congdon 氏は言う。「これは米国経済の見晴らしをがらっと転換させるだろう」 アメリカが漂流する代わりに。今アメリカはワシントンが認めたがっているよりも日本型の罠に近づいているし、(日本と)似た観念的麻痺のためにそこから逃れられないのかもしれない。 

2002年にバーナンキ博士は、日本は沈滞から抜け出すための手段を持っていたにも関わらず、それをすることに失敗したと言った。政治的膠着と正しい政策の見方を巡る不協和が行動を妨げた。中央銀行は、ゼロ金利になってもタマを撃ち尽くしたわけでは「間違いなく」なかったし、「経済活動を拡張するための相当な力」を残していた、と彼は主張した。 

けれども8年後、米国もそんな「膠着状態」に陥っている。さらに悪いことに今FEDの理事たちは「ボールは財政にある」と言い、財政政策はFEDによる従前の刺激策ともっと”歩調を合わせる”べきだと論じている。おいおい! 

それは最悪の処方箋だ。必要なのは、制御不能な債務スパイラルに陥る前に(ゆっくりと)財政を引き締めながら、同時に金融緩和と正しいQEを可能な限り続けることだ。その方式こそが1931-1933年と1992-1994年に英国を惨事から救ったのだ。 

他国の反対なんてどうでもいい。彼らは長い間米国需要にタダ乗りしてきた。ドル安はあの重商主義者たちを、いくらか厳しい真実に直面させるだろう。そう、あのヘリコプター隊をよく整備してスタンバイさせておこう。

  1. 訳注1: 英国童話参照。景気過熱でも後退でもない状態をGoldilocks Economy と表現することがあるそうです []
  2. 訳注2:U6失業率とは、【(完全失業者+縁辺労働者+経済情勢のためにパートタイムで就業している者) / (労働力人口+縁辺労働者) 】、だそうです。こちらを見ました。 []
  3. 訳注3:熊=弱気筋。Don’t sell the bearskin before you’ve caught the bear. という諺より。 []