テイラールールの「危機」の持つ7つの顔 (第2.6節) by James Bullard

2.6 ヨーロッパの状況での財政介入

2001年の「危機」論文以降のアカデミックな研究において図1で示されるような意図せざる定常状態を回避するような政策の提言がなされた。この提言はターゲット定常状態の近傍でテイラータイプの金利ルールの望ましい性質を保存することを目的としている。金利ルールが問題だからと言って、単純に金利政策ルールを丸ごと放り出す必要ない、というのである。

この提言は特徴的な構造を持つ。金融政策が実行される方法を変えるのではなく、政府の財政スタンスを変えるというものである。この解決法はそもそも実践性という点で非常に疑問だが、もっと悪いことに、経済が低金利均衡に陥るような時には自動的に政府が積極的に財政を拡大するようなルールを採用せよ、というのだ。この財政拡大ルールのポイントは統合政府の負債—貨幣と政府債務—を十分に速いスピードで拡大させろ、ということである。理論上はこのような財政拡大は意図せざる定常状態を均衡から排除することが可能である。この間接的な方法によって、経済の長期的な均衡がターゲット定常状態の周辺に留まるようにできるのである。

この提言の言わんとしていることは要するに、民間部門が政府が望まないような予想(例えば非常に低いインフレ予想)を形成するならば、政府は無責任になる、と脅しているわけである。この脅しがもしクレディブルならば意図せざる均衡は排除できる。何人かの識者はこのタイプの解決方法に対して「乱暴な方法」として批判的である。

今日、特にヨーロッパのソブリン危機といった情勢を考慮に入れると、こういった提案はグローバル経済の現実と多くの点で矛盾するものだと私は考える。モデルの中ではこれはうまく行くかもしれないが、政府が実質的には債務不履行するという脅しをかけるということの実践性はあまりに多くを合理期待仮説に依存しているように思える。さらに政府がそのような政策を実際にとったとしたらそれは危険な火遊びであることは間違いない。実際に債務不履行の淵に陥った国々の経済パフォーマンスの歴史的結果は悲惨なものだ[1]。この方法は低金利定常状態と闘う上で上策とはとても言えないだろう。

これらのことを考慮の外においたとしても、この政策が実際にうまく行くかは現時点では疑問である。この問題での先端をいく日本は実際に積極的な財政拡大をし、負債-GDP比率は200%に近づいている。それでも経済が低金利定常状態から抜け出すようなサインはまるで見当たらないのだ。そして今では財政削減が真剣に議論されているという事実への国際的な反応について政策当局は非常に懸念しているのだ。

  1. 訳注:本当か?ほとんどの場合、債務不履行や通貨切り下げを行った国はその後速やかな回復を見せているのではないだろうか。 []