面白いと評判の Matt Rognlie から”Why target the CPI?“(May 1, 2011)を紹介します。その6日後にマンキューが自慢していた(原文、邦訳)論文を先に紹介していたわけですね(そこでマンキューはこのエントリをリンクしている)。初めて読むとビックリな話ですが、やはりマンキュー&レイスを引用している物価指数についてのPIMCOの解説は参考になります。あと、コメント欄でサムナーが嫌なこと言ってますねえ。
金融政策に関する議論はほとんどの場合、Fedは暗黙のインフレ目標を持っていて、ある種の消費者物価指数(CPI)を見ていることを当然だと思っている。
しかしCPIは唯一の物価指数ではない。GDPデフレータ(国内最終生産の物価指数)は生産者物価指数(生産者のコストについての物価指数)もある。我々がどの指数をトラックするべきかはアプリオリに明確なわけではない。
この問題について、マンキューとレイスは2003年の論文、「What Measure of Inflation Should a Central Bank Target?」でエレガントな枠組みを示している。彼らは「安定物価指数」を作ろうとする中央銀行を考える。これを目標にすれば経済活動の安定が最大になるような物価指数である。彼らが導く基準はとても面白い。以下がそれである:
- ビジネスサイクルに反応するセクターの部門の価格ウエイトは上げる。
- イデオシンクラティック・ショック1 の強度が大きい部門の価格ウエイトは下げる。
- 価格が柔軟な部門の価格ウエイトは下げる。
- CPIでウェイトが高い部門の価格ウエイトは下げる。
ここにはとてつもない量の洞察がある。価格はそのシグナリング価値の一部しか表さない。ある部門がビジネスサイクルに反応するならば、その価格はマクロ経済の情報をより多く含んでいるので安定物価指数の大きな場所を占める。同様に、マクロ経済の基調と関係がないショックに常に影響を受ける部門からは、経済の方向についての意味あるシグナルを抽出することは難しい。
第三のポイントは古典だ。他が一定ならば柔軟ではない価格を目標にするべきである。Aoki(2001)はこの特殊なケースでの結果を示している。ある一つの部門の価格が粘着的で他のすべての部門が完全に柔軟な経済では、粘着価格のインフレ率を目標とする政策が最適となる。何故?安定化の観点からは、価格弾力性の高い財は金融政策とは無関係であり、そのような財の価格が自由に動けば、FED が何をしようが均衡値に調整される。
ショッキングなのは四番目だ。他の条件が同じならCPIで重要なものほど価格ウエイトは下げるとは。言い換えれば、マクロ活動の安定化に最適な指数は生活費を測定する指数とある意味正反対になる。マンキュー&レイスでは以下のように説明している。
この驚くべき結果から得られる洞察は何か?インフレ目標の下では均衡価格にショックが起こると産出に望ましくない変動が生じるので、これは金融政策で打ち消すべきものである。部門kにおけるショックはその消費ウエイトに依存する。消費ウエイトが大きいほど、そのショックは経済の他の価格に広がり混乱が大きくなる。従って中央銀行はショックの波及効果を最小化するために、中央銀行は大きな部門へのショックを許容しなくてはならない。インフレ目標の下、この目標指数におけるそのセクターのウエイトを減らしておくことによってこの調整は可能になる。それゆえ、他のパラメーターが同じであれば消費者指数で大きなウエイトを持つ部門のウエイトはこの目標指数においては小さくしておくべきなのである。
この基準でエネルギー価格はどうなるかを考えるのは教訓的だ。基準1では重い。ビジネスサイクルの変化の影響を大きく受ける。基準2は全然。エネルギー価格(もっと広く天然資源の価格)は他のどの部門よりもイデオシンクラティック・ショックの影響を受ける。米国における他のほとんどの価格と異なり、これらは波があり、グローバル市場の予測困難な動きを反映する。二つの基準を考え合わせ、エネルギー価格のS/N比を考慮すれば、国内経済に関する情報を収集するにはもっといい方法がある。
またエネルギー価格は柔軟価格の代表格だ。典型的な消費者が一日のうちに価格を何度も更新するのはガソリンスタンドだけだろう。だから間違いなく基準3に照らしてもエネルギー価格に重きを置くメリットはない。
もちろんこの論文の教えは、エネルギー価格の話より広い問題を提示している。
我々は価格指数を作るときに何らかの物品のバスケットをベースにしている。消費財のバスケット(CPI)、生産に使われる中間財のバスケット(PPI)、最終生産物のバスケット(GDPデフレータ)だ。これらのバスケットは消費や生産におけるそれぞれの財の相対的なウエイトを正確に表そうと作られている。しかしその目標は安定化のために効果的な目標を提供する指数のデザインとは全然関係がないのだ。そして金融政策のためにデザインされたのではない指数を使うなら、それがうまく行かなくても驚くべきではないということになる。