テイラールールの「危機」の持つ7つの顔 (第2.2節) by James Bullard

2.2 安定性

拒絶ビューに一つのバリエーションがあって、それは拒絶ビューに比べればいくらか穏当なものである。けれど、結局は拒絶ビューの変形に過ぎない。それは私自身の研究に関連した見方である。このビューにおいては名目金利のゼロ下限は受け入れられているし、またBSUの分析のその他の詳細も同様である。そこでは二つの定常状態の存在は認められているが、完全に動学的な分析の中でターゲットの定常状態は安定的な性質を持ち、逆に金利が低位に留まる意図せざる定常状態は不安定なものだと考えられている。だから、この議論によれば意図せざる定常状態についてはあまり懸念する必要はなく、ターゲットの定常状態の付近に経済があることが期待されるのである。

BSUのオリジナルの論文では私が図1で示したことよりももっと多くのことが語られている。図は大枠を示しているに過ぎないのだ。BSUはいくつかの関連し合った論文でDSGEモデル[1] を使ってこれらのシステムの分析を行った。2001年の元の論文では中央銀行と民間部門が合理期待に従う状況が考察されている。そして彼らはターゲット定常状態の近傍にある経済が意図せざる低金利定常状態へと至る均衡経路が存在することを示したのだ。具体的にはターゲット定常状態から螺旋状にはじき出される様子を示した。

この経路 —金利とインフレ率が不安定な経路を辿ったあとに突然低金利定常状態に到達する— が現実的であるようには見えなかったためと、モデルがこの不安定な経路についての経済主体の合理的な予想形成に大きく依存しているための二つの理由によって私はこの経路が特に説得力を持つとは考えなかった。

2007年のStefano Eusepi(現在はNY連銀に在籍)による論文ではこれらに関する問題が検討されている[2]。Eusepiは図1の二つの定常状態を生む非線形性の本質を認めると同時にBSUの分析を特徴づける合理期待の仮定を緩めた。その代わりに経済主体が経済が変動する仮定で得られるデータをある特定の方法で学んでいくモデルを仮定した[3]

Eusepi論文の重要な結論は次の通りである。仮に非線形なテイラータイプルールに従う金融当局が(多くの中央銀行がそのように行動している予想されるように)1期前のインフレ率に反応するならば、唯一の長期的な結果はターゲット定常状態のみとなる。私はこの結論に慰めを感じる。意図せざる定常状態を心配する必要はなく、ターゲット定常状態のみに集中できる、と保証してくれるのである。しかし注意深くEusepi論文を読んでみると、意図せざる定常状態に収束するようなその他の経路も可能であることが分かるのだ。それでも結局のところターゲット定常状態は安定的であり、安心してぐっすり眠れると期待する向きもあるかもしれない。

私はこれは拒絶ビューの一変形だと考える。まずこれらの結論は魅惑的ではあるが美しいものではない。モデルの詳細に依存して多くの異なる経路が存在するからだ。これらの詳細のうちどれが本当に現実に当てはまるのか言い当てることは難しい。しかしもっと重要なことは図1が少なくとも一つの国の経済が、それも大国の経済が、現実に意図せざる定常状態に収束していることを示していることだ。アメリカに比べて日本の条件が微妙に異なることを示さない限り、安定性ビューはこのデータをうまく説明することが出来ない。日本では意図せざる定常状態に収束し、アメリカではターゲット定常状態に収束するという結論を生む条件が必要であるが、私はまだ説得力のある説明に出会っていない。というわけで、私は安定性ビューは実のところ拒絶ビューの変形に過ぎないと結論するのである。

  1. Dynamic Stochastic General Equilibrium Model []
  2. Stefano Eusepi, 2007, “Learnability and Monetary Policy: A Global Perspective,” Journal of Monetary Economics. []
  3. George Evans and Seppo Honkapohja, 2001, Learning and Expectations in Macroeconomics, Princeton University Press を参照せよ。 []