テイラールールの「危機」の持つ7つの顔 (第2.7節) by James Bullard

2.7 量的緩和

2009年にFOMCが採用した量的緩和[1]はそのプログラムの発表および実施後の長期金利の下落を持って一応の成功を見たと考えられている。イングランド銀行の量的緩和[2]も同様な評価を得ている。イギリスでは特に期待インフレ率と実際のインフレ率の双方が現在に至るまで高めに推移している。またそれゆえにイギリスはデフレの罠に陥る危険は低いと見られている。イギリスの量的緩和はアメリカのものと比較して状態依存的な特徴をより強く備えている。アメリカの手法は単純に巨額の資産購入を発表するものであったが、マクロ経済の状態に応じて購入の額やペースを変更するというものではなかった。

量的緩和プログラムはより満期の長い国債を買うことを含むという点で「負債のマネタイゼーション」と言われることが多い。これはインフレ加速的なものとして一般的に考えられている。よってインフレ期待はこのような買いオペに対して感応的である。イギリスでは全ての買いオペが国債を対象としたものであった。アメリカでは2009年に新たに発行されたファニーメイやフレディーマックのMBSなどの証券を対象としていた。これらの証券の購入がインフレを促進する効果があるのか判断することがこれまで難しかった。だからもしかしたらイギリスよりもアメリカのインフレ予想および実際のインフレに対する効果が小さいかもしれない。

イギリスでの経験が示すことは適切な国債の状態依存購入はインフレとインフレ予想と極めて低い時にはよいツールになりうるということである。やり過ぎは禁物で、注意しておくが、あくまでターゲットに近づけるための手段としてのみ使われるべきである。考慮すべき重要な点は、それが民間部門に一時的なもの、あるいは恒久的なものと受け止められるの範囲である。我々はある日マネタリーベースを倍に増やして、翌日元に戻すというオペレーションが可能だが、これは物価水準に何らかの影響を与えるとは思えない。ベースマネーは供給する時と同様に吸収することも容易い。だから、民間部門は銀行部門へのベースマネーの増加が一時的なものと看做せば予想を変化させないだろう。2001年に始まった日本の量的緩和プログラムで、日銀は政策目標が達成されるまでバランスシートの規模を維持するという考えに信任を得られなかった。そして最終的に実際に日銀は民間部門の予想通りインフレとインフレ予想を高めることなくプログラムを終了させてしまったのだ。アメリカとイギリスは成功に浴することができた。もしかしたらそれは民間部門が、FOMCやイギリスのMPCが不愉快な経済状態を避けるために「何でもやる」という考えに納得したからかもしれない。

  1. 訳注:FOMCは日本の量的緩和との違いを強調して信用緩和(Credit Easing)とよんだ。 []
  2. 訳注:BOEの量的緩和は日銀が行ったものに近いが2%のインフレ率を目標として満期の長い長期国債を中心として購入している、という点で日銀の量的緩和とは本質的に異なると言えるだろう。 []