テイラールールの「危機」の持つ7つの顔 (第2.1節) by James Bullard

第2節

2.1 拒絶

図1が示すように、中央銀行の政策に関わるものの多くにとってここ20年から30年間の日本とアメリカを同じ枠組みで捉えることに困難を来していると言って過言ではないだろう。多くのものにとって1990年代以降の日本の状況は”curiosum[1]”であった。それはビザンチン的[2]な日本の政治 —日本銀行がインフレ目標を持たないこと、ある特定の政治的独立性を日本銀行が欠いていること、もしくは日出ずる国に起きた何か他の原因— に特に由来すると思われる奇妙な結果である。アメリカの政策当局が非線形なテイラータイプルールとそれがもたらす意味を懸念しなければならない、という考え方は時として現実的な条件を無視して理論を弄ぶこととして捉えられる。線形なモデルは我々にとって必要なこと全てを説明してくれる。よって、拒絶[3]という視点から我々は線形なモデルに従い、図2に示したように日本のデータは無視することもできる。

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図2: 「拒絶」視点

図2ではテイラータイプルールは線形になっており、ターゲットの定常状態はインフレ率2.3%に留まる。政策金利は現在のインフレ率に反応し、1対1以上の割合で反応するアクティブなものである。実際、定常状態の近傍ではテイラータイプルールが線形か非線形かを議論する余地はほとんどない。しかし非常に低いインフレ率では線形のテイラータイプルールはマイナスの領域に突入してしまい、名目金利のゼロ下限制約を犯してしまう。現在の金融政策の議論においてまさに図に示されたようなマイナス金利の政策を熱望するものもある。よく言われるのは、現在の経済状況のもとで必要な政策金利は-6.0%になる、といったものである。しかしこれは馬鹿げた話であって、現在の実務においてそのような政策金利は単純に実行不能であり、よってそのような政策金利のもとで経済がどのように振る舞うかを知る術はないのである。

なにより図2で最も問題になるのは日本のデータが含まれていないことである。その場合、コアCPIが現在ターゲットを下回っているのだから政策金利をゼロ付近にとどめ、また将来においてもゼロ付近にとどめ続けると約束することに特に問題はないと論じたくなる。図2によればそのような政策にはなんの危険もないのだ。この分析では長期的な均衡は一つしかないのだから、経済はいずれ自然とターゲット定常状態に復帰するという一種の信仰が存在しているのだ。

  1. 訳注:Cluster というグループの1981年のアルバムのタイトルらしいが、意味は不明。 []
  2. 訳注:ビザンチン帝国の政治にちなんで「権謀術数に長けた」、もしくは「複雑怪奇な」という意味らしいが、おそらく後者の意であろう。 []
  3. 訳注:非線形なテイラールールを受け入れない、という意味。 []