NGDP先物市場が必要なワケ BY LARS CHRISTENSEN

以下はLars Chirstensen “This is why we need an NGDP futures market“(25 June 2013)の訳です。誤訳等あれば御指摘頂けると幸いです。


ちょっと前まで世界の金融市場は回復への上り調子一辺倒だった。大体においてはFEDがバーナンキ・エヴァンスルールを言外に示した時から、投資家たちは実質、名目双方のGDP成長というアメリカ経済の回復に賭け続けているし、2%インフレターゲットを実施するという日銀の断固とした行動もこうした雰囲気を後押しした。しかし、ここ数週間のうちに世界の金融市場は再び騒がしくなり、様相はそれまでよりもずっとややこしいことになってきた。

問題の核心は、ここにきてどうして市場の変動が大きくなったのかがきちんと分かっていないということだ。互いに相反するような説明がいくつもある。もっともよく言われているのは、これは全て量的緩和の「先細り」を発表したバーナンキのミスであるというもので、それによって市場が将来における金融引締を予想した価格付けしたために、インフレ期待と株価が下落する中で債権利回りが上昇することとなったとしている。対抗説としては、今回の原因はバーナンキではなく、国内投資家の持つアメリカ財務証券をも含む投資資産の流動化を推し進めている中国にあるというものがある。ここ数ヶ月のバーナンキの発言が悪影響を及ぼしたということも確かだとは思うけれど、僕としては後者の理論のほうに強く傾いている。

こうした市場の変動の原因が何であるかということが、どうして重要なんだろうか。僕らが世界的な総需要の収縮に直面しているとあらゆるが示していて、だからこそ中央銀行は金融緩和によって対応すべきだと言うだけではいけないんだろうか。答えはイエスでもありノーでもある。あらゆる場所で実際金融引締が起こっているということが明らかであるという意味ではイエス。しかし、必ずしもそうであることが先週までは明らかではなかったという意味ではノーだ。

低いインフレ期待=金融緩和とは限らない

おもしろいことに、いまやある意味においては全員がマーケットマネタリストになったようだ。みんながFEDは(悪い)コミュニケーションを通じて市場を動かしていると考えており、コメンテイターたちはインフレに関する市場の期待のような金融情勢の市場指標をきっちりと見ている。

そして多くの懸念を呼んでいるのはもちろんインフレ期待の急降下であるし、中央銀行は金融情勢の一指標としてインフレ期待をしっかりと注視する必要があるということにも、僕ははっきりと同意する。それでも、インフレ期待の原因には金融引締とプラスの供給ショックの双方があるということは、絶対に心に留めておく必要がある。

マーケットマネタリストは当然のことながら、中央銀行はそれがプラスであってもマイナスであっても供給ショックには対応すべきでないとしているし、僕は実のところここ最近のアメリカ(とその他の場所)におけるインフレ期待の低下は、大部分がプラスの供給ショックによるものだと考えている。これは実質GDP成長にとっては朗報だ。実質債権利回りの上昇とも整合的だし、必ずしも問題じゃない(デイビッド・ベックワースはここでそうしたことを言っている)。したがって、もしインフレ期待の下落が主にアメリカの金融引締によって起きたのであったら、アメリカ株式市場の急落が予期されてしかるべきだったし、ドルも強くなっていたはずだ。

これはもちろんここ数週間かそこらの間に起こっていたことではあるけれど、そこに至る前の前の一ヶ月は違った。その期間においては実のところドルは徐々に弱くなっていたし、アメリカ株式市場はかなりいい調子が続いていた。僕にはこれがインフレ期待の低下がアメリカの金融引締によってのみ起こったものではないという印であるように見える。

僕はその代わり、中国の深刻な金融引締が世界の商品価格の下落を引き起こしたと考えている。これはもちろん中国においてはマイナスの需要ショックだけれど、アメリカ経済にとってはプラスの供給ショックだ。もしこれのみが原因なのであれば、マーケットマネタリストの観点からは、FEDはさらなる金融緩和に踏み出すべきだと主張するのは難しくなるだろう。プラスの供給ショックへの金融緩和での対応に反対する5月中旬からの僕の主張についてはここから見てほしい。

混乱を避ける-NGDP先物市場の設立

何が起こっているのか市場を「読む」というのがとても簡単な場合がある。例えば、今中国の金融状況がどんどん引き締められているのはとても明らかだけれど、でもアメリカの金融状況が実際のところここ1ヶ月あたりでどれだけ引き締められたかを知るのはそれよりも難しいし、債券市場はそれ自身の良い指標ではないことは確かだ(流動性/フロー効果VS期待効果)。

その場合、適切なアメリカの金融政策の対応というのは何になるのだろうか。主に供給ショックによるものと、主に需要ショックによあるものとでは、適切な対応というのは大きく異なってくる。そして市場で何が起きているかについていささか困惑しているのは、もちろんのことながら僕だけじゃない。政策決定者もおそらく少なくとも同じ程度(そしておそらくはそれ以上)には困惑している。

あらゆる困惑を避けるための最善の方法は、もちろん中央銀行の目標、正にそれ自体の市場を設立することだ。そういったことから、インフレ目標を採用している中央銀行にとってはインフレ連動債がある。しかし供給ショックに対応してしまうことを避けようとするならば、インフレ連動債は金融政策にとっては実のところ良い指標ではない。僕らが本当に必要なのはNGDP連動債だ。アメリカの話をするならば、したがって財務省がこうした債権を発行すべきだ。

アメリカのNGDPに連動した債権が今あれば、市場が実際金融引締に対応して価格付けをしているのかどうか、そしてそれが不安の種であるかどうかというのがとても簡単に分かっただろう。さらには、それによって債券利回りの上昇が金融の引締と緩和のどちら(実のところどちらでもありうる)を示しているのかという、いつもの議論からも僕らは開放されるだろう。

そして最終的には、もしNGDP連動のアメリカ政府債があったとしたら、FEDは「先細り」のタイミングを市場に完全に任せることができただろう(これについて詳細はここを見てほしい)。

追記:スコット・サムナーエヴァン・ソルタスが同じような議論を行っている。