黒田総裁の信頼性崩壊 BY LARS CHRISTENSEN

以下は、Lars Christensen”Mr. Kuroda’s credibility breakdown“(June 13, 2013)の訳です。誤訳等あれば御指摘頂けると幸いです。
なお、引用されている甘利大臣の発言及び日銀の議事録については、日本語のソースから該当箇所を抜き出しているので、英文とは若干異なる場合があります。


今朝、日経平均は6%も下落した。どんな観点から見ても、これは一日における株価の下落としては最大級だ。さらに、日経平均はたった3週間で20%以上も下落し、本格的に下げ相場に入っている。これは日銀の黒田総裁と彼の2%インフレ目標を達成するというコミットメントに対する信頼が崩れたからとしか思えないし、それが唯一の原因だ。

この信頼の崩壊に関係する3つのイベントをここで具体的に述べていきたいと思う。

最初に、日本政府が債券利回りの自然な上昇に慄き、当局が金融政策の方向性に疑念を抱いているようにみえるということを強調したい。次に引用するのは甘利明経済再生担当大臣が5月19日に債券利回りの上昇について述べた言葉だ。

長期金利が上昇しないようにするには国債への信認を高めることだ

これは間接的に日本政府関係者が日銀の行動に疑問を感じている事を示唆する上に、日本の金融政策決定の高度な政治性を鑑みると、こうした発言が投資家に日本の金融政策の方向性に対する疑問を強く抱かせた可能性がある。

二番目は、5月27日に公開された4月26日の日銀の金融政策決定会合議事録と、今週の金融政策決定会合の後の発言だ。

これは5月27日の議事録からの引用だ(MarketWatchからの引用):

(訳注;国債の買い入れの)国債市場やレポ市場の流動性への影響について、複数の委員は、(中略)引き続き流動性の低下を防ぐための方策を検討していく必要があるとの見方を示した。

言い換えると、一部の日銀委員は債券利回りの上昇を抑えたい、つまりは甘利大臣の懸念に対応する考えを持っているということだ。これを行うにはたった1つの方法しか存在しない。つまり、2年以内に2%のインフレを達成するというコミットメントを放棄することだ。インフレの上昇と債券利回りの不変というは明らかに同時には成立しない。黒田総裁が当初インフレ期待を押し上げるのに成功したからこそ、日本の債券利回りは上昇していた。そうした単純な話だ。

そして最後に、今週の日銀の金融政策発表において黒田日銀総裁は日銀の立ち居地をはっきりさせることに失敗し、それが投資家をさらに不安にさせたことは明らかだ。

したがって重要なのは、マーケットの混乱は名目債券利回りの上昇に対する懸念によるのではなく、むしろ債券利回りの上昇によって日銀がインフレを2%に上昇させるというコミットメントを放棄してしまわないかという懸念によるものだということだ。

だから今起こっていることは、それが事実かどうかは別として、日銀が方針転換をしているということを恐れる投資家による、全く持って合理的な反応だ。

僕が何度何度も強く言ったように、黒田総裁はまずは名目債券利回りの上昇は全く問題ない(とりわけ実質債券利回りは急速に低下しているので)ということでこの市場の混乱を収めることが出来るし、その上で彼は日銀の焦点はインフレ期待だということをはっきりと述べるべきだ。つまり、彼は日銀が事実上市場の(ブレークイーブン)インフレ期待を2%に「固定(pegging)」しているということを述べるべきということだ。そうしていれば、ここ3週間でのインフレ期待の低下は起こらなかっただろう。僕の考えでは、日本のインフレ期待の低下がここ3週間での世界中の金融市場における混乱の主な原因だ。

黒田総裁に一休みをさせるべきか

上で述べたことは、黒田総裁に対して辛辣過ぎたかもしれない。つまるところ、15年に渡る失策を経て辿りついた日本の金融政策のレジーム転換の初期において、僕たちは全てにおいて「完璧」であることを本当に期待すべきだろうか。

次に引用するのは、いつも鋭いミキオ・クマダが以前の僕のエントリについてLinkedin上でコメントしたものだ。

ラルス、もう少し待とう。日本のレジーム転換はまだ出来たてほやほやで、日銀みたいなずっと以前からの慣例に縛られている古い保守的な組織で思想の転換が起きるのには時間がかかる。黒田総裁が本音では実質金利が下落ないし低くとどまる限りにおいては名目金利の上昇は問題ないと考えていることは、十分明らかだと僕は思う。

ミキオ(彼は多くの市場関係者やセントラルバンカー、金融政策オタクとともにLinkedinのGlobal Monetary Policy Networkに参加している)はいいことを言っていると思う。

僕らは日銀における革命を目撃しているのだから、それが順風満帆な船出でないからといって驚くことはない。でも、その一方で、次にどこに寄港するするかということについて、僕は強い懸念を持っている。黒田総裁は2%のインフレというコミットメントを事実上放棄せざるをえなくなるだろうか、それとも対話においてもっとはっきりとした形で(訳注;コミットメントを)再度断言する(名目債券利回りの上昇に頓着せず、インフレ期待という観点をはっきりと伝える)だろうか。

期待はあるが、どうなるかは分からない。でもここ最近は、南アフリカランドの価値から商品価格、アメリカ株式市場の市場心理に至るまで、世界の金融市場におけるあらゆるものが、黒田総裁が次に何をするかに懸かっている。金融政策が重要じゃないなんてことは耳にしたくない・・・。

追記:デイビッド・グラズナーがアメリカの金融市場で起こっていることについて困惑している。それについては、上に書いたことで答えたと思う。デイビッドが注目すべきなのは、バーナンキよりも黒田総裁だ。少なくともこのところにおいては。

  • ITOK

    興味深い論説の翻訳ありがとうございます。
    typoの指摘で恐縮ですが一行目2012→2013ではないでしょうか。

  • 227thday

    御指摘ありがとうございます。修正いたしました。