「FRBの行動じゃない行動 」from The Economist

以下の文は、The Economist,”The Fed Acts Without Acting“の翻訳になります。誤字・誤訳の指摘はコメント欄にお願いします。


 近年の歴史におけるFRBの金融政策行動ではっきりした真実の一つが、中央銀行が政策のゴールを変えることはタイタニック号を操縦するようなものということだ。船を向かわせるべき場所は分かるし、船長にしてもそこにうまく船をたどり着かせようと最善を尽くすかもしれない。それでも急には曲がれないのが巨大な船というものだ。政策決定に影響力のある人々には極端に用心深い人が多すぎるし、政治的にも市場においてもあまりにも詮索されすぎる。

それでも、その船は方向を変えてきたし、その進路を変更し続けようとしている。この危機の初期には、FRBは自由に使える比較的伝統的なツール―フェデラルファンド金利目標の引き下げや緊急時の流動性供給―を使った。不況が長引き、金利目標が0に近づくにつれ、経済が恐慌といっていいほど深く落ち込んでいくのを阻止するためにはもっと多くのことが必要であることが明らかになった。FRBは、まず、住宅抵当証券市場を含む重要な市場の機能をある程度回復させるため一連の資産購入を開始した。後には、長期利子率を引き下げて、経済において支出や投資を支えることを期待して、FRBのバランス・シートを拡大することが明示的なゴールになった。これらの努力は経済を拡張に導き、インフレ期待がデフレに向けて心配なほど下落するのを逆転させるのに役に立った。だが、経済は回復の道すじを進み出したけれどずっと失望させるようなものであり続け、特に低すぎるインフレ率と高すぎる失業率はずっとつきまとった。

たくさんやる必要があると分かっていながらも、おそらくは、いっそう大規模な資産購入パッケージの有効性と政治的な帰結を心配して、FRBは緩和政策においてより広範なコミュニケーションという手法に訴えかけようとするようになっていった。去年の夏には、短期利子率のターゲットの道すじがもっと明白になるように、声明の言い回しを変えた。かつてなら、利子率は長期にわたり低いものになりそうだと言うところを、利子率は少なくとも2013年までずっと低いものになるだろうと言うようになった。経済の弱さを示す兆候が続く中で、その中央銀行は、刺激策としての資産購入がバランス・シートの構成を変化させるよう設計していたが、意思を伝えることを通したより広範な緩和策の手法を使うよう推し進めるようになった。そして、ベン・バーナンキは昨日のワシントンでの1月のミーティングの結論として、この戦略をさらに前に進めた。

昨日の発表では、初めて知る重要なことがいくつかあった。最初に、FRBは声明の言い回しを変えて、低い利子率は少なくとも2014年後期までずっと正当化されるだろうと指摘した。2つ目に、バーナンキ氏は、FRBが個人消費支出を指標とする年率物価2%のインフレ・ターゲットを採用すると明白に述べた。最後に、FRBは標準的な経済予想と並んで新たな情報を公表したが、それには利子率をいつ上げるべきかに関する委員らの見通しを示す分布図が示されている。それにより、現在の連邦公開市場委員の大多数が、利子率は2014年までずっと、あるいはもっと遅くまでかなり低い水準を保つべきだと考えていることが分かる。

多くのFRBウォッチャーはこのFRBの行動に失望した。彼らは、FRBの経済予想ではインフレは低すぎで失業率は高すぎると示しているのだから、さらなる緩和策をとるのが正当だと言う。それなら、QE3(量的緩和第3段)の発表はどうなった? また他の人は、FRBが利子率を2014年後期まで押しとどめておくという選択をすることは、少なくともその年までずっと経済は弱いままだということを暗黙的に認めることになると不平を言っている。私が思うに、これらの批判は2つの理由から少し的外れだ。

1つ目に、FRBは緩和をしたということだ:意思を伝えること(communication)は政策だ。より長期的に短期利子利率を低くすると約束することは長期利子率を押し下げるに違いない―実際に押し下げた―そして、それは長期的な資産購入の明示的なゴールの一つでもある。FRBはインフレ期待を押し上げるべきであり、それは実質利子率を引き下げて、経済活動を後押しする。個人消費支出2%のターゲットを設定することは、FRBがインフレを引き上げるのをもっと簡単にするためのフレームワークを提供する。昨日の報道会見におけるバーナンキ氏のコメントの中で一つの変化が見て取れる。質問に答えて、彼はインフレを目標値に戻す―インフレを上げる―ために対策を講じる必要があるかもしれないとはっきり言うことができたが、以前にはそれを表明するのは難しかった。「インフレを上げる必要がある」と言うことは、政治的に問題をはらんでいる。新しいターゲットは、FRBがインフレを上昇させるための行動の自由を与えるかもしれない。以前のFRBが想定する容認されるインフレの範囲はおよそ1.5%から2%だった。それは、また、個人消費支出(PCE)のインフレであり、最近では消費者物価指数(CPI)のインフレよりも低くなる傾向がある。また、ターゲットは「平均的に」合致すればいいので、FRBがインフレを2%以上にしておくことも容易になるかもしれない。

2つ目に、利子率を上げるのを押し留めておくという決定は、経済が2014年まで弱いままでいることを許すものではまったくない。ターゲットにより利子率がゼロに留めることで、FRBはインフレ期待を上げることにより実質利子率を引き下げることができるというだけだ。より高いインフレ期待を生み出すためには、FRBは将来のある日時―たとえば2014年―において無責任になることを約束する必要があるかもしれない。本質的には、そのことはたとえ通常なら中央銀行を困らせることになる物価と賃金の上昇を生み出したとしても、FRBは2014年の景気回復を圧迫しないということをほのめかしていることになる。したがって、それは投資の見通しについて、今もう少し投資をすべきか決めようとしている人々をもっと強気にすることになるはずだ。そのことが先回りで彼らにもっと投資をさせることになり、FRBが見たがっている近い未来の景気回復に資することになる。

今、景気を押し上げるためには、FRBはインフレ期待を上げることが必要だ。この会合で、FRBはそれを達成するのに役立つカギとなる一組のツールを獲得した:高めのインフレ率を促進するターゲットのフレームワークと、FRBがインフレにもっと寛容になるという市場へのメッセージ。この処置は一緒になって力強いものになるはずだ。もちろん、十分ではないかもしれない。FRBは、経済を押し上げるというコミットメントが信用できるものになるように実行しなければならないし、そのためにはFRBのバランス・シートの規模をさらに拡大させると告知することが必要になるかもしれない。将来、特にインフレの見通しが適度なままでありつつ、失業率が減少するペースが遅かったりあるいは上昇したりする時には、バーナンキがポリシー・ミックスのためさらに資産購入を増やすことになっても私は驚かない。

これら全ての動きが一体となるペースは時に耐え難いほど遅かった。アメリカ経済は歴史的に低いインフレと共に、月ごとに上昇する失業率や二番底の不況に至る危険性に直面してきた。FRBのさらなる行動を求める声が強くなってかなり長期間になる。この遅さはいらだたしいものであったので、以前の場合より、今FRBがゼロ下限金利にある中でもっと知的に首尾一貫して効果的な金融政策に向けて苦労して進もうとしているのは分かりやすい。だが、長い道を行くには、アメリカ経済はかなり酷い状態にある。それゆえ、もしこの進展が続けば、非常に難しい経済環境や政治的環境の中でも、バーナンキ氏は真に驚くべき賞賛に値することを成し遂げたと判断されることだろう。


追記:twitterでのoptical_frogさんの指摘を受けて訂正しました。
追記:MIURA Toruさんの指摘を受けて訂正しました。
追記:成増剛造の指摘を受けて訂正しました。

  • http://twitter.com/buri17 MIURA Toru

    ” the nature of the beast is that it simply won’t turn on a dime. ”
    ですが、
    “the nature of the beast” = “不変の性質” (http://en.wiktionary.org/wiki/nature_of_the_beast)
    “turn on a dime” = “急に方向転換する” (http://en.wiktionary.org/wiki/on_a_dime)
    なので、直訳すると「急に方向転換はしないというのが、不変の性質だ」だと思われます。

    “the Fed reached for the relatively conventional tools at its disposal?reductions in its target for the federal funds rate and emergency liquidity provision. ”
    ですが、
    “at one’s disposal” = “人が自由に使える”
    “reduction in …” = “…の減少”
    ですので、直訳すると「FRBは自由に使える比較的伝統的なツール – フェデラルファンド金利目標の引き下げや緊急時の流動性供給 – を使った。」だと思われます。(「ターゲット内での」という訳がちょっとおかしい感じがします。ここで言っているのは、FOMCで決定されるfederal funds target rateのことですので。)

    “As the recession dragged on and the rate target approached zero,”
    ですが、
    「不況の足取りが重くなって」ですと、不況が良くなったのか悪くなったのか直感的にわかりづらいので、単に
    「不況が長引き、金利目標が0に近づくにつれ」
    でよいのではないでしょうか。

  • 匿名

    ご指摘ありがとうございます。
    the nature of the beastの意味が分からなかったので助かりました。
    またよろしくお願いします。

  • http://twitter.com/goh_zoh 成増剛造

    たまに拝見させていただいております。翻訳ありがとうございました。英語得意ではないのですが、気になったのでコメントします。

    “the nature of the beast”なのですが、上の方のリンクにもあるように意味は”unchangeable nature of something”でしょうから、「なにかあるものの性質」なわけで、ここではタイタニックの性質ということになると思います。タイタニックは「巨大な船」、もっといえば「巨大な組織」の比喩なので、「急には曲がれないのが巨大な船というものだ」という感じに訳したほうが丁寧ではないかと思いました。

  • 匿名

    ご指摘ありがとうございます。
    そちらの方が後ろの文と収まりがいいですね。
    またよろしくお願いします。