テイラールールの弱点を修正 by Andy Harless  

Andy Harless のブログから、”Fixing What’s Wrong with the Taylor Rule“(May 13, 2011)です。Harless は三月にサムナーのブログのコメント欄で「サムナーのNGDP目標論は、ニューケインジアンの言葉ではフォワードルッキングなテイラールールの特別な場合に相当する」と書き、サムナーを喜ばせていましたが、この説明に相当するエントリです。コメント欄にはもちろん…

同時に、中央銀行が潜在成長率やGDPギャップを推計して裁量的な政策を実施することの批判になっていて、これはまさしくBOJに妥当するのではないでしょうか。

また、コメント欄でMark A. Sadowski という人が指摘しているように Harless のこの論をより詳しく知りたい方は、Econbrowserのコメント欄におけるHarless自身の投稿を読むといいと思います。


オリジナルなテイラールールには4つの問題があると思う。

1. それはルールでもなんでもない。テイラールールは潜在産出の見積もりに依存する。実際、中央銀行の活動に入り込む裁量のほとんどは潜在産出の見積もりにあてられている。「裁量的な」中央銀行でさえもその政策は、いったい何が合理的な政策行動であるかのコンセンサスには強く制約されるが、その行動は潜在産出量の前提を変えることで正当化されうるのである。「厳格な」テイラールールに従うことにコミットしている中央銀行に可能な選択肢も、普通、表面的には完全に独自の運営をしている場合と何ら変わりはない。

2.それは間違ったインフレ率を自己修正しない。テイラールールのインフレ率は過去4四半期のものだから、それ以前に起こったインフレを「忘れて」しまう。これは四つの意味で問題だ。

  • テイラールールは、物価水準を長期で予測できないので、遠い将来の価格に関係する名目契約や意思決定を妨げる。
  • テイラールールでは、期待デフレ率が自然利子率を上回った時、中央銀行の有効なデフレ脱却手段を与えない。
  • テイラールールは、高いインフレ率を引き下げる中央銀行の企ての信任を減じてしまう。なぜなら失敗した中央銀行は自分自身を許すと約束しているということになるから。
  • テイラールールは次に述べる「凸性」の問題を悪化させる。なぜなら中央銀行はインフレ目標からの乖離を効果的に無視するから。たとえそれが蓄積していても。

3.それは短期フィリップス曲線の凸性を考慮していない。例えば仮に潜在産出を低く見積もりすぎていたり、産出の係数が十分小さかった場合、短期フィリップス曲線が凸だとすると、中央銀行は自らの失敗を「認識」するまでは産出が潜在産出を下回るのを許容し続けるだろう。短期フィリップス曲線がL型である極端なケースならば、実際の産出が潜在産出を永遠に下回るのを許容してしまう。より一般的には、この凸性の問題は、実際の産出の減少が潜在産出を減少させる履歴効果で加重されていくので、中央銀行が潜在産出を間違って見積もるとそれは(恒久的な)自己達成的予言となる。

4.それは実現不能なマイナス金利目標を指示することがある。細部には論争があるとはいえ、少なくとも2009年から2010年のある期間は明らかにそのような状況だった。

ではどうやってこれらの問題を修正すればいいだろうか。次のような答えがあり得る。

1.潜在産出の見積もり方法を固定する。(将来の方法変更があっても構わないが、必ず長いラグを考慮する必要がある。そうでないと裁量的な政策変更を正当化できてしまうので中央銀行の信頼を傷つけてしまう。)私は単純なのが好みなので、次の方法を勧める。2007年の第四四半期の産出水準(ほとんどの計算で米国は潜在成長率に近かったとされている)を採用し、年率3%(産出成長率の歴史的な近似値)で増加させるのである。

2.目標インフレ率の項を物価水準の項に置き換える。つまり、目標物価水準からの逸脱したら徐々に目標インフレ率を引き上げるのである。ここで言う目標インフレ率の項というのを明確にするために、オリジナルのテイラーの式を見よう。

r = p + .5y + .5(p – 2) + 2  (p はインフレ率)

私が言うのは“p – 2”の項であって最初のPの項ではない。これは厳密には目標インフレ率ではなく、ツールの定義の一部である(実質金利の近似値)。私の新しい式では “p – 2” を “P – P*”、ここでPは実際の物価水準(100を底とする対数)、P*は目標物価水準(100を底とする対数)とする。

3.産出の係数を大きくする。お望みなら、信頼の毀損を避けるために物価の項の係数も同じだけ引き上げてもいい。こうしてよりアグレッシブなテイラールールが得られた。これで凸性の問題が完全に解決されるわけではないが、産出が目標を大きく下回った時に中央銀行がそれをもとに戻すために積極的な行動を採ることが保証される(物価水準が逆の向きに大きく外れていない限り)。こうすれば厳しく経済が弱い長く不必要な期間となることはなくなる。(ジョン・テイラーは David Papell の研究に基づき「より高い係数を用いる必要ななく…係数は低い方がよく機能する」と主張している。しかし、この研究は産出の項の係数の変化だけに注目したものであり、私が上で提案しているインフレ率の項の係数や物価水準への置き換えは想定されていない。オリジナルのルールの産出の項の係数を小さくする方法は、他の部分を変えることによって達成される結果に比べればセカンドベストに過ぎない。)

4.今ベーシスポイントが無いなら将来から「借りる」。つまりゼロ以下の目標政策金利が指示された場合、中央銀行はそれがゼロ以上に戻った後も、ちょうど(不可避に)下回ったベーシスポイント・年がキャンセルされるまでは政策金利を目標以下に据え置くと約束するのである。もちろんこの方法は、中央銀行がどのようなルールに従っているかを市場が知っていなければならないので、ルールは本当のルールでなければならない。このルールがよく定義されていれば、オーバーシュートもよく定義されるということであり、市場は中央銀行が「借りた」ベーシスポイントを「返済する」と期待するだろう。そして中央銀行は継続的な信任を維持するためにはそうする義務があることになる。

オーケー、以上の全体像を見てくれ。私が提案したのは何だろう?これは実は名目GDP目標(その一つの実施方法に従った)だ。物価水準の項と産出の項に同じ係数を用い、これらの項を目標からの乖離とすれば、テイラールールは物価水準目標と産出目標を結合させたものに単純化される。テイラーのオリジナルの2%のインフレ目標と私の潜在産出見積もり方法を合わせると、5%の名目産出成長経路が目標として導き出される。

お望みなら、このルールをフォワードルッキングにしたり(ラグのある実測値でなく名目GDPの見通しを用いて)、係数を非常に高いものにすることもできる。さらに中央銀行に、公的に取引される名目GDP先物契約に現れる見通しを用いることを要求することにより、将来の信頼を強化することも可能だ。そうすれば市場は中央銀行の開けた口にマネーを置くことになる。これは既にスコット・サムナーが提案しているものと同じだ。人々は金融政策に関するサムナーのアイデアはメインストリームから遠く離れたものと思っているようである。しかし私はここで何らラディカルなことを提案しておらず、単に非常にオーソドックスなテイラールールの幾つかの問題を修正しようとしただけに過ぎない。