ヘリマネは効くが、「ヘリマネ」は効かない by Scott Sumner

サムナーのブログより “Helicopter drops would work, but “helicopter drops” might well fail“ (19. September 2011) です。helicopter dropsの訳語に「ヘリマネ」を当てました。


スティーブ・ワルドマン が金融刺激を有効にすることにまつわる問題点を議論していた。その結論は、「ヘリマネ」は確実に機能するだろうが、Fedにそれをする権限がないとの主張だ。

我々の問題が需要側にあって、民間部門の過剰債務や貨幣所持要求に起因するものならば、解決策は既に知られている。その場合は、皆に貨幣を与えれば問題は解決だ。しかし、皆に貨幣を与えるとは伝統的で法的根拠のある金融政策ではない。そのためには新しい法律が必要になる。

マクロ経済学で言う「ヘリマネ」は財政刺激と金融政策を合わせたもので、その本質はFedが貨幣を刷ることで財政をファイナンスすることである。昨今はFedが銀行準備金を金利付きの負債にしてしまっているので「貨幣を刷る」というフレーズがやや誤解を招きやすくなっている。しかし準備金付利があろうがなかろうが、「ヘリコプタードロップ」は流動性の罠からの確実な逃げ道にはならない。

2000年代初頭、日本銀行は大量の貨幣を刷り、日本政府は大量の赤字国債を発行した。ヘリマネが本当に機能するならこれはインフレ的でなければならなかった。しかしそうならなかった。なぜなら日本銀行は、物価の上昇を避けるために最終的には貨幣を引き上げるとということも示唆していたから。実際彼らは2006年にまさにそれを行い、物価は上昇しなかった。

「期待の罠」(クルーグマンが有名にした)は、伝統的な金融刺激の時だけに起こると思っている人が多い。なるほど、日本で見られたようにこの罠は財政と金融を組み合わせた刺激にも発生する。一時的な金融刺激は効果が無いのだ。金利がゼロの時それは効かない。金利がプラスでもそれは効かない。財政政策と組み合わせても効かない。単純に、一時的では効かない。

Fedは貨幣注入は一時的だとの約束もしていたので、日本と同様、効いていない。あなたはこう言うだろう。「他の何が彼らにできた?永遠にベースマネーを三倍にすると約束したらハイパーインフレになりかねない。」 そう、彼らもその全部が永遠だと言うわけにはいかないが、どのくらいかは言えた。スティーブ・ワルドマンはFedはそうしないだろうと言う。それなら、ヘリマネだろうがなかろうが、貨幣増による刺激効果は期待できない。

それと、QE2が仄めかされていたいた時の市場の反応は、ゼロ制約下であっても公開市場操作は成功し得るということを示唆している。この一番いい説明は、市場というものはFedの行動そのものに反応すると言うより、むしろFedがデフレを避ける決定をするというシグナルに対して反応するというものだ。そしてFedは(今のところ)日本型デフレーションを避けることに成功している。

次、このポストのややこしいタイトルについて。ここで「ヘリマネ」と引用符で囲むときは、負債を金融でファイナンスすることを指す。引用符が無いときは本物のヘリコプターと本物の貨幣を表す。エリートなマクロ経済学者は両者に違いはなく、純技術的にはそれは正しいと言うだろう。しかし期待の観点からは両者はとてつもなく違う。本物のヘリマネ、つまりベンがアメリカを横断して100ドル札をばら撒くやつは、ほぼ間違いなくインフレ期待を急上昇させるだろう。ここでもし彼がピーター・パンの衣装をまとい、メガホンで「みんなが信じればインフレになるよ」とアナウンスし続ければなおさら。イメージが強力に効くのだ。実際、そうすれば本当に撒く100ドル札はほんの少しでいいだろう。報道のカメラを呼ぶのを忘れなければ。もっといいのは、Foxニュースの視聴者たちの無意識の関心を引き起こすために、ごく狭い区域で実行することだ。

これはもちろんクレージーだし、お勧めしているわけではない。しかしこの思考実験が描くのは、Fedはどこへ行きたいのか、そして我々をどうやってそこへ連れていくつもりなのかを単純に語ればもっと良かったということだ。ワルドマンは、この唯一の正しい政策について、それはFedがやりたいことではないから最初の一歩たりえないと言う。

実際問題、Fedはそのガバナンス構造なり委託目標を変えてやらない限りはNGDPや文化水準をターゲットとにすることはないだろう。左も右も、とりわけFedを機能不全に陥った議会の抜け穴と見たがるようなテクノクラートは矛盾に陥っている。Fedは政治的な存在なのであって、オープンに思考を巡らすことのできるトーガを着た経済哲学者の楽園ではないのだ。そんなものは忘れて手を汚す必要がある。

見よ、我々はすでにFedが「やりたいこと」が機能しない場合を示した。それは失敗するだろう。我々専門家は実際に機能する政策を提案する。もし我々の社会が自殺に向かうなら専門家にできることはない。我々の有効であろう提案に対していちいち「それは政治的に受け入れがたい」と言われてしまうならば、もうできることはない。あとは人々を教育し続けるだけだ。

さて、明日のパーティのためにトーヤにアイロンをかけなくては。

  • http://www.facebook.com/people/Yushin-Hozumi/100000475013170 Yushin Hozumi

    単純なタイポだと思いますが、”"price level path” が「文化水準」になってますよ。

  • 匿名

    >2000年代初頭、日本銀行は大量の貨幣を刷り、日本政府は大量の赤字国債を発行した。・・・一時的な金融刺激は効果が無いのだ。・・・財政政策と組み合わせても効かない。
    とサムナーは言っているが、「2000年代初頭・・・日本政府は大量の赤字国債を発行した」は事実ではない。 当時の日本は小泉改革下で、経済政策は専ら金融政策に頼っていた。これは、次のページの図1をみても明らか(2000年代初頭以後、財政の寄与はほとんどゼロないしマイナス状態)。http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/07/blog-post.html

  • 匿名

    >2000年代初頭、日本銀行は大量の貨幣を刷り、日本政府は大量の赤字国債を発行した。・・・一時的な金融刺激は効果が無いのだ。・・・財政政策と組み合わせても効かない。
    とサムナーは言っているが、「2000年代初頭・・・日本政府は大量の赤字国債を発行した」は事実ではない。 当時の日本は小泉改革下で、経済政策は専ら金融政策に頼っていた。これは、次のページの図1をみても明らか(2000年代初頭以後、財政の寄与はほとんどゼロないしマイナス状態)。http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/07/blog-post.html

  • 匿名

    >2000年代初頭、日本銀行は大量の貨幣を刷り、日本政府は大量の赤字国債を発行した。・・・一時的な金融刺激は効果が無いのだ。・・・財政政策と組み合わせても効かない。
    とサムナーは言っているが、「2000年代初頭・・・日本政府は大量の赤字国債を発行した」は事実ではない。 当時の日本は小泉改革下で、経済政策は専ら金融政策に頼っていた。これは、次のページの図1をみても明らか(2000年代初頭以後、財政の寄与はほとんどゼロないしマイナス状態)。http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.com/2011/07/blog-post.html