1月11日にFinancial Timesに掲載された、Tim HarfordのWhat really powers innovation: high wagesの訳。誤訳の指摘お願いします。
500年前、世界の最富裕国―西欧諸国―は1人あたりで最貧国のたった2倍だけ豊かだった―ざっと比較して現代のスイスとポルトガルの間のような控えめな格差だ。産業革命の幕開けによって、2世紀前には1人あたり所得の比率が3:1になっていた。それが今では20:1ないしは30:1で、もし最貧困者と最富裕者を見比べればそれよりも大きな違いが見られるだろう。
これらの事実は説明に値する。このような不平等は現代世界の経済を定義するだけでなくその謎も提示している。ここでの基本的な話が、豊かな国はより優れた技術を持っているということだとすると、貧しい国がその技術を真似ることで素早く成長するのはまあまあ簡単だろう。中国はこれが真実だということを証明しているが、過去2世紀の間、こんなに劇的な追い上げ成長はまれだった。
多分この理由のために、経済学者はそれよりも、きちんと機能する裁判所、ほどよい税を徴収したりインフラに支出できる政府のような制度の重要性を指摘する傾向があった。
しかし多分結局のところ答えは技術なのだ。経済史家のロバート・アレンはなぜ産業革命が例えば中国などよりも英国でうまくいったのか研究している。アレンは文化的や制度的な説明を退け、代わりに経済的インセンティブに焦点を当てている。
例えば、英国がジェニー紡績機を開発していた一方で英国の陶芸家は不経済的な青銅時代の窯の技術を使用していたという事実を考えてみよう。その間に中国は熱風を循環させ工程のエネルギー効率を最大化する高度に洗練された窯のシステムを作り上げていた。どちらの文化のほうが革新的だったのだろうか? ボブ・アレンにとってはその質問は的外れだ。どちらの国も新しい技術を開発していたが、異なる経済的インセンティブに反応していた。
産業革命の黎明期、英国では労働力は高価で、石炭によるエネルギーはこの上なく安かった。これは大陸ヨーロッパではあまり当てはまらなかったし、中国やインドではその逆が当てはまっていて、労働力は安くエネルギーは高価だった。英国の賃金は大英帝国の貿易の成功のおかげで高かった。中国の発明者はエネルギーを節約する方法を探した。腕力を蒸気の力で置き換えることの見返りが明らかだったので、英国の発明者は労働力を節約する方法を探した。
ボブ・アレンの計算によると、1780年にフランスの企業家にジェニー紡績機を簡単に組み立てられる説明が提示されていても、それを組み立てる価値はほとんどなかっただろう。インドでは、それは明らかに赤字だっただろう。しかし英国では、その収益率はほぼ40%だった。英国の工学の天才たちなんてそんなもの: それは誰も労働力を節約する節約する機械を開発できなかったからではなく、誰もそれを必要としていなかったのだ。
これは産業革命の起こった場所についての説得力ある説明だが、ボブ・アレンのイノベーション観は自己強化スパイラルへと振り向かせるので、このコラムの始まりに提示した混乱に対する解決策でもある。高賃金は労働力を節約する技術への投資につながる。その投資はそれぞれの労働者がより強力な設備を操作してより多く生産することを意味する。このプロセスが段々と労働生産性を高め、そうすると賃金も上がりやすくなる。さらにイノベーションを起こすインセンティブだけが続いていく。
アレンが述べているように、中国とインドは、数世紀にわたって製造部門の発展に失敗してきた農業経済国ではなく、高度に機械化された英国の工業との競争によって国内産業が破壊された低賃金な製造国だった。なんとか英国と対等な条件を取り戻すのは積極的に産業政策を行い幼稚な産業を保護するために関税をかけた国々だった。それは英国が植民地には許していない戦略だったのだ。