帰って来たマネタリズム by Nick Rowe

「準マネタリズムの古典エントリシリーズ」ということで、古いブログエントリですが第一弾はNick Roweの “The return of Monetarism” (March 03, 2009) 。


金利がゼロに近づいて中央銀行が「非伝統的」金融政策を視野に入れるようになり、ネオ・ヴィクセリアンの金融政策への視界は暗転した。我々はマネタリズムの復権を目撃している。

これは経済学者たちが非伝統的金融政策をうまく考えられない主たる原因だ。我々の頭の中に詰まっている主流ネオ・ヴィクセリアンのパラダイムでは非伝統的金融政策について何も語ることができない。私たちは、もっと古く半ば忘れられた考え方に向き合わせられている。どうも金融政策を考える上での「暗黒時代」は確かにあるのだ。ちょうど財政政策を考える場合と同じように。

過去10年間に渡る金融政策の主要なパラダイムはネオ・ヴィクセリアンの視点だった。金融政策とは、中央銀行が短期名目金利を設定することを意味していた。現時点の短期金利と将来期待される短期金利(モデルの一貫性がある、もしくは「合理的な」方法で導かれる)が、産出に対する今の需要を決定する(IS曲線上の)。産出に対する需要は現時点の実際の産出から決まる。なぜなら企業は独占的に競争するから。現在の産出と将来の期待インフレ率(これもまたモデルの一貫性のある方法で導かれる)からフィリップス曲線等式によってインフレ率が決まる。

簡単に言えば、標準的なネオ・ヴィクセリアンモデルは、IS-LMモデル(開放経済の場合はBP曲線を加える)プラス、フィリップス曲線、プラス、合理的期待、プラス、ニューケインジアンモデルの使い手たちが扱いうるミクロ的基礎である。但し:このLM曲線は真のLM曲線ではない。LM曲線は金融政策の反応関数で、そこでは中央銀行が様々な指標の関数として金利を設定する。これは紛れもなく貨幣交換経済(物々交換ではなく)のモデルである。それなのにモデルの中のどこにも貨幣が現れない。

もしお望みならば、モデルに貨幣を付け加えることはできる。貨幣需要関数を入れるのだ。しかしそれでは何の意味もない。貨幣量は需要で決まるのだが、モデルの他の箇所で決まる金利・物価・所得の時に、人々がどのくらいの量の貨幣を持ちたがるかで決まる。ここで貨幣は5番目の車輪、つまり付帯現象に過ぎない。ほかの何をも変化をさせずとも貨幣をモデルから消去することさえできてしまう。

標準的な金融政策のモデルは、言い換えれば、貨幣について何も語っていない。「M」がモデルの中に現れない。デービッド・レイドラーが書いているように「ゴーストのいないハムレット」のようなものである。M、すなわち貨幣量が現れないモデルを使っては「量的緩和」を理解することなどできない。

ここで私が「金融政策の標準的モデル」と言う場合、それは中央銀行が金融政策を設定するときに用いるコンピュータモデルと、金融経済学者たちが金融政策を教えたり研究するときの頭の中にあるモデルとの両方を指す。正統ネオ・ヴィクセリアンの大学院教科書であるところのマイケル・ウッドフォードの”Interest and Prices“はキャッシュレス経済のモデルである。頭の中に量の問題が存在しないのに量的緩和を考えることは不可能だ。

標準的ネオ・ウィクセリアンのパラダイムの下で非伝統的金融政策を考えられるただ一つの方法は、中央銀行がインフレ期待を作り出すとすることだ。インフレ期待により(名目金利がゼロに張り付いているので)実質金利が低下し、消費と投資需要が増大する。しかし、これは役立たずなアドバイスなのだ。なぜなら中央銀行がインフレ期待をつくりだすメカニズムが実際には存在しない。役立たずな金利のレバーを押すことだけしかできないのだが、名目金利は既にゼロに張り付いているのだから。

というわけで、我々は古い昔の考え方に立ち戻る必要がある。金融政策とは貨幣のストックを変化させることなのだ。金融政策の目的は、不況においては、貨幣の超過供給をつくりだすことだ。人々は中央銀行に売ったものと交換に貨幣を受け取る。貨幣は定義によって交換の媒体だ。ただし人々はそういった貨幣をすべて保有したいわけではない。中央銀行の目的とは、むしろ人々が交換で受け取る貨幣を持ちたいと思わないほど多くの量のモノを買うことだ。超過供給の貨幣は人の手から手に渡されていくホットポテトになる。超過貨幣は使われ続ける限りは消滅しない。他の市場にこぼれ出し、その市場の商品・資産の価格と量を増やしながら超過需要を作り出す。そして量と価格の上昇は、人々が余分な貨幣ストックを保有したくなるのに十分なほどになるまで継続する。

これが古典的マネタリズム。私がデイビッド・レイドラーから学んだこと。スコット・サムナー を読んで学んだことでもある。


訳者より: sacred_star さんが準マネタリズムを紹介するワーキングペーパー(Christensen, Lars, September 2011, “Market Monetarism – the Second Monetarist Counter-revolution”. Market Monetarism 13092011)の翻訳を手掛けていらっしゃいます。お楽しみに!それをちょこっと手伝っているのですがその関連エントリとしてご紹介。この翻訳は sacred_star さんの下書きを大いに参考にしました。