Tim Duy 「日本からの教訓?」

(Tim Duy, Lessons From Japan?, Tim Duy’s Fed Watch, March 25, 2012)

Mark Thoma経由で知ったが、FT Money SupplyブログのRobin Hardingが日銀の白川方明総裁の講演をレポートしている。この講演は、積極的な金融政策から生じる問題について詳述したものだという。講演そのものへのリンクは見つけられなかったが(訳注:講演内容および和訳が日銀のページで公開されており、以下では一部に和訳からの引用を用いている)、幸いなことにFTが重要な部分を引用してくれている。

最初の懸念は2つの部分から成っている:

白川氏の最初の論点は、緩和的な金融政策は家計のバランスシートを修復し、痛みを軽減するが、一方で(民間部門だけでなく政府部門についても)バランスシートを急いで修復するインセンティブを削いでしまうというものだ。白川氏はまた、危機によってダメージを受けなかった家計が支出を繰り上げる事による緩和の効果は時間と共に低下するとも示唆している。

最初の文は、「清算主義」アプローチの焼き直しのように聞こえる。バランスシートが修復されるまで支援するのではなく、むしろ経済が崩壊するに任せよ、というわけだ。2番目の部分は、低金利によって繰り上げられるだけの支出しか存在しないと言っている。これは目新しいアイデアではないと思う。ゼロ金利下限によって金融政策の効果が薄れることについてはよく知られている:

Trap

ここで、LM曲線を金利が正の水平線(破線)として描いたのは、名目ゼロ金利下限とデフレーションに直面した経済を表したつもりだ。そう、低金利の効果はゼロ金利下限が近づくにつれて弱まる。こうなると、支出を増加させたければ、日銀はより高いインフレ目標への信認できるコミットメントを行う必要がある。言い換えると、金融政策の効果が薄れたのは意外でも何でもない。まさにゼロ金利下限のもとで予測されるとおりのことだ。

2つ目の懸念は、低金利環境が潜在成長を損なうということだ。今度は白川氏はこう述べている:

「金融緩和によって誘発される需要が、異例の低金利下によってのみ採算が合う投資案件である場合には、資源配分が非効率になり、経済全体の生産性や潜在成長率への悪影響も無視できなくなる。これまで、中央銀行は、潜在成長率を外生変数とみなして金融政策運営を行うことが標準的であったが、バランスシート調整という長期にわたるショックが加わる場合には、低金利の継続が経済全体の生産性に影響を与え潜在成長率を下押しするリスクについても考慮する必要があるかもしれない。」

これは、全く意味をなさないと思う(Hardingもそう考えたようだ)。もし、高収益の案件に資金が行かず、かわりに低収益の案件に投資されるようなことがあるなら、それは問題かもしれない。しかし、高収益の案件がいずれにせよ最初に投資されるだろう。つまり、低金利環境だけで投資の組成が変わるとは思えない。そして、もしより収益性の低い投資案件への資金供給をカットしたならば、資本ストックの成長は遅くなり、潜在成長率は確実に低下する。それから、政府の投資が民間投資を押しのけてしまうという問題はこれと別の話だということに注意しないといけない。政府投資は民間投資の不足を相殺するだろう。むしろ、財政赤字に頼らずに民間投資の水準を高めるため、日本には低い実質金利が必要だ。そして、これもまたゼロ金利下限問題の帰結だ。

3番目の懸念は、Hardingが適切にまとめている。

第3点は、あまりにも強く、あまりにも長いイールドカーブのフラット化が金融部門の収益性を弱めるという点だ。

低金利環境が金融市場にもたらす結果にはやはり同情するが、日銀はただ不調の日本経済の後追いをしているだけなのだ。長期金利が上がるほど日本経済が活発で無いときに、日本銀行がもし金利を引き上げたら、単にイールドカーブを逆転させるだけだろう。そして、それが金融部門にとってプラスとは思えない。

最後の懸念は、お笑いぐさといえるくらいだ:

「商品市況の上昇がグローバルな金融緩和の影響を受けているにもかかわらず、各国の中央銀行が、国際商品市況の上昇を純粋に外生的なサプライショックとみなし、石油製品や食料品を除くコア・インフレを重視して政策運営すると、国際商品市況がますます不安定化する可能性もある。これは、グローバルな視点で捉えると――仮想的な「世界中央銀行」を想定すると――、一般物価が安定するための「テイラー原則」が満たされない状況に他ならない。各国は金融政策運営にあたり自国の安定を目指すのは当然であるが、その自国の安定を考える際には、国際的波及と自国経済へのフィードバック効果を考慮に入れることも重要になっている。」

まず、白川氏はFRBがコアインフレをターゲットにしていると思っている点で間違えている。FRBの目標はコア物価指数ではない。FRBは明確にそう表明している。FRBは、総合物価指数を目標にしているが、総合物価指数を導くガイドとしてコア物価指数を使っているのだ。白川氏は、コア物価指数の動きは穏やかで、総合物価指数が激しく動いているとほのめかしているが、これは正しくない。

Pce2

総合物価指数の経路は、景気後退前よりも低いトレンドをたどっている。さらに言うなら、いったい日本の総合物価指数のどこにそんな(訳注:商品市況の上昇を反映した不安定化などという)問題が起きているのか、説明してほしいものだ:

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最後に、Hardingが書いているとおり、米国の金融政策が気に入らないなら、米国の金融政策を輸入しなければよい。

結論: 白川氏が垂れる教訓をそのまま受け入れるのは差し控えたい。低金利環境への彼の懸念は、未回答のままの疑問点をはぐらかしている: 低金利の代案となりうる金融政策とはいったい何だ? 短期金利をドカンと上げるとか? 白川氏の「懸念」は、金融政策の失敗を今も続けている日銀サイドの言い訳に聞こえてならないのだが。