交換方程式は危機を照らし出すのか? by デーヴィッド・ベックワース(2009)

Does the Equation of Exchange Shed Any Light on the Crisis? by David Beckworth,Thursday, September 17, 2009

またもしつこくクリステンセン(※『マーケット・マネタリズム 第二のマネタリスト反革命』 BY ラルス・クリステンセン)の引用元の文章です。このベックワースのエントリはほぼ引用されているので文章を読む必要があまりないですが、グラフと表があると恒等式の意味が理解しやすくなるので、恒等式と図表の関係に注目してください。

ハミルトンが返答したサムナーの文章は、本ブログサイトに投稿されている「真の(REAL)問題は名目(NOMINAL)だった」です。

※原文のMacroeconomic Advisersへのリンクは切れていたので、Topページのリンクにしておきました。どういったデータにリンクしていたかは確認できていません。


ジェームズ・ハミルトンは答えはNoだと考えている。Cato Unboundでのスコット・サムナーの紹介記事への返答で、彼はサムナーが恒等式MV = PYを使って、過去1年間の名目支出の急落を説明していることに疑問を覚えた。(この恒等式では、Mはマネーサプライ、Vは貨幣流通速度あるいは単位貨幣数量当たりで消費される平均回数、Pは物価水準、Yは実質GDP、PYは名目GDPを表す。)ハミルトンは、恒等式の役立つ使用は貨幣流通速度を決定する(すなわち、V=PY/M)ことにあり、それでさえ使用する貨幣尺度に基づき変化する可能性があるのでまったく信頼できないと主張している。だが、私はこの恒等式が危機を照らす可能性がある見識をハミルトンが過小評価していると考えている。詳細な政策的回答にならないかもしれないが、最近の経済学の発展に関して分析的実証的に考える出発点の提案にはなる。
それで、この恒等式は私たちに危機について何を伝えているのか?この質問へ答えるためには、最初に少しばかり恒等式を拡張する必要がある。そのために貨幣供給量MがマネタリーベースB、貨幣乗数mからなる積だと書こう。若しくは

M = Bm

と書こう。さて、これは次の式を得るために交換方程式に代入する。

BmV = PY

それで、名目支出のソースがマネタリーベース、貨幣乗数、そして貨幣流通速度であるという恒等式を得る。この恒等式を手にすると、過去1年間の名目支出の劇的な減少に対するこれら3つのソースの寄与度を評価することができる。貨幣流通速度を描き出すために、貨幣尺度としてのMZM(流動性預金:MZMがM1、M2よりも好ましい理由はこちらを参照)及びMacroeconomic Advisersから得た月次名目GDPという2つのデータを使用すると、3つの時系列データが下記のグラフのように描かれる(拡大するには図をクリック)。

この表は貨幣乗数と貨幣流通速度の低下がともに名目GDPを押し下げていたことを示す。貨幣乗数の減少は次のことを反映している。(1)金融仲介の減少に導いた預金制度の問題と(2)Fedが超過預金準備に支払う金利、の両方である。貨幣流通速度の低下はおそらく不況下での不確実性によって創り出された実質貨幣需要の増加の結果だ。この数字はまた連邦準備制度がマネタリーベースを著しく増やしたことも示していて、ほかのすべての数字が同じなら名目支出を押し上げるはずだ。しかし、貨幣乗数とマネタリーベースの動きはお互いをほとんど相殺しているように見えるとおり、ほかのすべての数字は同じでない。したがって、結局のところ、名目支出の落ち込みを加速させる貨幣流通速度の下落(言い替えると実質貨幣需要の増加)だったようだ。

これらの一連のデータで起きていることを理解するために、拡張的交換方程式の対数が次のように記述できることに注目してみる。

B+m+V = P+Y

さて、最初に上述の恒等式で四半期ごとの時系列データの値の差異をとると、四半期毎の成長率の近似値が得られる。(注意書き、この近似値は2008年のマネタリーベースの値のような大きな差異にはあまり適さない。)下の表は、年毎の値の結果になっている。(拡大のためにクリックを)

この表で変化の水準からわかったことを確認する。:(この)貨幣流通速度のはっきりとした落ち込みがマネタリーベースと貨幣乗数の変化がお互いを相殺している2008年後期と2009年前期の名目支出の落ち込みに中心的に寄与したようだ。マネタリーベースの最大の急増加は貨幣乗数が最大に落ち込んでいると同時期の四半期(2008年第3四半期、2008年第4四半期)に起きていることがはっきりしている。もしこのFedの超過準備への付利が貨幣乗数低下の主因だったとして、またFedはインフレーションの上昇なしに大量の信用緩和を可能にする(言い替えると、トラブルのある資産を買い上げ、スプレッドを下げる)ためにこの新手法(超過準備付利)を使ったのならば、Fedのタイミングは申し分なかった。不幸なことに、Fedは信用緩和プログラムで貨幣供給を不安定にするのを防ぐのに非常に集中していたので、実質貨幣需要(言い替えると貨幣流通速度)の発達[増加]を見逃すか、過小に見積もっていたように見える。結果として、名目支出は収縮した。

さて、自明なことかもしれないが、上述の交換方程式からの得られる情報はうまくいかなかったことやこれからすることを議論するための出発地点として有用なことがわかる。


【参考】

原文にありませんが、四半期変化率の表をグラフにしてみました。説明のとおり、大きな変化があると見にくいですね。。。

  • http://twitter.com/buri17 MIURA Toru

    Hamilton contends the only meaningful use of the identity is to determine velocity (i.e. V=PY/M) and even then it is not totally reliable since it can vary based on the measure of money one uses

    .はitがvelocityを指していて、VはMの取り方によって変わってしまう、ということなのだと思います。なので「恒等式の使用はまったく信頼できない」という訳は少し違和感があります。

    例: ハミルトンは、この恒等式の唯一の意味のある使い道は、貨幣速度(すなわちV=PY/M)を決定することであり、それですら使用するマネーの指標によって変わりうるためまったく信頼できるものではないと主張している。

       note that the money supply is the product of the monetary base, B, times the money multiplier, m productは「生成物」ではなく「積」の方が適切かと。

    例: マネーサプライMはマネタリーベースBと貨幣乗数mの積M = Bmであることに注意しよう。

       Using MZM as the measure of money (see here for why MZM is preferred over M1 and M2) and monthly nominal GDP from Macroeconomic Advisers to construct velocity, the three series are graphed below in levels

     Macroeconomic Advisersから得ているのは月別名目GDPのようですので、係り受けが少し変です。Usingを1回だけにしようと思うとうまく日本語にならないので、2回にしてみました。

    例: マネーの指標としてMZMと用い(なぜMZMがM1やM2より望ましいかはここを参照)、Macroeconomic Advisersから得られる月別名目GDPを用いて貨幣流通速度を作図すると、3つの時系列データは下記のグラフのように描かれる   This figure indicates that declines in the money multiplier and velocity have both been pulling down nominal GDP. のfigureは「図」ですね。

       To get a better sense of what is happening with theses series note that log of the expanded equation of exchange can be stated as follows: 

    logは「記録」ではなく、log(対数)だと思います。積を和に変換しているので。

  • http://twitter.com/sacred_star sacred_star

    >恒等式の使用
    itは(一般的な使い方としてのMV=PYではない、ハミルトンが考える恒等式の使い方である)「V=PY/M」のことを指していると解釈しましたが、たしかにあの表現だとわかりにくくなってしまいましたね。訳出では単に貨幣流通速度としてもいいなと思いました。

    >積
    修正しました。

    >MZMと名目GDP
    →(…としての)MZM、及び(…という)GDPの二つを用いて
    原データを確認できなかったのでMZMに係るか迷いあの表現になりましたが、修正しました。

    >log
    すっかり失念していました。修正しました。

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