「アベノミクスをめぐる混乱」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “Abenomics Confusion”(Macro and Other Market Musings, May 12, 2013)の訳。


ラルス・クリステンセン(Lars Christensen)がアベノミクスをめぐる混乱を解きほぐしている

ドル円相場がついに1ドル=100円を突破し、現在の円安傾向が続けば日本からの輸出にポジティブな効果が生じることになるだろう、と広い注目が寄せられている。大半のコメンテーターやエコノミストの見方では、現在日本で進行中の金融緩和は為替レートひいては日本製品の(価格)「競争力」(“competitiveness”)へのインパクトを通じてその効果を発揮すると捉えられているようだ。しかし、そのような見方は完全に間違っていると私は思う。

現在日本銀行が実施している金融政策によって日本経済の名目GDP成長率が大きく引き上げられる可能性が高い-しばらくの間は実質GDPも大きく上昇する可能性が高い-、という点については私も強く同意するところである。しかしながら、経済成長の加速をもたらす主因を輸出の増加に求める見方には疑問である。私が思うに、日銀による金融緩和の結果として国内需要(内需)が刺激される可能性が高く、この内需の増加が経済成長の主たる原動力となると考えられるのである。今後日本の輸出が伸びを見せる可能性が高いのは確かだが、輸出の増加は金融緩和が経済を刺激する上で最も重要な経路であるとは思われないのである。

クリステンセンが語っているストーリーは決して目新しいものではない。1930年代に各国が金本位制から離脱した結果としてそれぞれの国で景気回復が進行することになったが、その原因は通貨切り下げによる輸出の増加にあったのではなく、内需が刺激されたことにあったのである。そもそもすべての国が同時に通貨切り下げに臨めば、いずれの国も輸出で有利な立場に立つことはできない。このことは1930年代に関してだけではなく現在に関してもあてはまるのである。

とは言いつつも、アベノミクスに起因する通貨切り下げ競争がECBに対してさらなる緩和に向けて動き出すよう促すきっかけとなるかもしれない点は見逃せない。特に、ECBが対外的な(貿易上の)競争力を気にかけるとすればそうなる可能性がある。つまりは、ユーロ諸国の製品が海外の製品と比べて(価格の面で)あまりにも高くなり過ぎないようにするために[1] ECBがさらなる金融緩和に乗り出し、その過程でユーロ圏内の内需が拡大する可能性があるわけである。多くの人々が多大な苦難を味わっている[2] にもかかわらずECBは全力で行動するには至っていないわけだが、アベノミクスがその(ECBが全力で行動する)きっかけとなるようなことがあれば何と皮肉なことだろうか。

  1. 訳注;ユーロ高を防ぐために []
  2. 訳注;ユーロ圏内における失業率が高い水準を記録している []