「アベノミクスとフランクリン・ルーズベルト」 by Gauti Eggertsson

以下は、Gauti B. Eggertsson, “Abenomics and FDR”(Economic Notes, April 4, 2013)の訳。


過去数ヶ月のうちで経済政策の分野で起こった最も注目すべき出来事は、日本銀行と日本政府がデフレからの脱却に向けて金融政策と財政政策とをはっきりと(明示的に)「協調させる(コーディネートさせる)」決意を固めたことだろう。日本で生じているこの政策面での新たな動きは(新しい首相(安倍晋三)の名前にちなんで)「アベノミクス」の名で喧伝されている。アベノミクスの目標は、長年にわたって続いたデフレから脱却し、年率およそ2%のインフレ率を達成することにある。その目標を達成するために具体的にどのような行動を採るつもりであるのかについてはこれまでにも様々にその概要が伝えられている。

例えば、去る1月に日本政府と日本銀行は政策協調に関する声明(pdf)(日本語はこちら(pdf))を共同で発表しており、本日(4月4日)になって日本銀行から追加的な行動の概要が明らかにされた(詳しくはこちら(pdf)(日本語はこちら(pdf))を参照のこと)。

これら一連の政策行動がどのような動機に基づいているかは明らかである。まず第一に、インフレ期待の喚起を通じてデフレが予想されている状況からインフレが予想される状況へと移行することになれば、実質金利が低下することになるだろう。その結果、将来よりも今現在支出した方が相対的に魅力的に感じられることになるだろう。つまり、インフレ期待が喚起されることになれば、通常の金融政策と同じようなかたちで、総需要の刺激につながるはずである。第二に、ほどほどのインフレが生じることになれば、借り手が負う債務の負担が和らげられる可能性があり、その結果としても総需要が刺激されることになるかもしれない。特に、経済が深刻な不況下にあって、(経済が落ち込む以前の時期に)過剰な債務を積み上げた経済主体が「デレバレッジ」(債務の圧縮)を進める必要性に迫られているようなケースではそうなる[1] 可能性がある。

大変興味深いことに、日本で目下進行中のアベノミクスと極めて似通った政策が1933年に大統領に就任したばかりのフランクリン・D・ルーズベルトによってアメリカで試みられたことがある。双方の政策レジームを構成する要素は大半において同じであるが、違いもある。それは、ルーズベルト大統領が目標とした(その達成を約束した)インフレ率(物価水準の引き上げの程度)の方がアベノミクスでの目標よりも高かった、ということである(ルーズベルトはアメリカ経済が不況に陥る以前の水準にまで物価をリフレートする(引き上げる)旨を誓ったが、それはかなり高めのインフレを受け入れることを意味していた。この点に関して詳しくは、私の2008年の論文(pdf)を参照してほしい)。私の判断では、「ニューディール」(”New Deal”)レジームにおけるこの要素(高めのインフレに対するコミット)は大きな成功を収め、アメリカ経済が1933年から1937年にかけて急速な景気回復を達成する上で助けとなったと思われる(しかしながら、成果をあげた一連の政策も”Mistake of 1937(pdf)”(「1937年の過ち」[2] )によって放棄されることになり、大恐慌は次なる第2局面へと移行することになってしまった)。おそらく、これまでに日本政府が発表している政策も(ルーズベルトが実施した一連の政策と同様に)経済成長を促す上で大きく役立つことだろう。しかし、私が一番心配していることは、インフレ率の目標として掲げられている2%という数字が少しばかり低いのではないか、ということだ。結果はやがてわかるだろうが・・・、ともあれ、最も重要なポイントは、日本政府がルーズベルト大統領と同じように「リフレーション」(”reflation”)を最優先課題に掲げ、リフレーションを達成するために必要なことは何でもするつもりである態度を鮮明にしているところにあると私には思える。

以下の動画はルーズベルトが政策面でのイノベーションに踏み出した後に放映されたインフレーションの「宣伝」動画である。この動画ではインフレーションの主要な効果が2つほど触れられていることがわかるだろう(第1の効果は私自身のかつての主要な研究テーマであり(例えば、こちら(pdf)を参照)、マイケル・ウッドフォードとの共同研究でも対象となっていたもの(こちら(pdf)を参照)である。第2の(分配を通じた)効果に関してはポール・クルーグマンとの共著論文(pdf)で分析を行っている)。

Inflation propaganda infomercial MGM – 1933

  1. 訳注;ほどほどのインフレが生じることで債務の実質的な負担が軽減され、その結果として総需要が刺激されることになる []
  2. 訳注;こちらもあわせてどうぞ。 []