「『ヴォルカー・モーメント』と『ルーズベルト・モーメント』」 by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “Obama Needs His FDR Moment”(Macro and Other Market Musings, April 18, 2012)の訳。2012年4月のエントリーです。


「ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長は「ヴォルカー・モーメント」(Volcker moment)に踏み出す必要がある」。これはクリスティーナ・ローマー(Christina Romer)の発言(erickqchanさんによる邦訳はこちら)である。この発言の趣旨は、1980年代初頭のポール・ヴォルカー(Paul Volcker)(元FRB議長)のように、バーナンキは喫緊の経済問題を解決するためにも臨機応変に行動し、新たな金融政策のレジームを採用する必要がある、ということだ。当時ヴォルカーが直面していた課題は加速するインフレであり、彼が採用した新たな金融政策のレジームは準備預金をターゲットとする政策運営であった。一方、現在バーナンキが直面している課題は長引く総需要の低迷であり、現在採用すべき新たな金融政策のレジームはNGDP(名目GDP)水準目標ということになるだろう。かねてよりNGDP水準目標を支持する人間の一人として、私もローマーと同様に、バーナンキが「ヴォルカー・モメント」に踏み出してくれないものかとこれまでずっと願ってきた。バーナンキが教授時代に日本経済に対して加えた分析に照らすと、「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことは彼の信条からそれほど大きくかけ離れたものでもないだろう。しかしながら、これまでバーナンキは「ヴォルカー・モーメント」に踏み出してはおらず、Fedの金融政策は2008年中頃以降実質的に引き締めスタンスが採られ続けている。この点はFRB副議長であるジャネット・イェレン(Janet Yellen)も認めているところであり、Fedの現状の金融政策は腹立たしいばかり(by Tim Duy)であり、完全な失敗(by Karl Smith)であり、あまりのフラストレーション(失望)からうつむかざるを得ないほど(by Ryan Aven)である。

今後もバーナンキは「ヴォルカー・モーメント」に踏み出す気はないのではないか、と認める必要があるのかもしれない。これまでにも「ヴォルカー・モーメント」に踏み出す機会は何度もあったにもかかわらずその瞬間は未だ到来しておらず、Fed内部における集団思考(groupthink)のためなのか、貯蓄家からの政治的圧力のためなのか、それとも彼がスコット・サムナー(Scott Sumner)のブログを読み過ごしてしまっているためなのか、その理由はともあれ、バーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことはできないように思える。今後彼が「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すかどうかはっきりしないのである。となれば、バーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すことを願う代わりに、オバマ大統領が「ルーズベルト・モーメント」(FDR moment)に踏み出すことを願うべきなのかもしれない。

「ルーズベルト・モーメント」が到来したのは1933年のことだった。1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領が役立たずのFed-ルーズベルト政権誕生前の3年間にわたり、Fedは総需要の落ち込みを放置していた-に代わって金融政策の主導権を握り、総需要の堅調な回復に道筋がつけられることになったのである。ルーズベルトは、物価水準を危機以前の水準にまで引き戻す意向(すなわち、将来における期待名目支出(名目所得)を高める意向)を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるために財務省に対して平価を切り下げるよう命令したのである。ルーズベルトのこの行動によりマネタリーベースが劇的に増大し、総需要の急増が促されることになったのであった。

さて、オバマ大統領はどのような手段を通じて「ルーズベルト・モーメント」に踏み出すことができるだろうか? ルーズベルトのように、オバマ大統領は、名目支出の水準を引き上げる意図を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるためにFedに代わって財務省が金融政策の主導権を握るよう取り計らうべきである。そのための具体的な方法としては、NGDP水準目標を宣言し、その宣言を(行動で)裏付けるために財務省に額面の大きなプラチナコインの発行を許可したらよいだろう-そのプラチナコインはFedに預けられ、国民に対する支払いの原資として使用されることになるだろう-。財務省はNGDP水準目標が達成されるまで-名目GDPが目標経路に復帰するまで-プラチナコインの発行を続けることになるだろう。名目GDPが目標経路を超えて増大した(オーバーシュートした)場合、財務省は債券を発行して過剰な貨幣を吸収することになるだろう。

確かにこれはラディカルなアイデアであり、マーケット・マネタリズム(Market Monetarism;MM)とモダン・マネタリー・リアリズム(Modern Monetary Realism;MMR)[1] との混血児のようなアイデアだ。FedがNGDP水準目標を採用することが最善だと個人的には考えているが、このアイデアもまたうまくいくはずである。このアイデアもまた期待の管理(expectations management)に訴えるものであり、それゆえ実際に発行する必要のあるプラチナコインの金額は極力抑えられることになるはずだ[2] 。また、オバマ大統領が「ルーズベルト・モーメント」に踏み出そうすれば、それが脅しとして働き、突如としてバーナンキが「ヴォルカー・モーメント」に踏み出すきっかけとなるかもしれない。

  1. 訳注;モダン・マネタリー・リアリズムについてはこの記事こちらのブログを参照のこと。 []
  2. 訳注;NGDP水準目標の採用により将来的に名目支出(名目所得)が上昇するだろうと予想されるようになれば、人々がポートフォリオの組み換えに乗り出し、その結果として資産価格が上昇し総需要が刺激される可能性がある。そのためプラチナコインの発行はそれほど必要とされないかもしれない。この点について詳しくは例えばこちらのベックワースのエントリー「QE2の波及メカニズム~QE2はどのようなメカニズムを通じて実体経済に影響を与えたのか?~」を参照のこと。
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