クルーグマンのNGDP目標に関するコメントについて by Scott Sumner

サムナーブログから、“Krugman on NGDP targeting”(7. June 2012)。引用されているクルーグマン部分は、本サイトのOptical_frogさんの翻訳をまるっと写しました。


以下はBritmouseさんが教えてくれたクルーグマンのインタビューの抜粋だ。すべて実に面白い。

 

財政政策 vs. 金融政策の論争では,イングランド銀行にはもっとお金を刷れという圧力がずいぶんかかっていましたね.「Xの分量をやればXの分量のリターンがある,そしてそれが我々のやるべきことだ」と言えるような証拠はあると思いますか?

証拠は実に弱いね.中央銀行のバランスシートを拡大したり,伝統的には購入しなかった資産にまで手を広げるだけで経済に多大な効果が及ぼせるという証拠は薄い.なんとも疑わしい話だし,根拠薄弱な話であって,何事かはあるのかもしれないけれど,すすんで依拠できるようなもんじゃあないね.どうやら理解できることは,大規模な金融緩和 (QE) プログラムがアナウンスされると,期待に大きな影響がでるってこと.とくにインフレ期待には大きな影響がでる.これこそ,単純なモデルにおいて,いまのような状況でテコ[レバレッジ]を手にできる方法なんだ.連銀が QE2 プログラムを開始したとき,金利の構造という観点では大きな変化が生じてる証拠はあんまり挙がらなかった.でも,インフレ期待は大きく上昇して,そのあとまた下げ戻した.おそらく,QE は中央銀行がトリガーを引いて金利を上げ始める意欲はとくにありませんよと伝えるシグナルの役目を果たしている.金融緩和は,表面的な経路じゃなくて,期待の経路をとおして作用してるんだ.ただ,ここでも手に入れられるのはそれ相応のものだけだ.ぼくの考えはいまでも変わってなくて,財政刺激を主要ツールにして,金融政策でこれを支援するのが賢明な政策だと思ってる.どうしても財政刺激が使えないときには,QE をやって幸運を祈ろうじゃないの.

名目GDP目標についてはいかがです? イングランド銀行の責務の変化を支持されますか?

小さな懸念はもってる.つまり,もっと長い目で見て,NGDP を採用したとき,潜在生産性成長の伸びが加速した場合には自動的に暗黙のインフレ目標は下がっていくことになる.そんなことを本当に望むのかってこと.だから,長い目で見てこれがいい枠組みかどうかは不明だね.これを支持していろんな人が展開してる論証では,言葉で多くを語ることなく将来のインフレに対して信用できるコミットメントをつくりだす方法なんだと言われる.そこでぼくとしてはこう思う.それで誰でもごまかせる――あの[金融政策にきびしいリバタリアンの]ロン・ポールをやりすごせる――と思っているなら,それは都合良く自分をごまかしてる.NGDP に関しては,ぼくはこれといって強固な意見があるわけじゃない――ただ,これが特効薬だっていう考えは間違っていると思う.でも,NGDP ならもっと積極的な金融政策を推せるんなら,結構なことだよ.

単にイングランド銀行の政策インフレ率を上げるというのは?

全面的に賛成.2パーセントインフレのかわりに4パーセントインフレにするミクロのコストは,ぼくらの知るかぎり些細なもんだよ.4パーセントインフレはロナルド・レーガンの第二期に起きてるけど,これといって大問題は起きたように見えない.2パーセント目標が標準になったのは,どういうわけだろうね? ゼロ下限問題[金利はゼロ以下にできないのに経済がさらに刺激を必要としている場合があること]を,みんなは気にしないのかな.それに,2001年/2002年になされた連銀その他による多くの研究があって,それによると,2パーセント目標にしているかぎりゼロ下限にあらがうのはきわめて見込みが薄いそうだ.このことはわかったばかりだ.実は,4パーセントの方がずっと意味があるんだ.これは予想に関わるものとして意味をなす.つまり,少なくともインフレ予想を引き上げるし,いま長引いてるような状況に対するもっと厚い緩衝材にもなる――ぼくはこの路線を1998年からずっと主張してるんだけどね.ただ,クレイジーな荒くれ者どもの方が標準的な教科書を信奉していて,聡明そうな連中の方がありとあらゆる理由をひねり出して教科書が「やるべき」と言ってることをすべきと主張してるっていうのがいまの状況なんだよね.

イングランド銀行は連銀のように雇用に関する責務をもつべきでしょうか?

「インフレ率を安定させることは同時に持続可能な完全雇用を目指すことにもなる」という考え方をするとなると,長期的なフィリップ曲線は垂直だっていう信念〔インフレ率がどうだろうと失業率は一定になるという信念〕に依拠することになる.いまや,そうはならないっていうすごく強固な証拠が固まってきてる――安定したインフレがある一方で永続的に低調な雇用が両立しうるっていう証拠がね.ぼくが恐れているのは,経済がその能力のはるか下で回っている最中に,中銀が「ふむ,インフレ率は安定しておりますから,我々はきっちり仕事をしておりますぞ」と言い出すような状況になりはしないかってこと.

 

彼のQE2分析には同意。主となる効果が働いたのは、金利の期間構造を通じてではなく、インフレ期待を通してだった(もちろん私に言わせればNGDP期待)。また、成長が加速するときに暗黙のインフレ目標を下げることについて「そんなことを本当に望むのか?」っていう質問については、その答えはイエス!!!!!! それが経済の安定化につながるのだから。彼は何を心配しているんだろう。もちろんクルーグマンはNGDPでなくインフレ率がカギになる名目変数だとしている。それでもしかするとインフレ率を下げることが金利の低下につながり、流動性トラップの可能性を高めると心配しているのかもしれない。しかし、もちろん高い実質成長は金利に上昇圧力をかける。NGDP目標の下であっても金利は景気循環的だろうから。そして本当に高いインフレ率が必要な低成長な時期にはもちろんNGDP目標がそれをもたらす。

しかも最後の答えの中で彼が心配している問題はNGDP水準目標なら消え失せてしまう。経済がダメでインフレ率は軌道に乗っているようなときに中銀がそこに甘んじることはできない。そのときNGDPは目標軌道を下回っているわけだから。不思議なのだが、クルーグマンが水準目標を語っていることを見たことがない。そしてなおかつ他のケインジアン、たとえばクリスティ・ローマーやマイケル・ウッドフォードはこの点を強調しているのに。彼がどう見ているのかどなたかご存知?

私は長いことインフレ率を4%から2%に引き下げよと主張するインフレタカ派だったが、今はそれは間違っていたと考えている。長期の資本形成のためには2%のインフレ率がベターなのは正しいが、4%のインフレ率ならば避けられたはずの政策の大失敗というコストと比較すればその利得は小さい。もちろんNGDP水準目標ならばどちらにしても最善だ。低いインフレ率、マクロ的安定。

PS. NGDP期待でなくインフレ期待を使っている人たちはよく、人々はインフレ率を気にするけれどNGDPなど見ていないと言う。その逆も真なのだ。あなたは水晶玉を持っていて誰かほかの人に家を買うかどうかについて話すとしよう。「水晶玉のお告げによればあなたの生活費は年8%の率で増え始めます。」インフレ率モデルの人々は、普通の人ならばこの知らせにびっくりして家を買いに飛んでいくだろうと主張する。では、次のように話すとしよう。「水晶玉のお告げによればあなたの収入は向こう30年に渡って年8%の率で増え始めます。」 NGDPな人々は、普通の人はこの知らせにびっくりして家を買いに飛んでいくだろうと言うわけだ。どちらがもっともらしいだろう?