以下は、 David Beckworth “What the Great Natural Experiment Reveals About QE“(10 June, 2013)の訳です。誤訳等ありましたら御指摘頂けると幸いです。
なお、元記事コメント欄で記事本文のグラフと異なるグラフ(参照先はセントルイス連銀)をコメントしている人がいましたので、記事を読み終わった後に二つのグラフを比べてみるのもいいかと思います。
6月11日追記:山形浩生氏、optical_frog氏のコメントに基づき、最終パラグラフを修正
とある自然経済実験が明らかになりつつある。これは僕なんかがこれまで話してきたようなQE3対アメリカ財政緊縮の論争ではない。これはアメリカ対ユーロ圏における、それぞれの経済で行われている異なった政策「対応」に関するものだ。Jim Pethokoukisはこう書いている。
私たちは非常に興味深い自然経済実験を目撃している。二つの大きな先進国経済が歳出削減と増税による財政緊縮下にある。しかし、片方はゆっくりとではあるが先の沈滞期からは回復しつつあり中で、もう片方は悪化し続けている。
これをうまく説明しそうな(訳注;両国の)違いは、金融政策だ。FEDは2008年に短期金利をゼロ近傍まで引き下げるだけでなく、量的緩和として知られる大量の資産買い入れプログラムに乗り出した。欧州中央銀行(ECB)はしかし、つい先月0.5%に金利を下げたが、フェデラルファンドレートより依然として高い。そしてECBの「非伝統的」金融政策は遥かに控えめで、FEDの1/10も債券を購入していない。その目標すら(訳注;FEDと比べて)さらに限定されたものだ。すなわち、南ヨーロッパの債券市場を安定化させ、金融危機を防ぐというものだ。ドイツ・フランクフルトにおける最近のスピーチで、セントルイス連銀のJames Bullard総裁は、ヨーロッパは積極的な資産買い入れプログラムを採用しない限り、1980年代からの日本が経験したように低成長とデフレを長引かせるリスクを負うことになると述べた。
次の図にある二つの異なるNGDPパスは、この政策対応によって理解できる。
不思議に思うのは、どうすればこの実験の結果を見てFEDの大量資産買い入れプログラム(large scale asset programs:LSAP)が役立たずだと主張することができるんだろうかということだ。ある人たちは、LSAPsは良くてお金持ちを助けるだけで、デフレ的な可能性すらあると主張する。しかし、FEDのQEプログラムがなければ、今よりもどれだけ失業が多かったかを想像するのは難くない。Pethokoukisが書いているように、ヨーロッパの失業率を見るだけで十分だ。そう、LSAPは理想的なものからは程遠いけれども、アメリカの国民をヨーロッパのような失業に晒すことを防いでいる。換言すれば、QEはアメリカにおける普通の労働者の生活を助けている。そして、ECBがもっとFEDの行動をもっとしっかりと真似していれば、その生活が守られていただろう普通のヨーロッパ人労働者がたくさんいる。
この自然実験による結果をみれば 批判者たちは立ち止まるしかないだろう。そして安全資産の供給の下支えに貢献している事実についても同様だ。遅い回復をFEDのLSAPsのせいにする批判者たちはどう考えても正しい(そんなものがあればの話だが)反事実的な推論1を行ってはいない。
- 訳注;起こらなかったことの仮定。いわゆるたられば。ここではFEDの緩和がなかったとしたらどうなっていたかの意 [↩]