「Fedの職務怠慢 ~まだ続いてます~」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “The Ongoing Dereliction of Duty”(Macro and Other Market Musings, April 23, 2013)の訳。


昨年のことになるが、私は次のように指摘した。ここのところFedは名目所得の期待伸び率の安定化に失敗しており、これは職務怠慢だ(拙訳はこちら)と言わざるを得ない、と。

我々マーケット・マネタリストは長らくこう主張してきた。「名目GDP水準目標(NGDP level target)は名目所得の期待成長経路(名目所得の期待伸び率)に対する確固たるアンカーを提供する(将来の名目所得の伸びに関する安定的な見通しを与える)」、と。そして、家計や企業は将来を見据えて(フォワードルッキングに)意思決定を行うので、名目所得の期待成長経路に対する確固たるアンカーが提供されることになれば足許の(現時点の)名目支出も安定することになるだろう、とも語ってきた。例えば、富の水準を一定として考えると、将来の名目所得が減少すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を控えることになるだろう。反対に、将来の名目所得が増加すると予想される場合には、家計は新車の購入や住宅の改修を積極的に進めるだろう。スコット・サムナー(Scott Sumner)が好んで「金融政策は長くて可変的な(ラグではなく)リード(long and variable leads)を伴って働く」と語る理由もまさにここにある。このようなマーケット・マネタリストの理解に基づくと、現在名目支出が危機以前のトレンドを下回り続けている理由は、Fedが期待名目所得を危機以前の経路に戻すことに失敗したからだ、との示唆が得られることになる。言い換えると、Fedによる受動的な金融引き締め(拙訳はこちら)がその理由だ、ということになろう。

このエントリーを執筆して以降、Fedは条件付きの[1] 資産購入プログラムであるQE3(第3弾の量的緩和)に踏み出し、期待の管理に改善をもたらすこととなった。確かにこのプログラムはこれまでよりも一歩前進したものと評価できるが、適切かというと決してそうは言い切れない。その理由は、ロイター/ミシガン大学の消費者調査におけるとある質問への回答結果から容易に見てとることができる。その質問では、今後12か月の間に世帯の名目所得がどの程度変化すると予想されるかが問われている。以下の図では2013年3月までの平均的な回答データが示されている。

ここのところの名目所得の期待伸び率の低下とその後の低迷ぶりには驚かされるばかりである。名目所得の期待伸び率が低迷しているために家計の足許の(現時点の)支出が抑えられる結果となっていると考えられるが、この点はシカゴ連銀のエコノミストであるMariacristina De NardiとEric French、そしてDavid Bensonによる論文ではっきりと明らかにされている。彼らは、データの入念な検討を通じて、過去数年にわたり名目所得の期待伸び率がすべての年齢層、すべての教育レベル、すべての所得階層で落ち込んでいる事実を発見している。つまり、名目所得の期待伸び率の落ち込みは特定の部門に特有の構造的な現象ではなく、システマティックな名目的な(nominal;あるいは貨幣的な)問題だ、ということである。また、この論文では、名目所得の期待伸び率の落ち込みが危機発生後の総消費の低迷の多くを説明することも見出されている。

しかし、問題はそれだけにとどまらない。この図によると、債務の実質的負担が危機発生以前に多くの家計が予想していた以上に増大することになったことも示唆されるのである。図中の点線を見てほしい。この点線は「大平穏期」(’Great Moderation’)における名目所得の期待伸び率の平均値を表しており、具体的にはその値は5.3%となっている。次のような状況を想像してもらいたい。時は2000年初頭から中頃にかけて、あなたは30年の住宅ローンを借りようとしている。どのような債務契約を結ぶだろうか? この選択における重要な要因の一つは、今後30年間にわたるあなた自身の名目所得の期待伸び率である。上の図によると、もしあなたが平均的な人物であったとすれば、今後名目所得はおよそ5%のペースで上昇を続けると予想したことだろう。しかし、現実はそうならなかった。家計の名目所得は落ち込み、今後も低迷を続けると予想されているのである。しかし、一方で債務の調整は速やかには進まず(こちらこちらを参照)、そのため家計が負う債務の実質的な負担は予想以上に増大する結果となったのである。

このような状況はFedによって矯正し得るものである。QE3は正しい方向に向けた一歩であることは確かだが、名目所得の期待伸び率を引き上げるためにはさらなる工夫が必要である。そのための一つの方法としては、資産の購入規模を状況に依存させるというやり方が考えられるだろう。すなわち、現在のようにターゲットが達成されるまで(労働市場の著しい改善が見通せるまで)毎月850億ドルの決められたペースで債券の購入を継続する、といったかたちをとるのではなく、景気回復の進捗状況に応じて資産の購入規模を柔軟に変更させるのである。例えば、インフレや失業の動きになかなか変化が見られず両者がターゲットとなる水準になかなか達しそうにないと考えられる場合には資産の購入規模を増額し、反対にインフレや失業がターゲットを越えて行き過ぎると見込まれる場合には資産の購入規模を縮小させる、といったようにである。なぜそのようにするかというと、毎月850億ドルのペースで債券を購入しても景気回復になかなか勢いがつかないとすれば、それは(毎月850億ドルのペースで進められる)貨幣の市中への注入を上回る勢いで貨幣需要が増大している証拠と考えられるからである。このように資産の購入規模を状況に依存して柔軟に変更するようにプログラムに修正を加え、そのことがマーケットから広く理解されるようであれば、QE3を通じた期待の管理は一層改善され、これまで以上に経済に大きなインパクトがもたらされることだろう。その結果、Fedの職務怠慢も改められる、ということになろう。

(追記1)コメント欄でのニック・ロウ(Nick Rowe)のリクエストに応えて、以下に2つの図を追加することにしよう。最初の図は、名目所得の期待伸び率と名目GDP成長率をあわせてプロットしたものである。名目所得の期待伸び率が名目GDP成長率よりも先行して動いているように見える。

2番目の図は、名目所得の期待伸び率の平均と中央値(メディアン)を示したものである。興味深いことに、今回の危機以前においてはこの2つの値のギャップは安定していたものの、危機以降ではそのギャップは縮小している。

(追記2)はじめの2つの図では3四半期の中心化移動平均を用いてデータの平滑化を行っており、名目所得の期待伸び率の平均と中央値をプロットした最後の図では加工していない原系列をそのまま利用している。

  1. 訳注;労働市場の著しい改善が見通せるまで資産の購入を継続するとの条件付きの []