迷走する中央銀行、そして自動運転の必要性 by Lars Christensen

The Market Monetaristから、“Confused central banks and the need for an autopilot”(June 11, 2013)。翻訳品質は速度優先につき…


海外の金融政策に関する決定を日常的にウオッチするようになってから10年以上になる。だいたいの「現代的」中央銀行は月に一度、金融政策のについてのアナウンスを実施する。たいていの場合、これはイベントにはならない。そこで市場を驚かせることはあまりない。しかし危機前の10年間に比べると、中央銀行の会合結果をあらかじめ予測することが明らかに難しくなった。

中央銀行の行動を予測することが難しくなった理由は、金融政策がもはや「自動運転」に乗っていないからだ。第一に、「われわれがどこに向かっているのか」がハッキリしない。つまり中央銀行の金融政策目標がハッキリとしなくなった。なにしろ目標自体が変わるケースもある。第二に、名目金利をゼロ近くまで切り下げた中央銀行がどのツールを使ってどのように金融政策を運営しているのかがまたハッキリしない。

金融市場におけるボラティリティを目下大きくしているのはこの「わからなさ」だ。市場が中央銀行の意向を「読みにくく」なったのだ。今朝の日本銀行の決定が格好の例だ。

昨日5%ほど上昇した日経平均だが、今日は金融政策の発表を直前に控えて午前中はやや神経質な動きとなり、発表後は日本銀行が債権市場のの乱高下に歯止めをかける方策を打ち出さなかったことへの「失望」(マスコミの表現)から1.5%下落した。

これは正常なことではない。そもそも中央銀行は月ごとに政策をコロコロ変えたり新戦略や新政策ツールを発表したりするべきものではないはずだ。ところが過去5年間、私たちが目撃してきたのは繰り返し新しい政策を打ち出す中央銀行たちだった。FRB、ECB、そしてBOE。そして彼らによるおびただしい新政策はマネー環境(貨幣量ないし貨幣量を将来どうするかの期待)を変えようとするものですらなく、政策の信用を高めようとするものに過ぎなかった。

理想の中央銀行ならば月に一度の会合すら必要ない。中央銀行が金融政策目標を明確に定義し、その最重要なツールはマネー環境を制御することだと定義したならば金融政策はほとんど自動飛行に乗るだろう。

ただ一つの目標だけを目標とせよ。それ以外は邪魔。

何を置いてもまず中央銀行は「本来中央銀行が目指すべきものは何であるのか」をはっきりと明確化するべきだ。それは何か。

第二に中央銀行は、インフレ率なり物価水準なり名目GDPといった変数の、現在の値ではなく、将来の値を目標にしてりうということを明確にするべきだ。

日本銀行などインフレ目標を採用している場合は幸いなことに将来のインフレ率に関する市場の期待がわかる。日本銀行は現在のインフレ率についてコメントする必要すらない。ただひとつ重要なのが市場の期待だ。日本のインフレ期待がインフレ目標である2%未満であるとき、日本銀行はマネー環境が依然として引き締めすぎなのだと自ら結論しなければならない。何をすべきかも簡単だ。ただ「市場価格が将来の2%インフレを織り込むまでマネタリーベースを引き上げ続ける」と言うだけだ。言うまでもなく中央銀行は無限に紙幣をすることができる。なので「中央銀行は火薬を湿らせてはいけない」などと言うのも馬鹿げている。中央銀行の火薬が尽きることなどない。

第三に、中央銀行はただ1つの目標を追求することにより、自ら迷ったり市場を迷わせるのを止めるべきだ。中央銀行の金融政策ツールは本質的にはたった一つ、それは貨幣ベースだ。だから中央銀行が達成できるのは一つの名目ターゲットだけなのだ。これは当然のことと思われるだろうが、残念ながら現実はそうではない。

ポーランド中央銀行(NBP)を例にしよう。先週NBPは政策金利を25ベーシスポイント引き下げた。これは貨幣ベース成長を効果的に加速する政策だ。ところが数日後NBPは通貨ズロティを高くする市場介入を行った。つまり海外通貨を売りズロティを買ったのだ。これは貨幣ベースを減らそうということだ。あなたは混乱しただろう?そんなふうにNBPは見られるのだ。

そして残念ながら混乱していると見られている中央銀行は世界で唯一NBPだけというわけではない。日本市場における最近のボラティリティ上昇は、同じく政策担当者の混乱の帰結だ。日本銀行は4月、決然と金融緩和政策へと方針転換した。これは当然、日本の資本市場を活気づけ、円を弱め、債券利回りを引き上げた。マーケットマネタリストは驚かない。債権利回りが上昇するのは実質成長期待をインフレ期待が高まったことの反映だからだ。

ところが、日本銀行は自分自身の政策の帰結に驚いたように見える。特に債権利回りの上昇に神経質になったように見える。その帰結として日本銀行と政府担当者の両方が債券利回りと金融政策の関係についてはっきりしないコメントを述べている。しかし、そもそも日本銀行が債権利回りを目標とするならば、同時にインフレ率を目標とすることはできないのだ。

同じように、昨今のセントラルバンカーにはある政策ツールを忌避するという良くない傾向がある。言い換えれば金利操作を通じた金融政策を好む。しかし、名目金利がゼロに近づいているときには他の政策ツールを使うべきだ。例えば単純に貨幣ベースを増やすなどと。

ところがたとえばFRB理事の多くは米国の貨幣ベースを減らすのを待てない。これは論理的にナンセンスだ。中央銀行の右手と左手が反応関数の正反対の方向を示すように政策ツールを設定するということになるから。明らかにFRBは目標(ハッキリ定義されてはいないが)を達成する前に貨幣ベースを減らすべきではない。

教科書にも、中央銀行は1つの名目変数を目標とし、そしてその変数の市場期待値を目標とせよと書いてある。

市場を使って金融政策を自動運転に

中央銀行が期待を目標とするような政策を計画するならば、自動飛行政策を始めるのは簡単だ。

日本銀行の例に戻ろう。いま日本銀行は公式に2%のインフレ目標を採用している。そして2年以内に達成したいとしている。あ

市場は日本銀行がこの目標を達成するためにどうすればいいかを、インフレ連動国債を通じブレークイーブンインフレ期待という形で提示している。市場の裁定は明快だ。インフレ期待は大きく上昇したとはいえ、2%のインフレには程遠い価格になっている。

実際、2年/2年のインフレ期待、つまり市場の判断する今から向こう二年のインフレ率は2%よりも1%に近い。

日本銀行の金融緩和方針は信任されてているが、インフレ目標は信任には程遠い。

目標を信任させるいちばん簡単な方法は、単に市場のインフレ期待は2%になるべきだ、とアナウンスすることだ。あるいは先日示唆したように邦訳)、単に2%のインフレ期待に「ペッグ」する。インフレ期待が2%以下ならば日本銀行は単にインフレ連動債を2%になるまで買い、インフレ期待が2%以上だったらもちろん売る、とアナウンスするのだ。

このシナリオなら日本の金融政策は完璧に自動飛行になる。新しい政策を毎月発表したり、日本経済の状態について謎めいた宣告をするなどして中央銀行自身や市場を混乱させる必要もなくなる。

日本銀行はただ市場のインフレ期待について毎月報告すればいい。日本銀行がこの政策を採用すれば月次の発表は次のようになるだろう。

日本銀行は2%のインフレ目標を採用している。あらゆる期間の市場インフレ期待は前年を上回っている。しかしながらインフレ期待は依然として2%を大きく下回っており、これは2%のインフレ目標が完全には信頼を得ていないことを示している。

とはいえ日本銀行は日本のマネタリーベースを完全に制御しており、インフレ期待がインフレ目標と一致するまでこれを拡大する方針である。 このために日本銀行はインフレ目標と市場の期待が一致するまでインフレ連動国債の購入を増やして行く。

私が市場参加者ならば、これを読んだら直ちにインフレ連動債を買い始める。そして円を売り、日本の何らかの資産の買いを増やす。しかしすぐに市場価格が2%のインフレに相当する価格になっているかことが確認されるだろう。ミッション完了。

こうしてインフレ期待が2%にペッグされたなら日本銀行はウェブサイトにこう書く。「日本銀行の目標は2%のインレーションで、インフレ期待は目下2%です。金融政策は100%信頼されているので全員ゴルフに出かけています。」

このエントリを書いている今はブリュッセルへのフライト中だ。日本銀行総裁のクロダは記者会見をしている時間だ。彼がここで書いたようなことを言ってくれることを心から願うが、あまり楽観はしていない。

追記: クロダのコメントをパッと見た限りでは彼にはわからなかったようだ。語ったのは債券市場のボラティリティで、ブレークイーブンインフレ率については印象に残らない内容だけだった。世界の株式市場を混乱に送り込んだわけだ。(ところで日本の金融緩和が悪魔の「通貨戦争」になるのだとしたら、日本銀行がこれに失敗した時に世界の株価が下がるのは何故だろうね?)