名目GDP水準目標に対する三つの反対論 by David Beckworth

ゴールドマン・サックスのレポート(pdf)をきっかけにNGDP水準目標の話題でかなりの祭り状態になっていますね!そんな中、ベックワースのブログから “Three Objections to NGDP Level Targeting“(OCTOBER 21, 2011)。


世の中の誰もが名目GDP水準目標ファンだというわけではない。最近見かけた三つの反対論に返答しよう。

1. 銀行が貸し出しを増やさないのだからこれ以上の金融刺激は的外れ

Fedが今のドル支出に影響する能力は銀行による貸出の創出に依存するのではない。そうではなく、期待を変化させるFedの能力に依存しているのであって、期待が変化すれば銀行以外の一般部門がそのポートフォリオバランスを適正に変える。名目GDP水準目標とは、Fedが危機以前の名目GDPトレンドに戻るまで資産を買い続けることに揺るぎなくコミットすることだと思い出してほしい。ニック・ロウが書いているように、Fedのこの脅しは人々の間に名目支出の増加とインフレ率の上昇の期待を引き起こすだろう。この期待の変化が次に、投資家たちによる流動性の高い低利回り資産(例えば銀行預金、MMF、国債)から高利回り資産(例えば社債、株式、資本)へのポートフォリオ組み換えを引き起こすだろう。この高利回り資産へのシフトは直接的には資本資産の購入を通じ、間接的には資産効果とバランスシートチャンネルとを通して名目支出に影響する。名目支出の増加が実質の経済活動を活発にし経済展望を改善し、期待の変化をより強固なものにする。

銀行貸し出しはこうした動きに反応するだろうがが、銀行貸し出しがこれらを動かすのではない。こういう歴史に触れておくのも面白い。FDR(訳注:ルーズベルト大統領)が1933年に名目GDP水準目標に近いものを行い、これが1936年まで続く急回復のきっかけとなった時、銀行貸し出しが回復したのは1935年になってからだった。つまり銀行貸し出しは回復に不可欠なものでなかった。現代はそのまま同じというわけではないかもしれないが、いずれにしてもここで重要なのは、銀行貸し出しが増加するとしてもそれは期待の変化によってもたらされる経済状況の改善の帰結としてであるということだ。

2. 追加的な金融刺激は貯蓄者と銀行の資本ポジションを悪化させるだけ

この心配はつまり、短期金利は既にゼロ制約の下にあるので追加的金融刺激は長期金利をも引き下げる必要があるということだろう。金利収入が下がれば貯蓄者と銀行の資本ポジションは悪化する。後者は今の銀行産業の問題を考えれば一大事だ。しかしである。信任される名目GDP水準目標が実行されたならば実質経済が良化し(上記)、それは実質金利を引き上げる。貯蓄者も銀行も利益を得る。今の不況の第一の原因が総需要の不足だという点で合意できるならば、米国経済が未だに低迷しているという事実は金融政策がその仕事をしそこなっていたことの表れだということになる。金融政策は総需要を立て直し損ない、経済が弱まることを消極的に許容したのだ。金融政策がひとたび総需要を立て直せば(名目GDP水準目標の下ならばそうなるはずなのだが)、金利が上昇し心配は消え失せる。

3.GDP目標はボラティリティを増やすことが理論的に示されている

Laurence Ball (1999) は広く引用されている論文の中で名目GDP目標は産出とインフレのボラティリティ増加を引き起こしうるということを理論的に示した。のちにLars Svenson (1999)がこの発見を再確認している。 これにより名目GDPはどうなるだろうかという疑問が提起された。Bennett McCallum (1999) はそれほど早くはないとした。McCallumは、彼らの結論はある特殊なバックワードルッキングなISおよびフィリップス曲線関係に立脚しており「理論的に魅力的でなく」(バックワードルッキングだから)、その結論はより一般的な仕様の場合は持ちこたえられないということを示した。のちに Richard Dennis (2001) も Ball と Svenson の結論が脆弱であることを確認している。最後に、 Kaushik Mitra (2003) は適応学習の場合でさえ名目GDP目標は望ましい金融政策目標であることを示した。結局のところ名目GDP目標がボラティリティを増やすというロバストな研究は存在しない。