望遠鏡を逆から見ると by Scott Sumner

Scott Sumner のブログから。“Looking through the wrong end of the telescope”(March 12th, 2012) 。


アメリカと日本は劇的にマネタリーベースを拡大したし、金利をほとんどゼロまで引き下げた。もしそれが十分でないとしたら、意味ある回復のためにはいったいどれだけの金融刺激が必要だというの?

この話はしょっちゅう聞いたし、コメント欄で何度も何度も答えてきた。それと、Fedは何を買うべきか、とか、それは経済に大きな歪みを引き起こすのではないか、という質問にも。

残念ながら、これらの心配はまさに逆だ。彼らが見ているのは強い金融刺激が失敗したというものではない。NGDP成長を極めて低水準に保つようなウルトラ保守的な金融政策はそのように見えるのだ。超緊縮的な金融の帰結は、多くの人々が(間違って)超緩和的金融と考えるものと似ている。つまりゼロに近い金利と巨大なマネタリーベース(GDP比として)。

オーストラリア準備銀行はしっかりしたNGDP成長を保っている数少ない中央銀行の一つだ。彼らの金融指標を米国および日本と比較すると面白いだろう。金融政策のスタンスの三つの指標を見てみよう。

1. マネタリーベース(保守主義者が好きなやつ)

2. 金利(ケイジンジアンが好きなやつ)

3. NGDP成長(バーナンキのお気に入り)

三国の過去5年のデータは次の通り。

Country   NGDP growth    5 year Gov bond yield    Base/GDP in 2011
Australia         41.3%                        3.69%                             4.0%
America          12.8%                        0.90%                            17.9%
Japan              -8.3%                         0.31%                            23.8%

オーストラリアだけは金利とマネタリーベースの水準がある意味ノーマルだ。これは金融緊縮を意味するだろうか? 否、ちょうどその逆だ。ほとんどの人々は望遠鏡を逆から見ている。彼らはベースの拡大や金利がGDPに影響をもたらすと考える。もちろんその因果の向きには一抹の真実があるが、その逆の因果のほうがはるかに重要なのだ。

この表は左から右に読むべきだ。オーストラリアは米国よりもNGDP成長がかなり高いから、金利が高くなっている。そして金利が高いがゆえにベースのGDP比が低い。米国と日本との比較でも同様。そういうわけで、適正なNGDP成長のためにはさらにどれだけの量のベースマネーが必要かと質問されると答えに困る。「もしわれわれの中央銀行がオーストラリア準備銀行のように暗黙のNGDP目標のようなものを採用したら、米国人はベースをどれだけ減らそうとするだろうか」という質問には大いに興味があるが。

今回の不況の前、ベースマネーのGDP比はおよそ6%だった。常時オーストラリアより高めだが、これは米国ドルが不安定な経済圏において価値の保蔵のために人気があるからだ。各地域の税回避行動も現金のGDP比の違いおいて大きな役割を果たす。金利のゼロ制約を脱するのに十分なNGDP成長が実現し、Fedが準備金の金利を1/4%に据え置いたならば、ベースのGDP比は半分以下になるだろう。だから、これ以上いくらのベースマネーが必要かという質問への正確な答えはマイナス60%!

また、コメント欄でそういう心配をする人(だいたい保守主義者)は、FEDがあらゆる種類の非伝統的資産を積み上げているのを心配している。ならばもっと高いNGDP成長か、もっと高いインフレ目標を願うべきだ。2006年半ばから2011年半ばにおけるオーストラリアのNGDP成長は平均7%前後だった。これが中央銀行が小さく控えめであるための方法である。

しかし水準目標を実施すればそんなに高い必要もない。4%、5%でも多いだろう。オーストラリアは2001年半ばから2006年半ばにかけてもトータルで41.0%のNGDP成長を遂げており、その後の5年間とほとんど同じだ。コメント欄のDeclan氏はよくオーストラリアは年ごとの変動が多いから私が言うほど良い経済ではないと指摘してくれるが、彼は正しい。2009年初頭には急落があって、不況寸前だった。しかしそれは不況ではなかった。その理由の一つは水準目標の観点があったからだと思う。オーストラリア中央銀行はトレンドからの逸脱があった時に経済を元に戻すようにハンドルを切るのがかなりうまいようだ。その理由の一部が高めのNGDP成長率トレンドで、これはゼロ制約に陥る心配が要らないということであるし、それゆえに常に伝統的な金融政策を信頼することができるわけだ。

FEDは今、NGDPトレンドを引き上げるか、金利目標以外の方策に転換するかのジレンマに直面している。しかし彼ら自身はその選択に直面していることを理解していないように見える。おそらく彼らは低い水準のNGDP成長と政策ツールとしての金利を維持し続けようとしているのだろう。Fedが目覚めてくれるまで、我々はあと何回ゼロ制約のナンセンスを話題にしなければならないのだろう。どうなるだろう。オーストラリア並みのNGDPトレンド? それともマーケットマネタリズム?

PS. このエントリを書いたのは昨日で、デロングのエントリを読む前だった。このエントリはデロングへの反論と見ることもできるだろう。デロングが超緩和的金融政策と見ているものは実際には超緊縮的金融政策だね。