「金融政策を農場のたとえを用いて説明してみる」 by Neil Irwin

以下は、Neil Irwin, “Farmer Bernanke, dry fields, and other monetary policy metaphors”(Political Economy, Washingtonpost.com, August 17, 2010) の訳。


 ニュース番組であるRachel Maddow Show(映像)にゲストとして招かれたクリストファー・ヘイズ(Christopher Hayes)は、番組の中で、経済を刺激するために更なる積極的な手段に打って出ようとしないFed(アメリカの中央銀行)を非難する発言を行った。それもヘイズは、巧みなたとえに依りつつFedによる金融政策を非難したのであった。

ヘイズのたとえはこうである。一国を一つの農場と見立てると、Fedはこの農場への水の散布や灌漑管理の責務を負う公的機関(agency)と位置付けることができるであろう。Fedの仕事は農場からの収穫物を最大化する(=雇用創出を強く促進する)のに十分なだけの水(=貨幣)を散布し続けることにあるが、同時に、農場が水浸しになる(=インフレーションが発生する)ほど大量の(過剰な)水を散布しないよう心がけることもまたその仕事である。我々は現在深刻な日照り(=深刻な不況)の状況に置かれているが、Fedは水の散布量を増やすことには抵抗を見せている。その理由は、これ以上水の散布量を増やせば、近い将来、農場が水浸しになってしまう恐れがあるからだ、という。

ヘイズのこのたとえは、金融政策を語る上で有益かつ適切なたとえであると私は考えるのであるが、現在Fedが置かれている苦しい立場をヨリ正確に記述するために、ヘイズは番組中にこのたとえをさらに推し進めることもできたのではないだろうかとも考えるのである。そこで、以下で私なりにヘイズのたとえをさらに発展させてみようと思う。

この日照りは深刻であり、この日照りに対処するためにFedはすでに主要な貯水タンクの中の水を全部排出してしまっている(=政策金利であるFF金利をゼロ%にまで引き下げている)のが現状である。農場に撒く水の量を現状以上に増やそうと試みるのであれば、何らの非伝統的な(いつもとは違う)手段-例えば、ヘリコプターを使って農場まで水を空輸してきたり、近くの湖から農場まで水を引いてきたりして(これらの手段はいわゆる量的緩和政策、つまりは、マネーサプライを増加させて長期利子率を低下させるために、政府債券やその他の証券を購入すること、として解釈することができる)-を通じて、新たな水の供給源を見出さなければならない。

問題は、Fedは通常使用する貯水タンクのコントロール方法や農場に適当な量の水を散布するために貯水タンクのバルブをどれだけ開けばよいかという点については多くの経験と知識を備えている一方で、これら非伝統的な手段に関してはFedはこれまで試した(検証した)ことがない、ということである。近くの湖から水を引いてくる場合について言えば、Fedはどれだけの水を農場まで送り出すことができるか確信が持てないだろう-湖から送り出される水の量は雇用を促進する上で少なすぎるかもしれないし、あるいはあまりにも大量の水が送り出されることになって農場が水浸しになってしまうかもしれない。

また、Fedはヘリコプターで水を空輸する手段のインパクトについても確信が持てないだろう。ヘリコプターでの空輸は農場にヨリ多くの水を運び出すにあたり効果的な方法であるかもしれないが、空輸の途中でヘリコプターが故障→農場に墜落→結果として農場が炎に包まれる、という可能性も-小さな可能性かもしれないが-ある(これを現実のケースにあてはめると、Fedによる量的緩和が世界中の投資家らから財政赤字を無限にマネタイズする(財政赤字分を貨幣発行で賄う)サインとして受け止められるケースにあたるだろう。投資家らからそのように認識されると、インフレ期待の急上昇とアメリカ経済に対する信頼の長期的な喪失につながる可能性がある)。

そうこうしている間においても、農場はひどく干上がったままであるものの、過去数カ月の間には少量ではあるが雨が降った(景気回復が進行中である。そのペースは緩やかではあるものの)。Fedのリーダーらは今後の天気の見通しとして、雨量は徐々に通常のレベルに向かって回復し続けるだろうと予報している(Fedのリーダーらは景気回復の継続を予測している)。Fedのリーダーらの予報通りだとすれば、ヘリコプターによる水の空輸は不必要となるだろう。

ヘイズもそうだが、Fedに対してもっと積極的な行動を要求している人々は、非伝統的な手段が抱えるこういった厄介な問題のいくつかについてはめったに認識していないようであるが、これらの問題は極めて現実的な問題である。しかし、イデオロギー的には異なる立場に立つ優れた経済学者の多く(例をあげれば、リベラルなポール・クルーグマン(Paul Krugman)、テクノクラティックなジョー・ギャニオン(Joe Gagnon)、保守のジョン・メイキン(John Makin))は、惨めな雇用情勢やペースの遅い景気回復、デフレスパイラルのリスクを勘案すれば、非伝統的な政策の採用に伴う不確実性やリスクにもかかわらず、そういった(非伝統的な)政策を実施することも正当化されると主張している。

Fedに対して非伝統的な政策の採用を要求するこれらの経済学者らの見解が正しく、今後の経済見通しが悪化し続けていくことになるとすれば、アメリカという農場はこの先長期間にわたって干上がった状態を経験することになるだろう。