雇用なき回復という神話 by Scott Sumner  

スコット・サムナーのブログから “The myth of the mysterious jobless recoveries“(5. March 2011)を翻訳紹介。 「横穴を掘る(digging sideways)」という表現は面白いです。中央銀行によって名目成長が抑制されると、経済は賃金上昇率を抑制して実質成長を確保するというイメージですかね。ずっと横穴掘ってますよね。


 

きのうPBSラジオを聴いていたら専門家たちが最近の景気回復は雇用に結びつかないと不思議がっていた。それで数字を調べてみたのだが、そもそも「雇用なき回復」という考えがほとんど神話に過ぎないとわかったよ。ほとんど、と言うのはオークンの法則の検証すればそこには多少の真実もあるだろうが、そこには大きな謎はなかったということ。つまり、謎とか謎じゃない以前に、そもそも雇用なき回復の証拠がない。 

これは最近の4回の不況における回復の初期1年半のデータ。 

期間                NGDP 成長率       RGDP 成長率      失業率の変化 

1982:4 – 84:2      11.0%                          7.7%                        – 3.4% (points) 

1991:2 – 92:4        5.9%                          3.1%                          +0.8% 

2001:3 – 03:1        3.8%                          1.8%                          +1.0% 

2009:2 – 10:4        3.9%                          2.8%                          -0.1% 

失業率の変化の数字を、循環が底を打った直後の18ヵ月で取った。レーガンの回復ではRGDP(実質GDP)は急上昇し失業率は急落した。2002年はRGDP成長がトレンドのかなり下で、失業率は上昇した。2009-10 はRGDPがトレンドの水準で成長しているので失業率は安定している。以上は当然だ。1991-92だけはRGDPがほぼトレンドで成長していたのに失業率が0.8%上昇していてはいるが、そんなものだろう。いったいどこに近年「雇用なき回復」の傾向に向かっているという証拠がある?私に見えるのは雇用なき回復でなく、ここ三回の不況では最初の1年半、全然回復していなかった(トレンドに対して)ということだけだ(訳者注:「名目の回復期の初期に実質の回復が起こっていたわけではない」ということと思われる)。我々は三回深い穴に落ちて、横穴を掘り始めたのだ。 

そう確かにここ三回の不況はそれまでの不況とは大きく異なるが、それは「回復」の初期一年半の間は全く回復していないところが違う。1983年も異常値ではない。1980年は回復期間の長さ自体が1年半よりずっと短かったし、戦後の不況は回復初期の一年半5%~10%のRGDP成長をしていた。 

正しくは「最近の不況回復期はどうしてRGDP成長がこんなにゆっくりなのか」と問うべきだ。何が言いたいかわからない人は私のブログの新参者だな。 

「雇用なき回復」ではなく「雇用なき不回復」であり、正確には「MVなき不回復」だっただけ。 

それ自体は悪いことではない。前の二回の不況は the Great Moderation 期間の狭間だった。おそらくFedは回復期間にやや引き締め気味にすることで、緩和が長期間続くようにしたのだろう。しかし今回の厳しい不況で引締める理由はない。3.9%のNGDP成長では横穴を掘るどころではない。横穴を掘りつつ少し下にも掘っている。もし賃金の柔軟性がなければ3.9%のNGDP成長はもっと高い失業率を引き起こしたていただろう。実質成長はトレンドのかなり下なのだから。実際には標準以下のNGDP成長環境でも概ね平均的なRGDP成長を確保できる分だけ賃金上昇率が鈍化した。つまり、我々は横穴を掘っている。 

もちろん最近のデータは上向きだし、Fedの見通しが正しけれは2011年のうちに回復するのだろう。Fedが何故2010年にもう少しNGDPを成長させなかったのかは不明だが。 

ポール・クルーグマンは最近の不況の特徴としてバランスシートやバルブ崩壊などの構造問題が関係していると論じる。それらもある程度は正しいだろう。しかし、私はそれらの要因がどの関わってNGDP成長を減速させたかを問題にする方が有益だと思う。それらはFFレート目標の変更とNGDPの変化の間の有益だった関係を破壊したのではないだろうか?私はそう思っている。おそくインフレ目標政策(水準目標ではなく)でもそれなりの役割を果たすだろう。物価水準目標はV字回復をもたらすだろうが、インフレ目標ではL型回復だろうね。