ユーロ圏危機の貨幣的ビューへの証拠 by David Beckworth

デイヴィッド・ベックワースのブログから ”Evidence for the Monetary View of the Eurozone Crisis” (WEDNESDAY, DECEMBER 7, 2011)


ユーロ圏の今の問題はソブリン債危機ではなく本当は貨幣的な危機の結果であると見る人々がいる。彼らは欧州通貨同盟に構造的な問題があることを受け入れるものの、結局はユーロ圏危機の背後には2008-2009の危機においてECBが名目支出を期待水準に安定させそこなった原因としてあったという指摘に立ち戻る。このECBの失策–金融政策の消極的な引き締め–は破壊的なものとなった。なぜなら、これはローンの借り手が契約の時に見込んでいた名目収入の大きな減少を意味するからだ。このため政府も民間も欧州の借り手は債務返済が困難となり、かくして財政危機となった。

そして事態は悪化している。ヨーロッパの債務返済能力の減少とは、債務の大きい国々及び債務問題が大きくなるとみなされる国々にリスクプレミアムが付くことを意味し、金融コストの上昇によってそれらの国々の債務負担がさらに引き上げる。財政危機が拡大するにつれて、それは見えやすいものなのでユーロ圏の問題の原因が間違って財政危機だということにされる。こうしてユーロ圏の危機の解決策は緊縮財政であるとされる。しかし貨幣的な見方が示す本当の解決策は名目収入をもともと期待されていた水準に戻すことだ。こういうわけで Daivd Glasner が「ヨーロッパには債務危機ではなくNGDP危機がある」と論じ、Ambrose Evans-Pritchard もユーロ圏危機は「幼稚な中央銀行が引き起こした貨幣的危機だ」と主張している

私も今の欧州の危機に関してはこの貨幣的な見方が説得的な説明だと思う。もちろん深い構造的または政治的問題が存在し、長期的なユーロ圏の持続には疑問を抱くものではあるものの。このことは一つの図で表すことができる。

この図は(1)名目収入の期待された水準からの乖離(the deviation of nominal income from its expected level)と(2)そこから一年のラグを経たあとの負債負担の成長(the growth of the debt burden lagged by four quarters)との間の非常に強い関係を示している。つまり欧州では名目収入が期待を下回ると、上に概略を示した理由によりしばらくして負債負担が増すのである。

それでも読者は、この強い関連が単純に名目GDPが負債負担と共通する部分が大きいからだと考えるかもしれないので、以下の図を挙げておく。これは実際のユーロ圏の実際の名目GDPとその1995:Q1-2006:Q4期間におけるトレンドラインを重ねたもので、上の図における名目収入の期待水準からの乖離を構成したものだ。このトレンドは2008-2009危機以前の名目収入の成長期待がどうだったかを示している。

名目GDPは2008:Q2から2009:Q3の間に急落したがその後は成長している点に注目しよう。つまり今起こっている債務-GDP比の急騰(下の図を見よ)は単に名目収入の急落によるものではない。名目収入を債務負担が手に負える程度の水準まで修復することを金融政策が許容してこなかったためだ。このことが結局ユーロ圏の債務負担を下の図のように見当がつかないほどに発散させてしまっている。図はユーロ圏における政府債務-GDP比だ。

だからこのユーロ圏の危機は貨幣的な危機であり、名目支出を期待水準に安定化・修復しなかったECBの失敗に触発された危機なのだ。繰り返すがユーロ圏には長期的な構造的政治的問題が存在し、それは間違いなくこの貨幣危機の背後にある。それでも、もしこのユーロの実験が救われるべきものであるなら、この危機について正しい貨幣的な理解が為されなければならないし、そうして初めてこの通貨同盟は本来救われるべき期間は十分存続することができるようになるのだろう。

追記1:Martin Wolf が同じように、危機に見舞われているユーロ圏国家の多くについて危機前の財政状態はそう悪くは見えていなかったと論じている

ユーロ圏の主要な(少なくとも目立つ)12カ国の1999~2007年における財政赤字の平均を見てみよう。ギリシャを除いたすべての国が、有名なGDPの3%という上限を下回っていた。この基準は、現在危機に見舞われているギリシャ以外のすべての国を見落としたことになる。それどころか、ギリシャに続く四つの国はイタリア、次いでフランス、ドイツ、オーストリアとなるはずだった。一方、アイルランド、エストニア、スペイン、ベルギーはその期間、良好なパフォーマンスをあげていた。危機後になってから状況は一変し、アイルランド、ポルトガル、スペインの財政状態が大きく(そして予想外に)に悪化した(ただし、イタリアは異なる)。結局のところ、財政赤字は迫り来る危機の指標としては役に立たなかったのだ(チャートを見よ)。

公的債務はどうだろう。この基準によれば、ギリシャ、イタリア、ベルギー、ポルトガルが浮かび上がっていた。しかし、エストニア、アイルランド、スペインの公的債務の状況はドイツよりもはるかに良かったのだ。実際、財政赤字と債務のパフォーマンスに基づけば、危機以前のドイツは脆弱にさえ見えていた。ここでもやはり、危機後になって状況が一変した。アイルランドの物語は驚くべきものだ:わずか5年間で公的債務のGDP比率が93%跳ね上がったのだ。

つまり財政問題のほとんどはユーロ圏危機の結果であり、原因ではないのだ。