サムナーの貨幣入門短期講習1「貨幣が重要」

サムナーの Short intro course on money をはじめから紹介していきたいと思います。第一回の”Money matters“(16. March 2013)です。


貨幣の経済学を初歩から教えるにはどうするのがいいのかずっと考えてきたが、おそらく学び始める前に間違った信念を捨てさせる必要があるだろう。景気循環の原因や雇用の大変動のほとんど唯一の原因は貨幣のショック(お好みで「不均衡」と言っても良い)だと私たちマーケットマネタリストは考える。

たいていの人はそう考えていない。ほとんどの経済学者すらそうかもしれない。不況の原因になるのは大きな実質ショックや金融システムのショックのようなものだと思っているのが普通だろう。たとえば資産バブルの崩壊や、9.11や、株式市場のクラッシュや、壊滅的な自然災害などが原因だというわけだ。

そんな「実物的」理論を否定するのは驚くほど簡単だ。9.11が「2001年不況」を起こさなかったことは皆知っているだろう。回復は2が月後には始まっていた。私の人生で遭遇した株価下落のうち一番大きかったのは1987年のもので、これは1929年に匹敵する規模の下落だったが、その後の回復ぶりも1929と同様なものだった。2011年の日本の大地震・津波・現発事故は、豊かな国を襲った自然災害としては私の生涯期間で最大のものだった。何万もの人々が犠牲になり、国土のかなりの地域が打撃を受け、すべての原子力発電(全力生産の25%を占める)が一年以上停止ストップした(計画停電もあった)。

下の二つのグラフは、この1987年10月の株価クラッシュの少し前からその後2年の期間の米国の失業率、そして2009年1月以降の日本の失業率の推移だ(津波は2011年3月だった)。

どうだろう?なにもない! 「実物のショックは無関係」とすら言いたくなる。失業率は9.11にも3万人近い犠牲にも信じられないほど影響されなかった。両国の2001年と2011年に起こった以上のことなどないとさえ言えるのに。株価下落はこれらほど深刻ではないにせよ、人々の生活や将来見通しに大きな衝撃を確かにもたらしたものだったのに。

これらの実物のショックは景気循環とは関係がなかった。津波によって工業生産高は一時的に落ち込んだもののとくだん深刻な不況には陥らなかった。労働市場に注目すれば実物のショックの影響がいかに小さいかがわかるだろう。実物のショックは失業率を急増させない、以上、おしまい。私にとっても信じられないことであるが、これが明白な事実だ。不況が起こるのは不安定な名目GDPによってだ。そして不安定な名目GDPの原因は金融政策である(定義から。私はベン・バーナンキと同じように安定的な金融政策とは安定的な名目GDP成長であると定義する)。不況の原因が金融政策である、というのは同語反復ではない。しかし、どうして不安定な名目GDPがこれほど失業を増やすのかを説明するのは難しい。とりわけ名目GDPショックが金融政策の明白な変更によってでなく「不作為の誤り」によって引き起こされた場合は。

2006年1月から2008年4月の例を挙げよう (訳注:いわゆるサブプライムショックを含む期間。サムナーはこの期間の直後のリーマンショックへの対応が金融政策の不作為の誤りだったと主張しています) 。この期間米国の住宅建設が50%下落した。失業はどうなっただろう? 4.7%から4.9%への上昇だった。私の生涯期間で最大だった非金融的ショックは1959年の鉄鋼ストライキだったが、その時の失業率上昇は0.8%。一方私の生涯期間で最小だった不況は1980年だったが、それでも失業率は2.2%も上昇していた。鉄鋼ストライキは短期間で終息し、失業率はまもなく元通りに落ち着いたのだった。(1970年代の二度のオイルショックについては議論があるところ)

以上のように多くの人々は、経済学者の一部でさえ、景気循環における実物のショックの影響を過大評価している。他方で多くの人々は、一部の経済学者でさえ、貨幣ショックの影響を過小評価し過ぎている。さて、不況を引き起こすのは非貨幣的なショックだという考えから解放されたら、いよいよ景気循環の本当の原因、すなわち金融政策に目を向けていこう。続く。


翻訳改訂履歴
2013.5.31 鍵さんの示唆によりrealの訳語を「現実」から「実物」に変更