バーナンキvs.クルーグマン?

先日4月25日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)終了後の記者会見の場におけるバーナンキFRB議長と記者とのやり取りの一部を抜粋訳(記者会見のトランスクリプトはこちら(pdf)。訳出した部分はトランスクリプトのpp.8~9)。日経新聞の報道(「FRB議長会見(1)ゼロ金利継続、判断の指針を検討」/「FRB議長会見(2)金融政策の機動性、日米に違い」)も併せてご覧あれ。なお、バーナンキ・コナンドラム-バーナンキ教授(「学者」バーナンキ)の主張とバーナンキ議長(率いるFed)(「セントラルバンカー」バーナンキ)の行動との間におけるギャップの謎(=どうしてバーナンキ議長はバーナンキ教授のかつての主張通りに行動しないのか?)-に関するクルーグマンの論説(anomalocarisさんによる邦訳はこちら)も参照。


ビンヤミン・アッペルバウム(Binyamin Appelbaum)[ニューヨーク・タイムズ紙記者]:現在失業率は非常に高い水準にありますが、先ほど議長が明らかにされた予測によれば、失業率は今後もしばらく高止まりするだろうとのことです。また、今現在インフレーションは安定しており(コントロール下にあり)、先ほど議長が明らかにされた予測によりますと、(インフレーションは)今後も安定的に推移する(コントロール下に置かれる)だろうとのことです。加えて、先ほど議長は、Fedは利用可能な政策ツールをまだ他にも手にしている、とも述べられました。しかし、今のところFedはその政策ツールを使用してはおりません。経済の現状や先ほど議長が明らかにされました予測を前提しますと、多くの人には、なぜFedは今のところ(利用可能だという)その政策ツールを用いようとしていないのか理解に苦しむ、と感じられるようです。この点について議長自身のお考えをお聞かせいただけますでしょうか? もっと正確に表現させていただきますと、議長が現在抱かれている見解は議長が学者時代に表明されていた見解と食い違っているのかどうかという点についてお答えいただけるでしょうか?

バーナンキFRB議長:まずは後半の質問に対して答えさせていただきます。15年前に私が日本銀行に関して表明した見解とFedが現在採用している政策との間には幾分か食い違いがある、との意見を目にすることがありますが、そういった意見はまったく不正確(absolutely incorrect)です。私個人の現在の見解ならびにFedが現在採用している政策は15年前の私の見解と完全に整合的です。当時私は日本銀行に対して2つのポイントを指摘しました。まず1番目のポイントは、私の考えによれば、断固たる決意をもった中央銀行(a determined central bank)はデフレーション―物価の下落―からの脱却を目指して行動することが可能であるし、またそのように行動すべきだ、というものです。2番目のポイントは、短期金利がゼロ%に達した状況においても、中央銀行の手元にある政策ツールは使い果たされたわけではなく、さらなる金融緩和を推し進める上で中央銀行にできることはまだ残されている、ということです。さて、今現在アメリカ経済が置かれている状況を見てみましょう。現在アメリカ経済はデフレーションに陥ってはいません。デフレに陥るリスクがかなり大きなものであった、あるいは少なくともデフレに陥るリスクがそれなりの大きさであった2010年後半に、我々Fedはインフレ率が目標(target)である2%近辺にまで上昇するよう促すためにバランスシートを活用した追加的な手段に訴えました。また他にも、アメリカ経済に対するさらなる刺激を与えるために、FF金利以外の金利に働きかけるなどFedは積極的かつクリエイティブに行動しました。つまり、15年前に日本が置かれていた状況とアメリカ経済が現在置かれている状況との決定的な違いは、当時日本はデフレーションに陥っていた、ということです。デフレーションと景気後退とが共存するような状況においては、2重の責務(dual mandate)[1] のどちらに照らしてもさらなる緩和策が要請されることになります。ところが、今現在アメリカ経済はデフレ下にはなく、インフレ率は我々の目標(objective)に近い水準にあります。さて、どうして我々Fedはさらなる緩和策に乗り出さないのでしょうか? まず指摘しておくべきことは、これまでにも繰り返し語ってきたように、我々Fedは既にかなりの緩和策を行っており、金融政策のスタンスは極めて緩和的である、ということです。ここで緩和策の詳細について述べることはしませんが、おそらくあなたもFedがアメリカ経済を下支えするためにこれまでに試みてきた政策の内容についてはご存知でしょう。となりますと、ご質問の趣旨は、失業率の低下ペースをもう少し早めるために現状よりも高めのインフレ率の達成を積極的に目指す[2] ことは賢明な策かどうか?、ということだと推察します。連邦公開市場委員会(FOMC)の意見は、そのようなことは「極めて無謀(very reckless)であろう」、というものです。我々Fedは、過去30年間を費やして、低位で安定したインフレーションの達成に対する信頼性(credibility)を築き上げてきました。この信頼性が存在するおかげで、過去4~5年間において、インフレ期待の突発的な変動あるいはインフレーションの不安定化をもたらすことなしに経済を下支えするための強力な緩和策に乗り出すことができたわけであり、そういう意味でこの信頼性は極めて価値あるものだということが証明されたと言えるでしょう。(現状よりも高めのインフレ率の達成を目指すことで得られるかもしれない)実体経済に対する極めて不確かでおそらくは疑わしい便益のためにこの資産[3] を危険に曝すことは賢明ではないと私は考えます。

  1. 訳注;「物価安定」と「雇用の最大化」 []
  2. 訳注;あるいは、Fedの長期的な目標であるインフレ率を現状の2%よりも高い水準に引き上げる []
  3. 訳注;低位で安定したインフレーションの達成に対するFedの信頼性 []