Thinking About Monetary Policy Josh Hendrickson, March 30, 2010
拡張的方程式を考えるシリーズとして、ジョシュ・ヘンドリクソンの古いエントリから。
デーヴィッド・ベックワースの「貨幣方程式は危機を照らし出すのか?」とセットでどうぞ。
本文中には二種類の目標が出てきます。ひとつは“target“としての目標、もうひとつは“goal”としての目標です。この二つを意識的に書きわけることで、何に働きかけて、何を達成するのかをわかりやすくしています。原文はgoalとtargetになっているので、間違うことはないですが日本語の場合、両方とも目標と表現しがちなので、目標(ターゲット)と目標(ゴール)という表現を使ってみました。
※ここでひとまず、ラルス・クリステンセンの論文「マーケット・マネタリズム 第二のマネタリスト反革命」の関連は終わりにします。是非、あの論文を拙訳でなくとも原文でいいので読んでみてください!本人ブログ『The Market Monetarist』
ニック・ロウとビル・ウールシーは最近の投稿で興味深い論点をとりあげている。これらの論点は無視されがちだが、金融政策にとってはもっとも重要なものである。以下では、金融政策のツール、目標(ターゲット)、目標(ゴール)によって意味しているもの、およびそれぞれ(の目標)の明確な特徴を理解するのがなぜ重要かということを探っていくことにする。
しばしば、我々は金利の観察により金融政策が緊縮的(あるいは緩和的)だと伝えられる。最近の投稿で、実質金利が産出ギャップの良い指標でない事例をつくってみた。標準的なニューケインジアンモデルによれば、実質金利が産出ギャップを予測しないなら、インフレーションの予測の助けにもならないことになる。したがって、実質金利は政策の適切な指標になるようには思われない。同じ投稿の中で、Divisia貨幣総量の増加は産出ギャップの予測の助けになることを論じた。それで、このことはこうした総量が政策スタンスの適切な指標を意味しているだろうか?可能性はあるかもしれないが、必ずということでもない。
議論の弾みをつけるために、交換方程式で把握される単純な貨幣均衡フレームワークを考えよう。
mBV = Py
ここで、mは貨幣乗数、Bはマネタリーベース、Vは貨幣総量の流通速度、Pは物価水準、Yは実質生産量とする。マネタリーベースBは、連邦準備制度によって増減に関わらず直接コントロールされるので、金融政策のツールである。連邦準備制度の仕事は、特定の政策目標(ゴール)に到達するためにマネタリーベースを調節することにある。
これ以外の交換方程式における重要な要素は貨幣乗数mと循環速度Vだ。mがマネタリーベースの構成要素への需要の変化を反映する一方で、Vは貨幣総量への需要の変化を反映するので、これら(m、V)は重要になる。
そこで、連邦準備制度の目標(ゴール)が貨幣均衡を維持することにあると仮定してみよう。言い換えれば、Fedは、貨幣供給量がこれに対応する貨幣需要量と等しくなることを保証したいのだ。交換方程式の用語に従えば、それはmBVが一定になることが必要になる。あるいは、別の言葉だと、mとVの変化がBの変化で相殺されることが必要になる。
この目標(ゴール)は、貨幣超過需要は ─ 最初は ─ 生産量の減少に結びつくのとは反対に、貨幣超過供給は最終的に高インフレにつながるので確かに道理は通っている。不幸なことに、リアルタイムでmとVの移動を観察するのは難しいので、これ(目標到達)は難しい作業となる。そうはいっても、貨幣均衡が維持されることを保証する代替的な方法はある。たとえば、交換方程式の中では、一定のmBVは一定のPyを示す。したがって、中央銀行が貨幣均衡を維持したいなら、政策目標(ゴール)として名目所得の経路を確立することができる。
さらに言うと、我々が採用した枠組みは金融政策の二つの側面を描きだしている。ひとつめは、金融政策のツール(あるいは手段)はマネタリーベースだということだ。これはFedによって直接コントロールされるので政策手段と考えられる。ふたつめは、金融政策の目標(ゴール)は名目所得の望まれる経路に対してということだ。この目標(ゴール)は貨幣均衡を維持するので望ましいと考えられる。政策手段と政策目標(ゴール)が揃っていたとしても、分析は完全ではない。中央銀行は中間の目標(ターゲット)を必要とするのだ。
金融政策の中間目標(ターゲット)は目標(ゴール)変数と強い統計的関係があるものであれば何でもなりうる。付け加えると、それ(目標(ターゲット))は目標(ゴール)変数以上に高い頻度で入手可能なはずだ。この中間目標(ターゲット)は、貨幣供給量、FF金利、目標(ゴール)変数の予測などの指標がなりうる。(FF金利は、この言葉の頻繁な使用に関わらず、金融政策の手段ではないことに留意するのは重要だ。)
交換方程式に話を戻すと、(強い統計的関係がある限りにおいて)中間変数の当然の選択肢として貨幣総量がある。交換方程式を書き直すと、いつもの慣れ親しんだ形になる。
MV = Py
Mは中間目標(ターゲット)として使用される貨幣総量とする。
金融政策の振る舞いは次のように特徴づけられる。中央銀行は名目支出の経路を導く意図でマネタリーベースを選択する。だが、マネタリーベースそれ自体単独でのコントロールは政策目標(ゴール)を満たす保証をするのに必ずしも十分ではない。マネタリーベースの需要の変化が貨幣乗数の変化に結びつき、また結果として、マネタリーベースと名目支出の別の関係に結びつくからだ。マネタリーベースが名目支出の望まれる経路を維持するのに十分なだけ調節されることを保証するためには、中央銀行は中間目標(ターゲット)として貨幣総量を使用する。言い換えれば、中央銀行はこのことを保証するためにBを選択する。
mB = M*
ここで、M*は貨幣総量の望まれる水準をいう。おまけに、この貨幣総量の望まれる水準は名目支出の望まれる水準を維持するように選択される。
私が話したいもっとも重要な問題は、金融政策のスタンスの「最適な」指標についてだ。我々の事例で言うと、マネタリーベースは金融当局によってなされる実際の調節を描き出すのに役立つ。だが、それは金融政策のスタンス(すなわち、金融政策が緩和的か緊縮的か)を必ずしも描き出さない。たとえば、マネタリーベースの構成要素の需要の変化があると仮定すると、貨幣乗数は変化し、そして変化の方向次第では、MとPyが対応して一定のままのときでさえマネタリーベースは金融政策が拡張的か収縮的かを示唆するかもしれない。
同様の問題がMにはある。中央銀行は中間変数Mを目標(ターゲット)にしてマネタリーベースを調節する。Mの目標(ターゲット)はPyの望まれる経路を創り出すことを意味する。だが、マネタリーベース同様に、Mの需要が ─ Vを反映して ─ 変化するとすれば[=Mの需要はVに影響されて変化すると仮定をおけば]、Mの動きは名目支出の望まれる経路を創り出すのに不十分だ。金融政策のスタンスを見つけるため[= Pyの望まれる経路を見つけ出すために]にMに依存することは、Mの変化(の増加)がVの減少もある可能性を見逃すと、ミスリーディングにつながるかもしれない。
それで、金融政策のスタンスを決定する最適な方法は何か?
答えは極めて簡単だ。目標(ゴール)が名目支出の特定の水準(Py)*に到達することであれば、金融政策のスタンスは目標(ゴール)到達のために設定された目標(ターゲット)[Py*]から目標(ゴール)を表す変数[Py]が逸脱した度合いで最適に決定される。
Py – (Py)*
この値がプラスであれば政策が拡張しすぎであり、この値がマイナスなら政策は収縮しすぎであることを示している。この点に関してはアメリカ国内では多くの人に見逃されているようであるが、ほかの場所では広く認識されている。たとえば、イングランド銀行は明確なインフレ目標(ターゲット)をもっている。彼らの目標が2%でインフレが3%に上昇した場合、名目金利水準や貨幣総量の挙動と関係なしに政策が拡張しすぎだということにほぼ間違いないだろう。アメリカの問題はFedが金融政策に対してはっきりとした目標(ゴール)をおかないことに集約されるようだ。むしろFedは完全雇用と低インフレを促す。結果として、実際、FF金利や貨幣総量のような変数がミスリーディングになる可能性があるときに、政策のスタンスを判断するためにFF金利や貨幣総量のような中間目標(ターゲット)の動きに頼りがちになる。