the Economist 「目標の変更 ― 連銀は名目GDPをターゲットにすべきなの?」(2011/08/27)

(訳注:サムナーのブログのエントリ”Not enough“の8月26日付の追記で触れてた名目GDP目標に関してのthe Economistの記事(2011/08/27)です。初訳ですが、あまり示唆に富むものはなかったかもしれません。細かいところ知識不足で直訳してます。)

10年以上前、当時プリンストン大学の経済学教授だったベン・バーナンキ氏は鬱憤たまって、日本の総需要は「患者の容態に比して成長が遅すぎ」るため、「ルーズベルト流の解決策」を行い、もっと大胆に行動しろと日本の中央銀行に言ったのけた。彼はFRB議長としての今の自分に、過去からきつい警告を発していたのかもしれない。通常の指標であるインフレ率からみれば、連銀はかなりうまくやっている。しかし、バーナンキ氏が90年代後半の日本に対して用いた基準からみると、何かが酷く間違っていたといえる。アメリカの名目GDP(インフレ調整前のGDP)は今回の景気後退において急落し、いまや景気後退前の調子が続いたと仮定した場合より12%近くも低いところにある。

名目GDPの下落はひどく有害な影響を及ぼした。家計や企業、政府の借金の返済能力は名目値の収入に依存していたから、名目GDPの下落により政府も民間も負債の負担が増えた。インフレ率と名目GDPの変化のギャップがとても大きかったため、ベントレー大学のスコット・サムナー氏のような一部の経済学者たちは古いアイデアを持ち出してきた。彼らは中央銀行に目標を切り替えろと言っている。(中央銀行が過去20年に渡ってそうしてきたように)目標のインフレ率を達成するように金融政策を行うよりも、中央銀行は名目GDPを目標とすべきというのだ。

名目GDP目標を採用するためには、中央銀行は名目GDPがどのくらいの速さで成長すべきか、自らもしくは外部が目標を設定する必要がある。きっと年間4-5%だ。これはほとんどの先進国では、2%程度のインフレ率が目標として一般に相応しいとされており、長期的な潜在成長率は2-3%であることに対応している。金融政策の対応は今までどおりだろう。名目GDP成長率が落ち込みすぎると思われるときには緩和し、加熱しすぎそうなときは引き締める。もしある年に名目GDPが目標の成長率を下回った場合には、中央銀行は次の年からその分を取り戻すだろう。事実上、全体の名目支出を後追いする形で。それによりインフレと実質成長の割合は年毎に変動する。

中央銀行の手段も変わらないだろう。通常時には短期利子率を調節し、今のように利子率がゼロ近傍にある時には金を刷ることによって資産を買う量的緩和のような非伝統的手段を採る。違いは新たな目標がどのようなシグナルを送るかにある。現在の状況では、名目GDPを目標にする中央銀行は今以上にずっと積極的に緩和政策をとることになるだろう。サムナー氏は目標の名目GDPを目指すというコミットメントそれ自体が経済を加速させると考えている。しかし、もしそうならなかった場合、おそらく連銀は目標に達するまでさらなる量的緩和を行わなければならないだろう。

名目GDP目標の擁護者たちは、名目GDP目標はマクロ経済の安定性を高めると主張する。景気後退期に入ったとき実質産出量は減少するが、価格はそれよりもゆっくりと調整されることになる。これはつまり、名目GDPを目標とすることによって中央銀行は実質的に産出量の変動を今よりもうまく抑えられるということだ。その上、中央銀行は供給ショックに対してより適切に対処できるようになる。例として石油価格の高騰が招いた産出量の押下げとインフレ率の上昇によって、マイナスの供給ショックを受けたを考えてみよう。インフレ目標を行っている中央銀行は、引き締めを行わなければいけないと考えて産出量の減少を悪化させるかもしれないが、名目GDP目標の達成を使命とする場合にはもっと柔軟に対処できるだろう。またこれと反対のケース、生産性を向上させる新技術が実質GDP成長を上昇させ、インフレ率を下げるという場合においても同様に利点がある。インフレ目標を行っている中央銀行は資産バブルを起こしかねない緩和的な金融政策を採るだろうが、名目GDP目標の中央銀行はそのまま留まるだろう。確かに、インフレ率の変動は激しくなるだろうが、経済全体としては安定することになる。

物価の安定が経済政策の指針であると育てられた人々(ついでに、インフレ率が上昇するとすぐに激動の70年代を持ち出す人たちも)にとって、時によっては高インフレを許容するという仕組みは許しがたいものかもしれない。しかしながら、名目GDP成長目標はそれでもインフレに蓋をすることによって、インフレが抑えきれなくなることを防ぐだろう。また、名目GDP成長の上昇はインフレ率を上昇させるかもしれないが、それだけではなく経済をその潜在的な大きさに近づけ、失業を減らすはずだ。一部のウォッチャーたちは、イギリスのインフレ率が目標よりも一貫して高いのに比べて名目GDP成長が安定している点を指摘し、ここ最近のイングランド銀行は実のところ名目所得を目標にしているのではと疑っている。

トラスト・ミー

理論上のこれらの利点にもかかわらず、名目GDPへの目標の切り替えはいくつかの新たな問題と古典的な問題を生み出す。連銀も2007年に始まった金融危機に対してこれまで必ずしも手をこまねいていたわけではないので、新たな目標を設定してもそれを簡単に達成できるかどうかは全く分からない。また、インフレ目標の効果についての理論は確立されている。それは企業と民間の期待を固定することによって、賃金と価格をインフレ目標に見合うように設定させ、中央銀行が商品価格などによって引き起こされる一時的なインフレ率の上昇にあたふたしなくて済むことを可能にする。名目GDP目標についての一つの心配は、特に名目GDPはインフレ率に比べて把握しづらい概念であり、かつしばしば低めに計測されるという理由から、人々の期待が定まりづらくなるだろうということだ。

そして一番のリスクは信用の喪失だと思われる。いかなる欠点があるにせよ、この20年間においてインフレ目標はマクロ経済環境をまあまあ安定させてきた。アメリカとヨーロッパの中央銀行は少なくとも日本のような、負債の実質価値が上昇することによって返済が困難なものになる状態、すなわちデフレに陥らずに済んだ。インフレ目標を捨てて他の目標を目指すことを中央銀行に求めるのは、良い結果以上に悪い結果をもたらすだろう。特にそれが慎重さと安定に対する中央銀行の究極的なコミットメントについて、人々の期待を弱める場合には。これらのことから、名目GDPを目標とすることは、それにいかなる利点があるにせよ慎重になるべきなのだ。

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    乙です!これからもよろしくー。細かいこと二つほど。”For those reared on…”のところは「物価の安定が経済政策の指針であると育てられた(飼育された)人々にとっては」、ですね。だから”hard to stomach”なんですね、きっと。

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    もういっこは名目GDPが”a harder concept to grasp”というところです。これは「より把握されにくい概念」、つまり、インフレ率に比べて一般にわかりにくいから「期待」が安定化しないんじゃないかということだろうと思います。

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    指摘ありがとうございます。丁寧に拾ったつもりなのに恥ずかしい読み違いしてました。