ベン、あなたボルカーにならなきゃ by CHRISTINA D. ROMER

クリスティーナ・ローマーがニューヨークタイムスに書いたコラム、”Dear Ben: It’s Time for Your Volcker Moment“(October 29, 2011)

追記 コメント欄のご指摘を反映して修正(10/30 8:00)


1979年10月、当時インフレ率は年10%を超えており、Fedによる段階的な金利引上げにも関わらず問題は解決しなかった。Fed議長だったポール・ボルカーはそこで金融政策の方法を劇的に変更した。そして今、やはり解決困難な失業危機が現議長ベン・バーナンキに静かな革命の実行を求めている。

ボルカーはどうしたか?彼は、インフレはマネーサプライ成長に基づくのだからその成長を落とせばインフレ率は下がると論じた。彼はまた、新しい政策枠組みでインフレ抑制にコミットすることがバックアップとして働き人々のインフレ期待を打ち破るだろうと信じていた。こうしてFedは月次の貨幣成長率を明確にターゲットにすることを始めた。

ターゲットを達成するためには金利を空前の水準にまで押し上げることを意味していた。失業率は10%を超え、ボルカー氏は非難された。高金利に抵抗する農民たちがトラクターに乗ってFed本部を封鎖した。

しかしこの政策が上手く行った。1979年に11%だったインフレ率は1983年には3%に落着き、失業率は通常の水準に戻った。私の父は化学プラントのマネージャーで1981年の不況で職を失ったが、ボルカー氏をヒーロー視していた。ボルカーの力強い行動が低インフレと着実な産出成長の時代を先導した。

いまインフレ率はずっと低いが、失業率は悲惨なまでの高水準に張り付いている。そして1979年と同じく、Fedは従来の手法によっては問題を解決できなくなっている。

バーナンキ氏はボルカー脚本から一ページを盗む必要がある。失業問題に力強くタックルするためには彼が新しい政策フレームワークを設定する必要がある。今回は名目GDP成長経路を目標にし始めることだ。

名目GDPとは、我々が生産するすべてのものをドル価値として表す専門用語だ。産出の合計(実質GDP)に我々が支払うその時の物価を乗じたもの。この目標を採用するとは、Fedは名目GDPがふさわしい経路を保つことにコミットするという意味になる。

もっとはっきり言えば、今の経済の通常の産出成長率は年2.5%であり、Fedは2%のインフレ率が適切だとしている。従って合理的な名目GDP成長率は4.5%程度だ。

Economic research はとうの昔に前に名目GDP目標には重要な優位性があることを示した。しかし1990年代、多くの中央銀行はより単純な選択肢であるインフレ目標を採用した。しかし、経済不況の苦悩が増すにすれ、多くのエコノミスト名目GDP目標論に戻ってきた。

名目GDP目標では次のようになる。Fedはある通常の年 — 2007のような — から始め、以来、本来なら名目GDPが毎年4.5%で成長するべきだったと言い、その成長ペースを守るようにする。不況と2009年と2010年の異常な低インフレのために、現在その経路を約10%下回っている。名目GDP目標の採用はFedにこのギャップを埋めさせる。

これがどのように経済を癒すか。ボルカーの貨幣目標のように、名目GDP目標は強力なコミュニケーションツールとなるだろう。何としても名目GDPを危機前の水準に戻すと誓うことによって、Fedは将来の成長に対する信任と期待を改善できる。

この期待が現在の消費と成長を増加させうる。来年には職にありつけるだろうと思うようになる人々はその分消費をためらわなくなり、売り上げが上昇すると信じる企業は投資がしやすくなる。

インフレ期待が一時的に上昇する効果もあり得る。普通の場合だと、これは望ましいことではない。しかし今の状況は、名目金利をゼロ以下に下げられない制約があり、インフレ期待の小さな上昇は望ましくさえある。このことによって実質借入コストが下がり、自動車や家や事務機器といった高額商品の消費を促進する。

インフレ率が多少上昇するような時期を経るとしても、Fedが物価の番人としての信頼を失うことはない。経済が目標経路に戻れば、4.5%の名目GDP成長を保証するコミットをするFedの政策がインフレを抑制する。常時の実質成長を考慮すれば暗黙のインフレ率目標は2%になり、それはちょうと今と同じだ。

この新しい枠組みを発表することは前進ではあるが、直ちに名目GDPのギャップを埋めるには不十分だ。Fedは次なるステップに進まなければならない。そのステップにはさらなる量的緩和、より強力んば短期金利引き下げの約束、そしておそらく為替レートは下がるだろう。これらの行動は単に期待に働きかけるだけでなく、ダイレクトに有益だ。例えばドルが弱まれば輸出が刺激される。

名目GDP目標によってFedはこれらの積極的な行動を実行しやすくなるだろう。今は、Fedの個別の政策がいちいち議論や内部の不和を生み出している。結果として中央銀行がいくらか拡張的なステップを進もうとも必要より小さなものになり、効果が出る時間が短くなる。

1979年にボルカー氏はこれと似た問題に直面していた。金利を小刻みに上げることが主要な戦いだった。重要な目標にコミットすることが強力なアクションをもたらしたと同時にFed内部の不一致を減らした。名目GDP目標に合意することは、いま同じ効果をもたらすだろう。

この新しい目標を採用することが経済の安定を助けることの証拠としては1930年代を参照するといい。フランクリン・D・ルーズベルトが名目GDP目標を語ったわけではないが、彼は物価と収入を不況前の水準に戻すと言った学術的研究によれば、このコミットメントが回復をもたらす重要な役割を果たしたことが示唆されている。

ルーズベルトは自らの宣言を裏付けるような行動を採った。彼は金本位制を停止しドルを切り下げた。彼は議会に対してはニューディール支出法案を通過させるように働きかけ、財務省に対しては金の流入を不胎化しないように(=金の流入がマネーサプライの拡大につながるように)働きかけた。その結果はデフレ期待の終わりであり、恐ろしい収縮から急成長への歴上最も印象的なスイングをもたらした。

いまGDP目標はこれほどうまく行くのだろうか。ボルカーの時期にそうだったように予期しない展開はあるだろう。しかしこの新ターゲットは議論されている他のどの金融政策よりも失業を減らす可能性が期待される。

名目GDPはFedの主要な2つの関心事-物価安定と実体経済のパフォーマンス-を直接的に反映したものであるので、Fedは経済の回復後も末永く名目GDPをシンプルかつ実用的な目標として用いることが可能である。この点はボルカー氏の貨幣目標と大きく異なる。貨幣成長とFedの究極目標の間の関係が不安定だったためにほんの数年後に貨幣目標は破棄されたのである。

悲惨な時代は大胆な方法を必要とする。1979年にポール・ボルカーはこのことを理解していた。1933年にフランクリン・D・ルーズベルトはこのことを理解していた。今はベン・バーナンキの時だ。彼はこれを掴み取る必要がある。

(クリスティーナ・ローマ―はカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授で、オバマ大統領経済詰問委員会の元議長)

  • http://twitter.com/vwatcher2010 voxwatcher

    翻訳お疲れ様です。あちらの国では「NGDP!  NGDP!」って感じですね。
    些細な点ですが、訳についていくつか気付いた点など。

    ・最後から4番目のパラグラフ;「ルーズベルトは自らの宣言を支援した。」→「ルーズベルトは自らの宣言を裏付ける(バックアップする)ような行動を採った。」

    ・最後から4番目のパラグラフ;「彼はニューディールの支出法案を議会で通し、金の流入を国債でマネタイズした」→「彼は議会に対してはニューディール支出法案を通過させるように働きかけ、財務省に対しては金の流入を不胎化しないように(=金の流入がマネーサプライの拡大につながるように)働きかけた。」

    ・最後から2番目のパラグラフ;「その理由は、名目GDP目標がFedの二つの関心、すなわち物価安定と経済の実質パフォーマンスを直接反映するからだ。名目GDPは経済が回復したあとも末永くシンプルかつ実用的な目標となる。」→「名目GDPはFedの主要な2つの関心事-物価安定と実体経済のパフォーマンス-を直接的に反映したものであるので、Fedは経済の回復後も末永く名目GDPをシンプルかつ実用的な目標として用いることが可能である。」この箇所は名目GDP目標の他の利点(=景気回復のための有効な手段となるのみならず、景気回復後もそのままターゲットとして利用し続けることができるという利点)を指摘していると思われますので、文章を「その理由は」ではじめないほうがいいかもしれません。「その理由は」とするとそれ以前の文章の理由づけであるかのように誤解されてしまうかもしれませんので。

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