自然利子率が負の時のインタゲ by Andy Harless

1世紀以上前、スウェーデンの経済学者クヌート・ヴィクセルは、今日もなお影響力がある理論の中で、物価安定と合致するある”自然利子率”が任意の時点で存在すると論じました。実質利子率が自然利子率を下回ると、起業家には積極的に借り入れを行ってより多くの材や労働力を求めるインセンティブが存在することになり、物価が押し上がります。実質利子率が自然利子率を上回ると、この借り入れのインセンティブは消失し、起業家が求める財や労働力は減少し、物価は低下します。起業家が得られる事業機会は常に変化するので、自然利子率は常に変化します。時に劇的に上昇し、時に劇的に下降します。このようにヴィクセルは、自然利子率について”この利子率は、現実には、高く見える時にはしばしば低く、低く見える時には高い” と論じました。

今日我々が住んでいる世界に適用するためには、ヴィクセルの元の理論にはいくつかの欠点があります。第一に、賃金と物価の粘着性が考慮されていません:我々が観察するように、短期の需要の減少ほどには、賃金と物価、雇用の減少は起こりません。第二に、物価水準を決定し、”慣性”インフレの可能性をもたらす期待の役割が考慮されていません:一般的に今日では(名目貨幣制度[1]の下で)、一定の物価水準ではなく、着実に上昇する物価水準の方が、ヴィクセルが仮定した均衡”自然”利子率に調和的だと理解されています。第三に、”実質”利子率を決定するインフレ期待の役割が十分には考慮されていません。:たとえば、物価が一定だと期待されている時の2%の名目利子率は、物価が2%上昇すると期待されている時の4%の名目利子率に対応します。最後に、次に論ずるように、起業家や資金提供者の行動を決定する、リスク回避の役割が考慮されていません。

ヴィクセルは、自然利子率は資本収益率によって決定されると論じました。しかし、実際には、資本収益率を事前に正確に知ることはできません。起業家は、リスクに関わる補償を必要とし、貸し手(や出資者や他の資金出し手)も資金を出すにあたってリスクに関わる補償を必要とします。その結果、特に不確かな時期で人々が特にリスクを嫌うような時には、”無リスク”な自然利子率と資本収益率の間に大きな楔が生じます。このような大きな楔の一つの帰結は、たとえ資本利益率がプラスと予想されていても、自然利子率が負になり得るということです。

自然利子率が負になると、名目利子率をゼロ以下にすることはできないので、正常に戻す唯一の方法はインフレ期待を作り出すことです。名目利子率がゼロでインフレ率が正であれば、実質利子率は負ですが、十分なインフレ期待があれば実質利子率を負の自然利子率まで下げることができます。しかし、どうすれば、インフレが達成できるのでしょうか? ヴィクセルは、実質利子率が自然利子率以下に落ちると物価は上昇するが、これが起こるためには物価上昇が予測されていなければならないと論じました。中央銀行はこのような引き上げを自力で実現することができるのでしょうか[2]

答えはほぼ確実にYesです。なぜなら十分に無謀な中央銀行は常に高いインフレ率を作り出すことができることにほとんど万人が同意するからです( 想像してください。Fed が全部の国家債務を買い上げ、一緒に民間部門からのCP・住宅ローン・社債などオファーを引き受けたら最終的にはインフレになります)。問題は、必要なインフレ期待を作り出すためには、マネタリーポリシーをどのくらい積極的にする必要があるかを事前に見積もるのが非常に困難だということです。中央銀行は、どのような行動が、低すぎず高すぎないインフレ期待の”幸せで中庸な”ターゲットを作りだすのかを知らないだけでなく、自然利子率すら真に知ることは決してできないので、実質利子率を自然利子率まで下げるために、どのくらいのインフレーションが十分なのかも知ることができません。

もしも中央銀行が見積もりを誤ってオーバーシュートしてしまった場合、非常に高い、不必要に高いインフレの時代がくるリスクがあります。もし(私にはこちらの方が遥かに起こりそうに見える)見積もりを間違ってアンダーシュートした場合、中央銀行の信用性が損なわれ、その後必要なインフレ率を達成することがより困難になります。

(ところで自然利子率をマンキューのルール(http://blog.andyharless.com/2010/06/us-monetary-policy-in-2010s-mankiw-rule.html)で見積もった場合、現在のFEDの2%インフレターゲットは十分高くはありません:FEDは失敗して信用性を棄損するコースに乗っていることになっていると指摘しておきます)

解決策はインフレ率でなく物価(または私が一つ前のポスト(http://blog.andyharless.com/2010/08/nominal-gdp-targeting-24-7-solution.html)で述べたように名目GDP水準)を目標とすることです。一連の物価水準目標は、時間の経過と共に上昇するものとしますが、中央銀行がアンダーシュートしても、オーバーシュートしても変更を加えません。必要に応じてポリシーを自動的により積極的に(またはより消極的に)変更されることが許されます。

もし中央銀行が最初の物価水準目標をアンダーシュートしても、まだ第二のターゲットがあり、それはより高いインフレ率を目標としなければならないことを意味します。もし第二の目標をアンダーシュートしても、まだ三番目があり、それはさらに高いインフレ率を目標としなければならないことになります。こうして最終的にFEDは最適なインフレ率を見つけるでしょう。


原文はAndy Harless Inflation Targeting When The Natural Interest Rate is Negative.

  1. 訳注:不換紙幣 []
  2. この文かなり意訳 []