美しいモデルと不都合な事実 by Scott Sumner

マクロ経済学者は確かにモデルが好きだ。マクロ経済学者は、何か新しくて興味深い様式化された事実に出会うと、即座にその事実を説明するモデルを作りたがる。実際のところ、マクロ経済学者がどれくらい自分たちのモデルが好きかというと、ときどき注意深くチェックするのを忘れてしまうほどだ — 問題の『様式化された事実』が、えー、事実であるかどうかということを。セントルイス連銀総裁ジェームズ・ブラードによる新しい論文を見てみよう。

これらは、ある能動的なテイラー型ルールと、名目金利のゼロ制約の組み合わせが必然的に新たな長期的結果をアメリカ経済にもたらすということを示唆している。この新たな長期的結果はデフレーションと非常に低水準の名目金利をもたらす可能性がある。それどころか、現在すでに重要な経済大国がまさにこの状況に陥っている:
日本である。

なんとも大胆な主張だ。日本は本当にデフレの罠に陥っているのだろうか?ぼくは、その証拠を求めて読み進めた。残念ながら、全くそういう証拠を見つけることはできなかった。日本が非常にマイルドなインフレ率を経験していることを示すグラフが一つあった。しかし、日本銀行は超保守的で、マイルドなデフレを好んでいるんじゃなかったっけ。実際、このことは広く理解されているものと思っていたが、どうやらそうではないようだ。

ぼくが正しいかどうか知る手段はあるだろうか?幸いなことに、上記の論文がまさにその答を、数ページ後に提供してくれている:

しかし、日本で観察される名目金利はほとんど0〜50ベーシスポイントの間に集中している。政策金利をゼロ未満に引き下げることはできず、また政策金利を引き上げる理由はない(インフレ率はすでに『低すぎる』)のだから。このロジックが日本を低い名目金利の定常状態に閉じ込めてきたように思われる。ベンハビブらはこれを『意図しない』定常状態と呼んだ。

ふーん。インフレ率が『低すぎる』。日本は『意図しない定常状態』に閉じ込められている。で、答はいったいどこに?簡単だ。カギカッコの中にある。日本銀行はインフレ率が『低すぎる』間は決して金利を上げようとしないだろう。そんなことは無意味だから。ぼくもそう思う。問題は、日銀が2000年代に実際に金利を上げたということだ。つまり、西洋の経済学者たちが日本のインフレ率が『低すぎる』と判断しているとしても、日銀がそう考えていないのは全く明らかなのだ。

もちろん、日本がいかなる種類のデフレギャップ(ママ)にもはまってなんかいないことが分かる理由は他にもたくさんある。彼らは、2008-09の大デフレ危機の真っ只中で、円高を容認した。2006年にはインフレを防ぐためにマネタリーベースを劇的に減少させた。実際、日本のインフレ率がゼロに近づくたびに(下方からね)、日銀はほとんどいつもなんらかの引き締めを行ってきたようなんだ。

でも、こういった美しいモデルがあるというのに、いったいなぜ事実と問題を起こすなんてことがあるんだい?マクロ経済学者は日本がなぜ・どのようにデフレに陥ったかを説明するモデルを100個は作っているはずだろう。哀しいことに、そういうことは一度も起きていない。極めて巧妙なモデルではあるけれど。

こんなに皮肉屋になるべきではないかもしれない。だって、ブラードの論文は他のどんな論文と比べてもこの点ではマシな方なんだから。そして、他の点では、ほとんどの論文よりもずっと優れている。最後に、ブラードの結論の数段落を引用して前向きな記述で終わることにしよう。

2010年の春、グローバル金融市場を揺さぶったヨーロッパのソブリン債務危機は世界経済への負のショックであり、民間セクターは米国の金利正常化の時期がこれで遅れるに違いないと認知した。それは、よりインフレ促進的な政策であると思う向きもあるかもしれないが、TIPSに基づく5年および10年の期待インフレ率の計測値は50ベーシスポイントも低下したのである。

ゼロ金利に長期間とどまると約束することは諸刃の剣である。この政策は、この約束への反応としてインフレ率および期待インフレ率が上昇するという考え方と整合的であり、そしてこれは最終的にアメリカ経済を図1の目標均衡へ戻すであろう。しかし、この政策はまたインフレ率およびインフレ期待が逆に下落し、アメリカ経済が(日本がこの数年そうであったように)意図せざる定常状態の近傍に落ち着くという考え方とも整合的なのである。

アメリカ経済にこのような結果をもたらすのを避けるため、政策担当者は進行しつつある負のショックに対して、別のやり方で反応することができる。現在のアメリカの政策では、負のショックへの反応は低金利により長くとどまる約束であると受け止められているが、これは永続的な低い名目金利をもたらすかもしれず非生産的である。負のショックへのより優れた政策的反応は、資産買い入れを通じて量的緩和プログラムを拡大することである。

まさにその通り!予測可能な期間ずっとゼロ金利を約束するというのは、まるで予測可能な期間ずっと失敗を約束するようなものだ。ゼロ金利というのは不景気に沈んだ経済で起きるものなんだから。量的緩和の方がずっといい。さらに、量的緩和を物価水準あるいは名目GDPターゲットで補完すればもっといい。(セントルイスでマネタリズムが完全には死に絶えていないということがわかってよかった。)

追伸 日本の、ほんのわずかな利上げについてぼくが屁理屈を言っているように思うかもしれない。日本が低金利『にもかかわらず』マイルドデフレを経験したという事実をぼくの理屈で説明できるだろうか?簡単だ。大昔にミルトン・フリードマンが指摘したことだが、マイルドデフレを予測すれば結果として極めて低い金利となるんだ。マイルドデフレをターゲットにすれば、金利はまさに予測通りに振舞い(低くなり、しかしときどきインフレの発生を防ぐためにちょっと上がる)デフレの罠に陥っているなら、全く予測通りには振舞わない(金利はゼロに張り付き、決して上昇しない)。


オリジナルポスト:Monetary Illustion “Beautiful Models and Inconvenient Models” by Scott Sumner on July 29th 2010