テイラールールの「危機」の持つ7つの顔 (第2.5節) by James Bullard

2.5 従来の方法

イングランド銀行(BOE)によれば、イギリスは314年もの間、政策金利が2.0%を下回ったことがないという。300年以上もの間には戦争や金融危機、大恐慌などの大きなショックに見舞われたわけだが、非常に最近になるまで政策金利の底はそれでも2.0%であったのだ。このバージョンの政策は図5に示されている。この政策ルールは意図せざる定常状態を排除するわけではなく、単により高いインフレレベルの意図せざる定常状態へ移動させるだけである。図ではこの点は金利2.0%、インフレ率1.5%になる。この政策はある意味において非常にリーズナブルであると言える。金利政策の主な目的の一つがインフレ率を低めにかつ安定的に保つことであるという面において、この政策は二つの定常状態をもたらすものの、それら二つの間に大きな差がなくなるからである。よって、意図せざるデフレ定常状態に陥ることを心配する理由がだいぶ軽減されるのだ。この政策は「低すぎる」金利に陥ることを防いでくれることも意味する。

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図5:従来の政策

政策当局にとって二つの定常状態がそれほど違うものでないということはBSUの分析について重要な疑問をもたらす。なぜ一方の定常状態均衡は他方よりも好ましいのだろう?この疑問にはあるアカデミックな根拠がある。通常はより低いインフレ率が好ましいという最適な長期インフレ率についての多くの研究があるのだ。しかしながら、従来の政策論議においてはターゲットの定常状態は間違いなく好ましいというものであった。もしかしたら最も重要な点は、意図せざる定常状態においては中央銀行がショックに対して金利を操作する余地がないことかもしれない。場合によって非常に長期にわたって通常の安定化政策が使えなくなるからだ。しかも、日本が「失われた10年」に苦しんだのは、図1に示されているようなデフレ的な低金利定常状態にハマったという事実によって部分的に説明される、という通説(conventional wisdom)もある[1]。これが妥当ならば、アメリカとヨーロッパは日本が陥った窮地にハマるわけにはいかない。私の知る限りの低名目金利定常状態に関する議論のほとんどは、緩やかなデフレでさえも許容できないということに集中している。アメリカの金融システムの問題が現在の危機の核であるというのは広く受け入れられている。多くの金融取引(特に住宅ローン)は名目値によって契約されているため、危機以前に結ばれたこれらの契約のもとではデフレが金融システムを傷つけ、アメリカ経済の成長を阻害すると考えられている。

もしデフレが最大の問題であるならば、結論はゼロ金利政策を呼び込むような政策ルールは避けるべきだというものになるだろう。そのような政策の代わりに、従来の政策ルールがそうであったように[2]政策金利の下限をゼロよりも大きいある値にするような政策ルールが採用されるべき、ということになる。もちろん図5に示したような政策は系税に負のショックが与えられた時にそれほど大きな政策余地を与えるものではないが、そのようなわずかばかりの政策余地のために「失われた10年」を味わうリスクを負うべきなのだろうか?

  1. 訳注:何を根拠に「通説」と言っているのかは不明。 []
  2. 訳注:「従来の政策ルール(traditional policy rule)」が何を指すのかわかりにくい。冒頭のBOEの政策を指しているだろうか? []