日本のQEが機能しなかった理由 by Scott Sumner(25. March 2011) 

スコット・サムナーのブログから、Why Japan’s QE didn’t “work” (March 25th, 2011) を翻訳紹介。 さっそくコメ欄で Excellent, excellent, excellent post とか言っている人がいました。反論したい方は参戦してみてはどうでしょうか。


Michael Darda氏に日本のマネタリーベースについての興味深い情報を頂いた。

このデータを見る幾つかの方法がある。過去20年のベースマネーの成長率はその前の20年よりもだいぶ下がっている。よって日本のQEが効かなかったと主張するのは当たらない。彼らはベースマネーをQEをしなかった頃の半分すら増やしていないのだから。

他方、過去18年間の日本の名目GDPは概ねフラットだった。すなわちベースマネーの成長率が名目GDP成長率(NGDP)を上回っており、貨幣循環速度が低下したと分かる。QEが効果的でなかったように見えるのはこのためだ。特に、ベースマネーを40%近く増やした短い期間は。

もっと詳しく見ると、ベースを一気に成長させたのは一時的に過ぎず、たったの2、3年で回収しているとわかる。まず、デフレーションが初めて大問題となった1990年代末期のQE。このほんの1,2年後にベースの小さな下落が見られる。2002-2003年の不況期にはより大きなQE「発作」があったが、経済がほんの少し上向くと再びベースを激減させた。これはQEが機能しなかったことを表わしてはいない。一時的な貨幣注入がNGDPにほとんど影響しないことを示しているに過ぎない。これはもう誰もが知っていることだし、少し考えれば自明なことである。

2000年と2006年のベースの下落は偶然ではなかったかどうしてわかるかって?どうして日本銀行の意思で金融引き締めされたとわかるかって?その答えは二回とも日本銀行が金利を上げていたからだ。そんなこと、流動性の罠の中にある中央銀行がすることじゃない。決してね。

この事実を見て、そもそも中央銀行にはNGDPを押し上げる力がないのではないかと受け取る人もいる。バカな。NGDPを引き上げたい中央銀行がどうしてマネタリーベースを減らす?どうして金利を引き上げる?別の見方もある。日本銀行はインフレを防ごうとしたのだと。CPIがゼロを超えると彼らは必ず金融政策を引き締めてきたよ。もし私の仮説が正しければ、いったいどんな経路なら日本のマネタリーベースを説明できることになるだろうか?その答えはびっくりするものになる。そして観察データとほぼ正確に符号する。理由は以下。

1. 1970-90の期間と1991-2010の期間を比較するとインフレ率のトレンドが急落しているので、名目金利はゼロに近付いた(フィッシャー効果)。そうなるとベースマネーの実質需要が大幅に引き上がるか、貨幣循環速度が大幅に下落する。1990年以降の日本に観察されたのは正にこれ。

2. ゼロ制約に近付くとベースマネー需要が不安定になる。景気が悪くなるとマネー需要が幾分高まり、深刻なデフレを避けるために日本銀行は大量のベースマネーを注入しなければならなくなる。それが1990年代末期と2002-03。状況が少し良くなるとマネー需要は下がり、日本銀行はインフレを避けるためにかなりのベースマネーを引き上げる。これが2000年と2006年に起こったこと。 

3. 彼らは注入したベースマネーを全部引き上げることはしない。ゼロ金利下では流動性需要が永続的に増加することを思い出そう。  
 
 ベネット・マッカラムはかつて、Fedが直前四半期における貨幣循環速度の変化を吸収するようにマネタリーベースを調整する方法を提案した。こうするとNGDPの安定を保ちやすくなる。マッカラムはNGDPをマイルドかつ安定的な率で成長させようと提案したのではないかと思う。日本人は基本的にこの政策を採用していたのではないか。ただしNGDPゼロ成長目標で。いや、彼らが意識的にそんな行動をとっているとは思わない。しかし、もし日本銀行がNGDPを安定に保ちたいとかGDPデフレーターをマイナス1%に保ちたいと思っていたならば、まったく同じ行動をしていれば良かったと考えてみるのは興味深い。

日本のQEは機能していた。彼らは安定なNGDPを得た。次の疑問は、どうして彼らがあたかもこの奇妙な政策目標を採用してききたかのように行動したか、である。何人かの人たちは「日本」には固定収入を好む老人がたくさんいるからだと言う。しかし「日本」は個人ではなく、国家だ。日本銀行がやっていた安定NGDP政策に従うことを「日本」が決めたわけではない。日本銀行が経済をデフレ化しているのと並行して、政府はNGDPを押し上げようと高額な建築プロジェクトなど積極的な財政政策を打ち、その結果日本は多額の負債を負った。日本銀行はこの努力を妨害した。そう、安定NGDP目標政策(もしくはマイルドなデフレ目標政策)を採用しているのは「日本」ではなく、日本銀行だった。ますます妙なことだが。